第19話「大樹の決断」

夜が明け、大樹は自分の気持ちを整理するために、学校に行く前に少し早く家を出た。彼は一人で歩きながら、宮崎と萌果のことを思い浮かべていた。彼女たちの気持ちに応えるためには、どちらか一方を選ばなければならないことは理解していたが、それがどれほど難しい選択なのかを痛感していた。


「僕は……どうすればいいんだろう」


自分の中で繰り返されるこの問いに、まだ明確な答えが見つからないまま、大樹は学校へと向かった。


その日の放課後、大樹は再びカフェ「黄色いチューリップ」へ足を運んだ。彼はカフェの温かい雰囲気の中で、自分の気持ちにもう一度向き合うことを決意していた。ドアを開けると、萌果がいつも通りカウンターに立っており、優しく彼を迎え入れた。


「いらっしゃい、大樹くん。今日は少し早いね」


萌果の声に、大樹は少し微笑みながら席に座ったが、その表情にはどこか疲れが見えた。


「萌果さん、僕……今日は少し話がしたくて」


彼の言葉に、萌果は穏やかな笑顔で「もちろん」と応じた。しかし、その言葉の裏に緊張感が漂っていることに大樹は気づいていた。


「僕は……君と宮崎のことをずっと考えてた。二人とも本当に大切な存在で、それをどう表現すればいいのか分からなかった。でも、今はちゃんと決めなきゃいけないと思ってる」


大樹の言葉に、萌果は少し表情を曇らせたが、彼をしっかりと見つめた。


「大樹くん、私もあなたのことを大切に思ってる。でも、無理に答えを出す必要はないと思うの。あなたがどう感じているか、それを正直に話してくれることが一番大切だと思ってるから」


萌果の言葉に、大樹は少しだけ肩の力を抜いた。彼は彼女の優しさに感謝しつつも、自分の中で芽生えている答えに向き合わざるを得なかった。


「ありがとう、萌果さん。でも、僕は……」


その時、カフェのドアが開き、宮崎が入ってきた。彼女は大樹と萌果が話している姿を見て、一瞬ためらったが、意を決して二人の方へ歩み寄った。


「宮崎……」


大樹は彼女の突然の登場に驚いたが、宮崎の顔には決意の表情が浮かんでいた。


「黒羽、萌果さん。私も話さなきゃいけないことがあるの。私……やっぱりこの気持ちを諦めることができない」


宮崎の言葉に、大樹はどう返事をすべきかを迷ったが、その時、萌果が静かに言葉を紡ぎ出した。


「宮崎さん、あなたの気持ちは本当に分かる。でも、大樹くんもまた、私たちと同じように悩んでいると思う。だからこそ、私たちがどうするべきか、一緒に考えていくべきなんじゃないかな」


萌果の言葉に、宮崎は少しだけ目を伏せたが、その言葉に力を感じ、頷いた。


「そうだね……でも、黒羽、私の気持ちもちゃんと聞いてほしい。私は……あなたを大切に思ってる。そして、それはこれからも変わらないと思う」


大樹はその言葉を聞いて、ついに決断の時が来たことを感じた。彼は深く息を吸い込み、自分の心に問いかけた。


「僕は……」


彼は静かに口を開き、ついに自分の選択を告げようとした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る