第20話 大切な友人たち


サロンでは、お菓子を摘まみながら、しばしの雑談を楽しんでいた。


「最近のギルドはどう?」

「私のキアがいないから……みんな寂しそう」


「ごめんねぇ、リア。もうすぐ何とかなると思うから」

そうしたら、一度挨拶に行かないと。エリオットさんにも最近挨拶してないし。


「……むぅ」

残念がってくれるリアもかわいいなぁ。呑気に眺めていれば、ふと、フィーが口を開く。


「キアは愛されているね」

「お陰さまでね」


「でも……キアは俺の妃だからね」

ん……?その独占欲みたいなのは……まさか……っ!


「こら、リア姉っ!キア姉はフィーさまの妃なんだぞ……っ!」

レナンも気が付いたのか、慌てて立ち上がる。


「何て失礼なことを……っ、姉が申し訳ありませんっ!」

レナンがフィーに頭を下げる。


「だけどキアは……私たち冒険者ギルドのアイドル」

リアったら……アイドルはリアたちの方だと思うのだが……リアが私を、いや……ギルドのみんなや冒険者たちが私を大切に思ってくれているのも、分かるのだ。


「だからキアを泣かせた時は……キアは冒険者ギルドで引き取る」

「リア姉っ!」

レナンは焦るが、反対にフィーはと言えば。


「ふ……っ」

吹き出した……?


「ははは……っ、そうか。なかなかいい度胸をしている」

セリフはちょっくら恐いけど、でも、何故かフィーは楽しそうだ。


「キアはようやっと手に入れた俺の唯一だ。泣かせるなどあり得ない」

そう言うこと……さらりと言えてしまうのだから、このひとは。


「だからお前たちには渡せないが……しかし、そこまでキアを思ってくれる友人ならば、これからもキアと仲良くしてくれ」

「……王子、キレないのか」

リアが驚いたように呟けば、レナンが逆にキレそうなのだが。


「俺はなかなかに懐が広いと思うぞ」

「うむ……さすがは同志。これからも……」

「あぁ」

同志って……何の同志かしら。しかし何故か固く握手を交わすふたりに、レナンはへなへなと力が抜けたようだ。


そして気分転換も兼ねて、庭園にやって来た。縁側に腰掛け、離宮の美しい庭園を一望する。その一方で、広々としたエリアは訓練用。最近は冒険者のお姉さまたちも利用している。


「ところでショコラ、付いた時にちらっと言っていたけど……」

「あぁ……それね!実はこの間、お父さまに頼まれて、パーティーに参加したのよ」

キャルロット公爵ことお父さまは、ショコラが仕事ならばひとりで参加するが、ショコラの予定があったり、事業の関係で参加させたいときは、ショコラと共に参加する。

公爵夫人であるお母さまは忙しくてなかなか来られないから。


「そうしたらいたの……!」

何だか、嫌な予感がするわね。


「あのマリーアンナよ!」

「あぁ……あの」

私は国の重要な式典以外、パーティーには出席していないが、ショコラは何かとあのトラブルメーカーとパーティーで遭遇するそうだ。


もちろん公爵家の護衛や取り巻きがショコラには接触させないようにするものの、隙あらばショコラに敵対心を向けるのだ。

社交界のショコラは見た目も中身も、マリーアンナには到底及ばない、本物のお姫さまよ……?

私に喧嘩を売っているのと同様に振る舞っているのだろうが、まず家が違うし、キャルロット公爵家はメローディナ公爵家が足元にも及ばない別格よ。比べるのもおこがましいわ。

まぁ、私も今やキャルロット公爵家の人間になったので、他家となるが。


「しかもね、この間町で会ったけど、私がその時に一緒にいたこと気付いていなかったみたいだけど……」

社交界のショコラは、ギルドの受付嬢兼町娘の姿とは全くの別人のようにオーラが変わるから、よくあることではあるが……。


「いきなり私を名指ししてきたと思えば、ルークにもらった髪飾りを気に入ったから自分のものだと主張したの」

それは……もしお父さまではなくルークが隣にいたとすれば、みなに気付かれぬように痺れ針くらいは飛ばしそうだ。一応キャルロット公爵家の名に恥じぬ行動を取るはずだから、秘密裏に、誰にも気付かれず、証拠が残らないように。


しかしながらマリーアンナもマリーアンナよね。私に同じことを言っておいて、今度はショコラにとは。


「それでどうなったの……?」

お父さまがいたのだから、大丈夫よね……?髪飾りめ取られるわけはないと思うし。


「取り巻きや周りの貴族たちにドヤされてわんわん泣き始めたの」

そりゃぁそうなるわよね。みんなお父さまの激怒の方が恐いもの。


「あれ……そう言えばあのバカ王子は?」

「いなかったわね。何だか謹慎させられているって聞いたけど」

「え……そうなの……?」

フィーを見れば。


「兄上がいろいろと手を回しているようだ」

と、何かを含んだようににっこり。これは……深く追及しない方がいいパターンかしらね……?


「メローディナ公爵夫妻は……」

「王都にはいないみたいよ」

王都にいないなら、一体どこへ行ったのかしらね……?領地にはもうひとっこひとりいないはずだし……いたとしても歓迎はされないだろう。


「つまり、その困ったご令嬢は四面楚歌だね」

フィーがそう告げれば。

「そうですそうです……!むしろ、城のパーティーから絞め出しちゃえばいいのに!その騒動のせいで事業の話、全然出来なかったのよ。お父さまもカンカンよ?」

まぁ、ショコラが愛しの婚約者にもらったものを盗られそうになったことも、お父さまの激怒の要因のひとつだろうが。


「兄上も父上も、後が大変そうだな」

フィーが他人事のように笑う。

「んもぅ、フィーったら。あなたのお兄さんなのに」


「内緒でこっそりとキアに会いに来たことは、公爵にはばらさないであげたんだけどね……?」

ギク……ッ。王太子殿下……バレてますよ……!

しかしこれも兄弟愛か、お父さまの逆鱗を少しでも軽くすることには貢献してくれたようだ。


「あ……それとルーク兄さん、影で何かやってないわよね?ダメよ、証拠が残らないからって」

「……何のことだ」

しらばっくれても、妹の目はごまかせないわよ……っ!?

そしてフィーやリア、アリーたちが失笑しつつも、ルーク兄さんはレナンに呆れたような目を向けられていた。


しかし……今日は久々に友人たちとお茶をして語らい、とても楽しい1日であったことは確かである。

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