第22話「心の奥底には引っかかるもの」
浅井健吾の登場以来、カフェ「黄色いチューリップ」の空気が微妙に変わり始めていた。大樹は萌果への気持ちが強くなる一方で、浅井との親密さが増す彼女の姿に、不安を隠せなくなっていた。
その日、浅井との食事の約束を終えた萌果がカフェに戻ってきた。彼女は笑顔で「ただいま」と言いながらカフェのドアを開けたが、大樹の様子はどこか冴えなかった。
「おかえり、萌果さん。楽しかったみたいだね」
大樹の言葉は穏やかだったが、内心では浅井との時間が自分との時間よりも楽しいのではないかと心配していた。萌果はそのことに気づかず、笑顔で返事をした。
「うん、久しぶりに昔話をして、懐かしい気持ちになったわ。でも、あまり昔の話ばかりするのも良くないね。今は今の時間を大切にしないと」
萌果の言葉に大樹は少しだけ安心したが、それでも心の奥底には引っかかるものが残っていた。
その後、カフェの仕事をしながらも、大樹は浅井と萌果の関係に対する不安がますます大きくなっていた。彼は自分がどうすべきかを悩み、ついにある決断を下した。
「萌果さん、少し話があるんだけど」
閉店後、カフェで二人きりになったとき、大樹は意を決して切り出した。萌果は少し驚きながらも、大樹の真剣な表情に気づき、彼の言葉に耳を傾けた。
「最近、僕……浅井さんのことが気になっていて、正直、君と彼の関係がどうなっているのか不安なんだ」
大樹は自分の気持ちを正直に伝えた。彼の声には不安と戸惑いが混じっており、彼がどれほど苦しんでいるかが伝わってきた。萌果はその言葉に戸惑いながらも、冷静に答えた。
「大樹くん、そんな風に思わせてしまってごめんなさい。浅井さんとはただの友達だし、過去の仲間として話しているだけよ。でも、あなたが不安に感じているなら、もっと話をするべきだったわね」
萌果は大樹の手をそっと握りしめ、その温かさを伝えようとした。大樹もまた、彼女の手を握り返したが、それでも心の中には消えない不安が残っていた。
「君のことを信じている。でも、浅井さんが君に対して特別な感情を持っているんじゃないかって考えてしまうんだ」
大樹の言葉に、萌果は一瞬考え込み、やがて真剣な表情で答えた。
「大樹くん、私はあなたが大切。だから、浅井さんとどう接するべきかを考えるわ。彼の気持ちがどうであれ、私が誰を大切に思っているかは、これからもしっかり伝えていくから」
萌果の言葉に、大樹は少しだけ心が軽くなったが、完全に不安が消えたわけではなかった。彼は自分の感情にどう向き合えばいいのか、まだ答えを見つけられずにいた。
翌日、浅井が再びカフェを訪れた。彼はいつも通り明るく振る舞い、萌果に対して親しげに話しかけたが、大樹はその姿を見て、胸の中に湧き上がる嫉妬を抑えることができなかった。
「今日はまた二人で食事に行くの?」
浅井がそう尋ねると、萌果は少し困ったように微笑んで答えた。
「今日はちょっと忙しいから、また今度ね。でも、また話しましょう」
その言葉を聞いて、大樹は胸の奥で何かがはじけるような感覚を覚えた。彼は自分が抱えている感情をどう整理すべきか分からず、思わずカフェの奥へと足を向けた。
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