第16話「決断のとき」
宮崎が自分の気持ちを打ち明けてから、数日が経過した。大樹はその告白を受けてからというもの、心の中で葛藤を抱え続けていた。彼は宮崎のことを大切に思う一方で、萌果に対する気持ちも強くなっていることに気づき始めていた。
学校では、宮崎との距離が微妙に変わったことを感じていた。二人の間には、以前のような自然な会話がなくなり、何か見えない壁ができてしまったようだった。
放課後、大樹はカフェ「黄色いチューリップ」に向かったが、その道中で自分の気持ちを整理することができなかった。彼はカフェに着いてからも、心の中で渦巻く感情に戸惑っていた。
カフェに入ると、萌果がいつも通りカウンターに立っていた。彼女は大樹を見つけると、優しい笑顔で「いらっしゃい、大樹くん」と声をかけたが、その笑顔の裏には何かを隠しているように感じられた。
「萌果さん、今日は少し話せるかな?」
大樹は勇気を出して声をかけた。彼は萌果と向き合って、自分の気持ちを確認したいと思っていた。
「もちろん、何でも話して」
萌果はカウンターから出て、大樹と向かい合って座った。二人の間に一瞬の沈黙が流れたが、やがて大樹が口を開いた。
「実は、宮崎から告白されたんだ。彼女は僕のことをずっと好きだったみたいで……」
大樹がそう言うと、萌果は驚いたように目を見開いたが、すぐにその表情を隠すように微笑んだ。
「そうだったんだ……宮崎さんは、ずっとあなたのことを大切に思ってたんだね」
萌果の言葉には、どこか寂しさが感じられた。彼女もまた、大樹への気持ちが自分の中で強くなっていることを感じていたが、それをどう表現すべきか迷っていた。
「僕も宮崎のことを大切に思ってる。でも……」
大樹は言葉を詰まらせた。その先の言葉が喉の奥に引っかかり、どうしても言えなかった。彼は萌果に対しても、特別な感情を抱いていることを認めざるを得なかった。
「でも、萌果さんのことも……」
その言葉を聞いた瞬間、萌果の心は大きく揺れた。彼女は大樹の気持ちを感じ取りつつも、それにどう応えるべきかを必死に考えていた。
「大樹くん……私も、あなたのことを大切に思ってる。でも、それがどういう意味なのか、自分でもよくわからなくて……」
萌果は正直な気持ちを打ち明けたが、その言葉には悩みと迷いが込められていた。彼女もまた、大樹に対する想いが友情以上のものだと気づいていたが、それを言葉にする勇気がなかった。
その時、カフェのドアが開き、宮崎が入ってきた。彼女は大樹と萌果が向き合って座っている姿を見て、瞬間的に立ち止まった。
「宮崎……」
大樹は彼女の突然の登場に驚き、言葉を失った。宮崎もまた、二人の様子に何かを感じ取り、心の中で複雑な感情が渦巻いていた。
「ちょうど良かった。私も、話さなきゃいけないことがあるから」
宮崎は意を決してそう言ったが、その声には緊張と不安が混じっていた。彼女は自分の気持ちを再び伝えるべきか、それとも二人の関係を尊重すべきかで迷っていた。
三人はカフェの中で向かい合い、言葉を交わすことなく、お互いの心の中で葛藤していた。宮崎は大樹と萌果の関係に嫉妬を感じつつも、それを抑えようとする自分がいた。
「宮崎、僕は……」
大樹が何かを言いかけたが、その瞬間、萌果が静かに言葉を発した。
「宮崎さん、大樹くんはあなたのことを本当に大切に思ってる。それは、私にもわかるわ。でも……」
萌果の言葉に、宮崎は目を伏せた。
それぞれの想いが交錯し、言葉にできない感情が心の中で渦巻いていた。
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