うさぎの公園
マツダセイウチ
第1話
幼少期、最寄駅の公園によく遊びに連れていってもらっていた。そこは広さは校庭より幾分広いくらいで、中央は芝生の広場で、人工の池や川、滝もあり、周りは雑木林になっていてまあまあ立派な公園だった。
その公園にはうさぎが沢山いた。数えたことはないが見た感じ30~40羽ぐらいはいたと思う。私はそのうさぎは公園で飼っているのだと思っていた。うさぎは完全放し飼い状態で自由に過ごしていた。遠くでパンの耳をうさぎに食べさせている人を見ながら、母に
「この公園のうさぎ、檻がないのにどこかに逃げたりしないのかな」
と聞いた。母もうさぎを見ながら答えた。
「このうさぎね、公園のうさぎじゃないんだって」
「じゃあ誰のうさぎ?」
「誰も飼ってないよ。色んな人がこの公園にうさぎを捨てるんだって。捨てうさぎだよ」
私は驚いてうさぎ達を見つめた。うさぎは噂されてるとは露知らず、集まってパンの耳を夢中で食べていた。
私は覚えていないが、当時うさぎブームがあったらしい。それでうさぎを飼ったはいいが何らかの理由で世話をしきれないあるいはしたくなくなった人間が、この公園にうさぎを捨てていくらしい。今はそういった事は随分減ったが、昔は飼いきれなくなったペットをその辺に捨てたりすることはよくある話だった。ニワトリやハスキー犬などが有名だ。欲しがっておきながら面倒になって捨てる。つくづく人間とは勝手な生き物だ。その勝手に付き合わされる動物たちはなんと気の毒な存在だろうか。
ペットなのに住み処もなく、守ってくれる人もいない。食事も保証はない。割かし悲惨な状況にも思えるが、うさぎ達はそれを特に気にしている様子もなく、草むらを駆けたり、公園にやって来た人々からエサを貰ったり気ままに暮らしていた。いや、もしかしたら本当は悩んでいたかもしれない。それを知る術は私にはない。
うさぎはだんだんと数が減っていき、私が小学校の高学年になる頃にはほとんどいなくなっていた。おそらくカラスや猫に食べられたり、車に轢かれたり、病気になって死んだりしたのだろう。飼っているわけではないので減るに任せているらしい。誰にも弔われず、悲しまれることもなく、うさぎ達は1羽、また1羽と姿を消していった。
あれから十数年経ち、私は大人になった。うさぎはもうあの公園にはいない。あの公園にうさぎがいたことは今の子供や若者は知らないことだろう。私ですら極たまにしか思い出さないし、周りでそんな話をする人もいない。でも確かにうさぎはいたのだ。あのうさぎ達は私を含む、あの光景を見ていた人々の記憶の中でまだ生きている。そして私達が死ぬとき、記憶の中のうさぎ達も死ぬ。誰も思い出すことはないだろう。あの公園にうさぎ達がいた証はないのだから。
でも誰かがこの文を読んでくれたなら、あのうさぎ達は死なずに済むかもしれない。人々の記憶の中で、永遠に日向ぼっこをしたり、パンの耳を食べたり、跳ね回ったりして生きていけることだろう。うさぎ達がそれを望んでいるかは分からないが、私はそうなってほしいと思っている。
うさぎの公園 マツダセイウチ @seiuchi_m
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