第18話「数日後」
”あの日”から数日後、大樹は学校の帰りにカフェへ向かう途中、宮崎に会った。彼女は一人で歩いていたが、いつもより少し疲れているように見えた。大樹は声をかけるべきか迷ったが、結局、意を決して宮崎の名を呼んだ。
「宮崎!」
彼女は立ち止まり、大樹の方を振り返った。彼女の目には戸惑いと疲労が見え隠れしていたが、それでも微笑んでみせた。
「黒羽……どうしたの?」
大樹は少し躊躇いながらも、彼女に近づき、真剣な表情で言った。
「宮崎、この間のこと……本当にありがとう。君の気持ちを聞けて、僕はすごく嬉しかった。でも、それが逆に君を傷つけたかもしれないって思ってるんだ」
宮崎はその言葉に少し驚いたが、すぐに柔らかな笑顔を見せた。
「黒羽、私が自分の気持ちを伝えたのは、後悔したくなかったからだよ。たとえ結果がどうであれ、正直な気持ちを話せたことで少しだけ気持ちが楽になったの」
大樹は彼女の言葉に安堵したが、それでも自分の中で消えない不安を感じていた。彼は宮崎を傷つけたくないし、萌果との関係も大切にしたいと思っていた。しかし、どちらか一方を選ぶことができずにいた。
その後、大樹はカフェ「黄色いチューリップ」に向かった。ドアを開けると、萌果がカウンターで仕事をしていた。彼女は大樹の姿を見て、いつものように微笑んで迎え入れた。
「いらっしゃい、大樹くん。今日は何にする?」
大樹は少し迷ったが、彼女の隣の席に座り、静かに話し始めた。
「萌果さん、僕……やっぱり誰か一人を選ぶことができないみたいなんだ。宮崎も、君も、それぞれが大切で……」
萌果は彼の言葉を聞き、少し考え込んでから答えた。
「大樹くん、無理に選ぶ必要はないんじゃないかな?」
彼女の言葉には、彼を安心させようとする優しさが込められていた。大樹は彼女の優しさに感謝しつつも、胸の中で何かがもやもやと残るのを感じていた。
「でも、いつかは決断しなきゃいけないよね。僕は、誰を傷つけたくないんだ」
萌果は静かに頷きながらも、彼の手をそっと握りしめた。
「大樹くん、私たちがどう感じているか、それをお互いにちゃんと理解し合うことが大切だと思うの。だから、焦らずに自分の気持ちを見つめてみて」
その夜、大樹は家に帰ってからも、二人の言葉が頭から離れなかった。宮崎の強さと優しさ、萌果の温かさと理解。彼はそれぞれの気持ちを大切にしたいと思う一方で、自分自身の気持ちをどうすべきかが分からなかった。
「僕は、どうすればいいんだ……」
ベッドに横たわりながら、大樹はそう呟いた。彼の心は二人への感情で揺れ動いていたが、まだ自分の本当の気持ちに気づけずにいた。
一方、宮崎もまた、自分の気持ちに正直でいようと決意していた。彼女は大樹への想いを諦めることができず、これからも彼のそばにいようと心に決めた。
萌果も同じように、大樹に対する気持ちを大切にしつつ、彼が自分の気持ちに気づくまで待つことを選んでいた。彼女は焦らずに、大樹が自分自身と向き合う時間を尊重しようと思っていた。
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