③
「いやぁ。すべて、私の思惑通りに進んで良かったよ。邪魔な蔦蔓家を一網打尽にできたんだから」
「……」
御機嫌な萌葱とは裏腹に、唇を鳥の肛門のようにとがらせる鸚緑。
「何だい?その不満そうな顔は?」
「当たり前です‼白彩姉様を殺そうとした母上だけが、お咎めなしだなんて‼」
邪神に色彩眼を乗っ取られ昏天黒地の状態であった柢根は、まともな思考ができない状態だった。加えて、彼女の身に邪神が巣喰っていることを知りながら、放置したばかりか利用して軍に取り入ろうとした蔦蔓家にはより重い処遇が下されるだろう。
「確かに、犯罪を犯したのには邪神に唆されたのもあります。しかし、邪神はあくまで、母上の本心を引き出したに過ぎません」
「罰はもう受けているんだ。これ以上、とやかく言うな」
法的処罰は下されないが、柢根は両眼を失明し、全身に火傷が広がっている。彼女は今後、人の介護なしにはまともな生活は送れない身体となった。
それでも、不満を述べるので萌葱は、「母上を罰するということは、私たち支乃森家全体が処罰されるってことなんだよ。あんたは自分が可愛くないのかい?」と自分が苦労する道でもあることを教える。
それに対して、「えぇ。そうですよ。白彩姉様を守れない僕なんて、このまま罰せられた方がいい……」と弱音を零した。
「本当に白彩のことが好きなんだね。だったら、あの子のこと、諦めて良かったのかい?」
「好きだからこそ、諦めたんです。彼女の幸せは
「……ふ、ふはははははぁ‼」
突如、萌葱が盛大に笑い出す。何ごとかと鸚緑が怪訝な顔をするが、「そこまで好いているなんて、対してもんだよ」と弟の頭をこねくり回す。
「ちょっと、何を――」
「だったら、余計に強くなんな」
萌葱は一枚の紙を鸚緑に渡した。そこには、数十年前に開拓された北の大地
「邪神討伐第七部隊を務める隊長はかなり稀有な人柄らしくて、入隊できる年齢に満たなくても雑用という形で鍛えてくれるそうだ」
「えっ⁉」
「数年間、家の仕事をやって、築き上げた私の人脈に感謝しなよ」
「僕が……邪神討伐部隊に……」
「まぁ、行くかどうかはお前次第だ。行くのなら、覚悟しとけ。雇ってはくれるらしいが、かなり厳しいらしいからな」
言うことすべて言い終わった萌葱は、部屋から出ていく。姉の背中を見ながら鸚緑は、「どうして……こんなことを?姉様は、僕のことが嫌いなんじゃないの?それに、白彩姉様も助けたのだって、蔦蔓家を排除したかったからだけではない気がします……」。
「……嫌いではないよ」
「えっ……」
「揶揄い甲斐のある弟ってところだな。第七部隊の隊長に扱き使われて、ひぃこら言う惨めて可愛い姿が見たいんだ」
―あれ……。もしかして、姉様って……—
「それに、白彩も可愛い。私が本心から『可愛い』って言うと、逆の意味に捉えてしょんぼりする姿が堪らない」
―ただたんに、人をいじめるのが好きな性格なんじゃ……—
「じゃあ、ばいばい」
そうして、今度こそ部屋を出て行った。ずぅと、関りを避けていた姉の性格を理解しはじめた鸚緑だった。
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