第23話 【side】フィー


――――やっと……夢にまで見ていたキアとの婚姻が発表される……。一方で、その安寧の幸せの日々のために、片付けないといけない問題がある。

ベッドの脇に隠してあるものは、まだキアも知らないだろう。


その鏡は金属製で、普段は何も映すことはないが、魔力を流せば途端に外の世界と風景を繋げる。


「何せこの膨大な魔力のせいで、ほとんど外には出られない」

しかしながら、適度に発散させなければさらに重篤な状態になる。

それに……。


「やっと手に入れた愛しい妻のため、魔力は惜しまない」


そして、鏡がある風景を映し出した。


――――――


「はぁはぁ、どう言うことなのよ!」

「はぁ!?わしに聞くな!わしだって、どうなっていることやら!」

王城へと向かう囚人用の馬車には、かつてのメローディナ公爵夫妻が乗せられていた。


彼らはやっとまともな馬車に乗れるのだと喜んでいたものの、かけられた手錠は外されることもなく、窓もない暗い馬車の中に押し込められて何時間もかけて馬車に揺られながらようやっと馬車が止まり、馬車の扉が開く。


顔を輝かせた彼らの前にいたのは見慣れない敵兵ではなく、王国の騎士団の制服を着た男たち。


「王国の騎士団よ!」

「早く!早くこの手錠を外してくれ!」

しかし彼らは乱暴にかつてのメローディナ公爵夫妻を馬車の中から引きずり下ろし、剣を突きたてながら歩けと命じる。


きゃんきゃん騒いでも結局は騎士たちに尻を蹴られ、とっとと立って歩けと急かされる。


泣く泣く手錠をはめられたまま騎士団についていき、それぞれ別々の牢屋へと連れてこられた先で、彼らは自分たちの娘と再会する。彼女もまた、ここに連行されていたのだ。


「ちょっと!どう言う事よ!ここから出しなさいよ!」

しかしいくら娘のマリーアンナが叫ぼうと、応える声はない。夫妻ですら、自分たちが助かることが第一。娘のことにまで気が回らないとは……なんと薄情な。そう育て上げたのは彼らの自業自得だろうが。


「わしは公爵だぞ!メローディナ公爵だ!」

「私だってメローディナ公爵家の夫人よ!あなたたち、私たちにこんなことをして、ただで済むとっ!」

そしら彼らも娘そっちのけで叫ぶが、訴え虚しく騎士たちは颯爽と牢屋を後にしてしまう。


しかし、暫くして牢屋にやってきた騎士たちが、メローディナ公爵令嬢・マリーアンナの牢の扉を開ける。


「出られるの!?私、ここから出られるのね!!」

ぱああぁぁっと顔を輝かせマリーアンナは叫んだ。その声を聞き、他の牢に入っていた彼女の両親が騒ぎ立てる。


「ちょっと!私たちは!?」

「わしもここから出せ!おい!聞いているのか!」


「あっかんべ~っだ!」

ひとりだけ、手錠をつけられたままではあるものの両親の牢の前を通り、外に連れ出されたマリーアンナは自身の両親を嘲笑う。

その態度に再び火をつけられた両親は怒り狂うが、やがて静寂が訪れると夫人のしくしくと泣く声とかつてのメローディナ公爵の嗚咽だけが虚しく響きわたる。


――――一方で。


「ねぇ。早くこの手錠、外してよぉ~」

一方、ひとりだけ牢から出されたマリーアンナは騎士たちに悪態をついていた。


「外してくれたらぁ~、私、いいことしてあ・げ・る!」

そうやって媚びを売るものの、騎士たちは一切無視し彼女をとある部屋へと押し込んだ。


そこには恐い顔をした女性たちがマリーアンナを待っていた。そして騎士が手錠を外せば、マリーアンナは女性たちに抵抗もできない強い力で引っ張られていく。


「やだ――――っ!!放して!放してよぉ――――っっ!!!何で、何でこんなことするのぉ――――っっ!!?」

すると年かさの騎士が告げる。


「貴様の両親は帝国の領土に不法入国した挙句、その土地を自分たちのものだと主張し帝国兵に捕まり、捕虜となった」


「そ、そうよ!あそこは私たちメローディナ公爵家の土地よ!」

マリーアンナは大声で主張するが騎士はその言葉を無視し、再び言葉を続ける。


「だが、貴殿は我が王国の第2王子であるヴィクトリオ殿下の伴侶であることが明らかになった」

「ヴィックと伴侶!いつの間に!?あぁ、だから私だけ助かったのね!!」

騎士はマリーアンナの言葉に肯定も否定もせず、ただ淡々と告げる。


「さらに此度は王子殿下の御婚姻発表と、また栄転の発表がなされるパーティーに特別にそなたら夫妻が国王陛下に招待された。これからそなたにはヴィクトリオ殿下と共にそのパーティーに参加してもらう」


「え、婚姻発表!?やったぁっ!てことは、遂に私は王太子妃!未来の王妃よ!やったぁ!王太子妃になったらまずは何をしようかしら?まずはうじうじうるさい父さまと母さまは追放しなきゃ。父さまはお金がないってお洋服や宝飾品を買ってくださらないし、母さまは母さまでいい宝石を私よりも先に全部とっちゃうんだもの!だからあのふたりはいらない!ヴィックは王太子になるんだからぁ!まずは邪魔な妾の王子を左遷してもらおう!うっふふ~~~っ♪」

マリーアンナは上機嫌で侍女たちに体を洗われ、そして化粧を施され、髪を結い上げキレイなドレスを着せられた。

そしてとある冒険者が手ずから素材を集めて組み立てた、禍々しい宝石がはめられたネックレスと腕輪と足輪を付けられた。


「ふふんっ!宝石はかわいくてきれいだけど、土台の部分は黒くて無骨ね」

マリーアンナは宝石がはめられた黒い首輪、腕輪、足輪をみやり、呟く。

だがそれがいま王国内で最新のはやりでヴィクトリオの隣に立つにふさわしい宝飾品なのだと教えられれば喜んで受け入れた。

そして自身を守るように囲う騎士たちに案内され、上機嫌でヴィクトリオの待つ控室へと向かったのだった。


――――――


「本当に、滑稽な生き物たちだ」

お前たちがキアを苛んだことは、俺はまだ許していないし、許すこともない。


それから……兄上を邪魔だの妾だの……不愉快極まりない連中だ。恐らく自分たちの立場も分かっていないのだろう……?


「だからせいぜい楽しんでくれ」

そのアクセサリーは、お前たちのために用意された特注品だからな。


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