第21話「浅井健吾、登場」

大樹と萌果の関係が少しずつ深まり、お互いにとっての特別な存在であることを実感し始めていた。しかし、そんな二人の前に、新たな試練が訪れることになる。


ある日、カフェ「黄色いチューリップ」に、かつて萌果が都会で働いていた時の同僚であり、旧友でもある男性が訪れた。彼の名前は浅井健吾(あさい けんご)と言い、都会でのキャリアを積んだ後、地元に戻ってきたという。


「萌果、久しぶりだな。まさかこんなところで会えるとは思わなかったよ」


浅井は明るく爽やかな笑顔を浮かべながら、昔と変わらぬ親しげな様子で話しかけてきた。その様子に、大樹は少し戸惑いながらも、彼に対して軽く挨拶を返した。


「浅井さん、こちらこそ久しぶりですね。地元に戻ってきたなんて、驚きです」


萌果もまた懐かしさに微笑みを浮かべたが、その一方で、大樹が彼に対してどこか引っ掛かるものを感じていることに気づいた。


その後、浅井は何度かカフェを訪れ、萌果と話をする機会が増えていった。彼は都会での仕事の話や、今後の地元での活動について語りながら、親しげに接してくる。そんな浅井の姿に、大樹は次第に不安を抱き始めた。


「浅井さんって、すごく優秀なんだな……」


大樹は浅井の都会でのキャリアや自信に溢れた態度に圧倒され、自分との違いを感じていた。彼は萌果に対する自分の気持ちが強まる一方で、浅井に対しての不安や嫉妬心が芽生えていた。


ある日の閉店後、大樹は思い切って萌果に話しかけた。


「萌果さん、最近浅井さんとよく話してるけど、昔から仲が良かったんだね」


その言葉には、無意識に不安や嫉妬の感情が含まれていた。萌果はそのことに気づきながらも、優しく答えた。


「浅井さんとは昔からの友達だから、話しやすいの。でも、安心してね、大樹くん。今、私が大切に思っているのはあなたよ」


萌果の言葉に、大樹は少しだけ安心したが、それでも心の中で引っかかるものが残っていた。浅井の存在が、二人の関係に影を落とし始めていることを感じ取っていたのだ。


その後も、浅井はカフェに頻繁に訪れ、二人の間に微妙な緊張感が漂い始めた。浅井の優しさや気配りが、萌果の心にどのような影響を与えているのかを考えずにはいられなかった大樹は、自分の気持ちをどう表現すべきかを悩み始めた。


「もしかして、僕は浅井さんにかなわないんじゃないか……」


大樹はその不安を誰にも打ち明けられず、一人で抱え込んでいた。そして、次第に萌果との会話でも、浅井の存在が頭をよぎり、素直に気持ちを伝えることができなくなっていった。


ある日、カフェでの会話の最中、浅井が不意にこんなことを言った。


「萌果、もしよかったら、今度二人で食事でもどうかな?都会の話をもっと聞かせてほしいし、昔話もしたいんだ」


その提案に、萌果は一瞬戸惑いながらも笑顔で答えた。


「もちろん、いいわよ。久しぶりにゆっくり話せる機会だし」


そのやり取りを聞いていた大樹は、心の中で焦りを感じた。彼の中で、萌果と浅井の関係がさらに深まるのではないかという恐れが一層強くなった。


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