第24話「浅井の本音」
浅井健吾と大樹が対峙した翌日、浅井は再びカフェ「黄色いチューリップ」を訪れた。その日のカフェは比較的静かで、他の客がいない時間帯だった。浅井は店内に入ると、まっすぐに萌果のいるカウンターに向かって歩いていった。
「やあ、萌果。ちょっと時間があるなら、少し話がしたいんだけど」
浅井のその言葉に、萌果は少し驚いたが、彼の真剣な表情に気づき、静かに頷いた。
「もちろん、どうぞ」
萌果は浅井をカウンターの隅に招き、二人だけの空間を作った。浅井はしばらく無言で彼女を見つめた後、ゆっくりと口を開いた。
「萌果、君に率直に話さなければならないことがある。実は、昨日大樹くんと話したんだけど、その時に僕は彼に本当のことを言わなかった」
浅井の言葉に、萌果は驚きながらも続けて聞く姿勢を見せた。
「本当のことって、どういうこと?」
浅井は一瞬ためらったが、やがて意を決したように話し始めた。
「実は、僕は君に対してずっと特別な感情を抱いているんだ。都会で一緒に働いていた頃から、ずっと君のことを想っていた。でも、仕事やタイミングのせいで、その気持ちを伝えることができなかった」
浅井の告白に、萌果は息を呑んだ。彼がこんなに真剣に自分を想っていたことを知り、戸惑いと動揺が胸の中で交錯した。
「それで、昨日の大樹くんとの話では、彼に本当の気持ちを隠してしまった。彼を傷つけたくなかったし、君が幸せでいるならそれでいいと思ったから。でも、今、こうして君の前に立っていると、どうしてもこの気持ちを隠し通せないんだ」
浅井の目は真剣そのもので、彼の言葉には揺るぎない決意が感じられた。萌果はその言葉を受け止めつつ、自分がどう答えるべきかを考え始めた。
「でも、浅井さん……私には大樹くんがいるわ。彼とは今、すごく大事な関係を築いているの」
萌果の言葉に、浅井は静かに頷いたが、彼の目はまだ彼女を見つめ続けていた。
「分かってる。でも、君にとって本当に幸せなのは、誰と一緒にいることなのか、それをもう一度考えてほしい。大樹くんは良い人だし、君のことを大切にしているのはよく分かる。でも、僕は君にもっと違う未来を見せてあげられると思うんだ」
浅井はそのまま続けた。
「君と一緒にいたい、これが僕の正直な気持ちだ。僕と一緒に、新しい人生を考えてみてほしい」
その言葉に、萌果は動揺を隠せなかった。浅井が自分に対してこんなにも真剣な感情を抱いているとは思いもしなかったからだ。しかし、それでも彼女の心には大樹との絆が深く刻まれていた。
「浅井さん、あなたの気持ちは本当に嬉しい。でも、私は大樹くんと一緒に未来を築いていきたいと思っているの。それが私にとっての幸せなんだ」
萌果は静かに、しかし力強く答えた。彼女の言葉には、大樹への確固たる愛情が込められていた。
浅井はその言葉を聞いて、一瞬だけ表情を曇らせたが、やがて穏やかな微笑みを浮かべた。
「そうか……それが君の答えなんだね。僕の気持ちは変わらないけど、君の決断を尊重するよ」
浅井はそう言って席を立った。その姿には、どこか寂しさと諦めが漂っていた。
「萌果、もしも何かあったら、いつでも僕を頼ってくれ。でも、君が選んだ道を応援するよ」
浅井はそう言い残して、カフェを後にした。彼が去った後、萌果はしばらくの間、彼の言葉を反芻しながら、その場に立ち尽くしていた。
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黄色いチューリップのカフェで出会ったのは、年上で不思議な彼女。少しずつ心が癒されていく物語 🦞🦞ロブスターパニック🦞🦞 @lobsterpanic
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