第21話 王太子夫妻と晩餐会
――――離宮
「本日は、お越しいただきありがとうございます」
離宮の入口で私はジークさんと一緒にマティアス王太子殿下とクレア王太子妃殿下をお出迎えした。
クレア王太子妃殿下は帝国から嫁いでいらした姫君だ。水色がかった銀髪に、淡い菫色の瞳の美女である。
装いは水色の上品なドレス。それに並ぶマティアス王太子殿下の淡い菫色のスーツもステキで。あっ!お互いの瞳の色を取り入れた装いに思わずどきっとしてしまう。
かくいう私は翡翠色だとクレア王太子妃殿下と被るかもしれないと今回はフィーの髪の色である濃い紫色の髪飾りを付けた。そして妃殿下より目立たないように落ち着いたライトグレーのドレスを身に纏っている。
フィーも本日は私の瞳の色であるローズレッドのアスコットタイを取り入れたシックな黒のスーツだ。
本当はフィーも少しなら歩けると一緒に出迎えると言ったのだが、フィーの体調の方が心配だと、マティアス王太子殿下が仰って下さりフィーは先に席で待っていてもらっている。
お席までおふたりをご案内するとフィーがレナンに支えられながら立ち上がり、一礼する。
マティアス王太子殿下はそのまま座っていていいとフィーに合図し、簡単に互いの挨拶を済ませる。そしてマティアス王太子とクレア王太子妃殿下に席についていただき私が席に着くと、レナンや侍女となったお姉さま方が料理を運んできてくれる。
普通こういった晩餐の場合はコース料理かもしれないが、今回はマティアス王太子殿下自ら冒険者スタイルがいいなと仰り……念のためフィーからも確認してもらったら本当にそれがいいみたいで。
むしろクレア王太子妃殿下もそれに興味を持っているようで、是非とのことだった。見た感じ深窓のお姫さまのようで興味ありげには見えないのだけど。
4人掛けのテーブルの上に、いくつもの大衆料理が並べられて行く。あまり目にすることのない大衆料理の数々に、マティアス王太子殿下もクレア王太子妃殿下も驚いているようだ。
「これはすごいね。全て、キアラが作ったのかい?」
と、マティアス王太子殿下。
「えぇ。侍女たちにも手伝ってもらいましたが。あと、食材はレナンや冒険者の知人が協力してくれました」
「まぁ……っ!」
クレア王太子妃殿下も感心しているようで物珍し気に様々な料理を見ている。
「クレア、気になるものでもあったかい?」
マティアス王太子殿下がクレア王太子妃殿下に問うと、クレア王太子妃殿下は控えめに一つの皿を示した。
「こちらはラムマトンと言う魔物の肉を使ったシシカバブです。串のまま食べるのが普通ですが、食べづらければお肉を串からはずしましょうか?」
「い、いえ!どうやって食べるのが作法なのかしら」
「では、失礼します」
私がシシカバブを持ってがぶりと食らいつけば、マティアス王太子殿下とクレア王太子妃殿下は驚いて見ていた。
フィーは何度かご馳走して慣れているので私に続いて口をつける。
「へぇ、フィーもうまいね」
「キアが作った料理はすべておいしいので、兄上もどうぞ」
も、もぅ。フィーったら!
すべておいしいだなんて、持ち上げすぎだし。
けれど、ふたりも恐る恐る串を持って上品にお肉を頬張る。はっ!!あれが、上品な串焼きの食べ方っ!私もマネしないと。
「とってもおいしい!」
「そうだね、クレア」
おふたりとも気に入ってくださったようだ。
「指先はこちらで拭いてください」
と、おしぼりを差し出せば、クレア王太子妃殿下がそれを受け取ってくれる。
そして、指先の拭き方まで上品っ!!
私がそれに魅入っていると。
「ふふ、キアラはクレアを気に入ってくれたかい?」
と、マティアス王太子殿下。
「はい!その、とてもおきれいで動作のおひとつおひとつが、国宝級かと思います!!」
「まぁっ!光栄ですわ」
「ははは、私よりもクレアを褒めるのがうまいね」
「いえ、そんな!」
「私もキアラさんとお呼びしていいかしら?」
「えぇ!もちろんです!」
「では、私たちのことは兄、姉と呼んでもらわないかい?キアラも籍を入れたのだし、私たちも、ねぇ?」
「はい!マティアスさま。そう呼んでいただけると嬉しいわ。あとフィーくんにも」
そう、クレア王太子妃殿下いえ、クレアさまが仰ってくれて。
「はい、クレアお姉さま、マティアスお兄さま」
「では、私もクレア姉上と」
そして、互いに微笑み合った。
「さて、次はどれにしようか?」
「お肉を食べたので、こちらのミックスベリーのサラダはいかがですか?」
私が示したお皿には森などで採れる木の実がたくさんあしらわれたフルーツサラダが盛られている。
「まぁ!色とりどりでステキね」
「味もさっぱりしていて甘さがくどくないのでおススメですよ」
「では、いただこうか。クレア」
「はい、マティアスさま」
わぁ!クレアお姉さまはこちらに来られてすぐに婚姻されたそうだけど、とても仲良しでステキな夫婦!
「わぁ、おいしいわ。王国には本当にいろいろな食べ物があるのね」
「あぁ、クレアも気に入ってくれると思っていたよ」
おふたりの仲の良さを見やりながら何だか憧れてしまう。
「キア」
フィーが私の名を呼ぶ。
「俺たちだって、負けていない」
「フィーったら」
そんな私たちのやり取りを見てマティアスさまは。
「フィーは負けず嫌いだからな」
と、微笑みながら教えてくださった。
フィーったら。何だかかわいい一面を知ってしまった。そして本日の晩餐会は、もちろん大成功であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます