第23話「浅井と真正面から向かい合う」

浅井健吾の存在が大樹の心に影を落とし続ける中、二人の間に避けられない緊張感が漂っていた。カフェ「黄色いチューリップ」での閉店後の夜、大樹はついに浅井と向き合う決意を固めた。


その夜、いつものように浅井がカフェを訪れた。彼は笑顔で萌果に挨拶をし、いつもの席に座ったが、大樹はその光景を見て心がざわつくのを感じていた。店内には他の客はおらず、静寂が二人の間に重くのしかかっていた。


大樹は心の中で何度も言葉を繰り返し、自分を奮い立たせてから、浅井に向かって静かに話しかけた。


「浅井さん、少しお話しできますか?」


浅井は驚いた様子で大樹を見上げたが、その表情にはすぐに冷静さが戻った。


「もちろん。何かあったのかい?」


大樹は席に座り、浅井と真正面から向き合った。彼の目には決意が宿っており、浅井もその真剣さに気づいていた。


「僕は、萌果さんが大切です。そして、あなたが彼女にとって大切な友達であることも理解しています。でも、正直に言うと、あなたの存在が僕にとって不安なんです」


大樹はその言葉を絞り出し、浅井の目をまっすぐに見つめた。彼の声には緊張と真剣さが混じっており、浅井もそれを受け止めるように静かに頷いた。


「不安か……大樹くん、君がどう感じているかは分かるよ。僕も萌果とは昔からの友人だし、彼女が幸せであることを願っている。でも、僕は君たちの間に入り込むつもりはないんだ」


浅井は冷静に答えながら、大樹に自分の気持ちを伝えようとした。


「僕が萌果と話しているのは、ただの友達としてだ。確かに僕たちは昔からの仲間だけど、それ以上の感情はないよ」


大樹は浅井の言葉を聞いて、少しだけ安堵したが、それでも心の奥には疑念が残っていた。彼はさらに自分の気持ちをぶつけた。


「そうかもしれない。でも、僕は萌果さんにとって特別な存在でありたいんです。だから、あなたが彼女にどんな感情を抱いているのか、それを知りたかった」


浅井はその言葉に一瞬考え込み、やがて真剣な表情で大樹を見つめた。


「大樹くん、僕は君たち二人が幸せになることを心から願っている。でも、僕が萌果に抱いている感情が完全に友情だけだと言い切れるかどうか……それは自分でも分からない」


その言葉に、大樹は息を飲んだ。浅井が正直に自分の気持ちを伝えていることを感じ取ったが、その言葉は彼の心をさらに揺さぶった。


「でも、僕は今の関係を壊したくない。それが君にとって辛いことなら、僕はここから離れることも考えるよ。君が彼女を本当に大切に思っているのなら、僕はそれを尊重する」


浅井の言葉に、大樹はしばらくの間黙って考え込んだ。そして、深く息をついてから答えた。


「浅井さん、ありがとう。でも、僕は逃げたくないんです。彼女にとっての特別な存在になれるように、僕自身が成長しなければならないと思っています。だから、あなたがここにいることで、僕がどう変わるかを見ていてください」


大樹の言葉には決意が込められており、浅井もその決意を受け止めたように頷いた。


「分かったよ、大樹くん。君の気持ちはよく分かった。これからも君と萌果のことを応援するよ」


浅井は穏やかに微笑みながら、立ち上がった。そして、カフェを後にする前に、大樹に向かって一言告げた。


「君は強い男だ。だから、きっと彼女にとって特別な存在になれるよ」


浅井が去った後、大樹はその言葉を胸に刻み、自分の決意を新たにした。彼はこれからも萌果との関係を大切にしながら、自分自身を成長させていくことを誓った。

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