第15話「宮崎からの告白」

宮崎が言いかけた言葉を飲み込んでから数日が経ったが、彼女の胸の中には依然としてもやもやとした感情が渦巻いていた。彼女は大樹や萌果との関係が変わってしまうことを恐れ、なかなか自分の気持ちを打ち明けられずにいた。


一方、大樹もまた、宮崎の様子に違和感を覚えながらも、何が原因なのかをはっきりと掴めずにいた。萌果も彼の心の変化を感じ取っていたが、それをどう扱えばよいのか悩んでいた。


ある日、学校の帰り道、宮崎は意を決して大樹に声をかけた。


「黒羽、ちょっと話がしたいんだけど、時間ある?」


その声に大樹は少し驚いたが、彼女の真剣な表情に何かを感じ取り、「もちろん、いいよ」と答えた。


二人は学校を離れた静かな公園のベンチに腰掛けた。しばらくの沈黙の後、宮崎は深呼吸をしてから、ついに口を開いた。


「黒羽、私……ずっと言えなかったことがあるの」


大樹はその言葉に耳を傾け、真剣な表情で彼女を見つめた。宮崎は一瞬目を伏せたが、意を決して続けた。


「私、ずっと前から黒羽のことが好きだった。でも、萌果さんのことも好きだし、二人が仲良くしてるのを見てると、私の気持ちは言わない方がいいんじゃないかって思ってた」


その言葉に大樹は驚き、何も言えなくなった。宮崎が自分に対して特別な感情を抱いていたことを初めて知り、どう答えればよいのかを迷った。


「でも……やっぱり、黙っているのは辛くて、今こうして伝えたかったんだ。黒羽、私の気持ちを聞いてくれてありがとう」


宮崎は最後に小さく微笑んだが、その笑顔には悲しみが滲んでいた。大樹は彼女の気持ちにどう応えればよいのかを考えたが、答えが見つからなかった。


「宮崎……僕も、君が大切だよ。でも、今は……」


大樹は言葉を続けようとしたが、その瞬間、萌果の姿が脳裏に浮かんだ。彼の心は二つの感情に引き裂かれるようだった。


結局続きの言葉は何も言えず、宮崎は何かを悟ったようにほほえんでその場から去った。


その日の夕方、大樹はカフェ「黄色いチューリップ」を訪れた。ドアを開けると、萌果がカウンターで静かに作業をしている姿が目に入った。


「大樹くん、いらっしゃい。今日は何かあったの?」


萌果は大樹の様子に気づき、声をかけたが、大樹は言葉に詰まった。彼は宮崎との会話を思い出し、心が揺れていた。


「萌果さん、実は……」


大樹が話し始めようとしたその瞬間、カフェのドアが再び開き、宮崎が入ってきた。彼女は大樹と萌果が話しているのを見て、瞬間的に立ち止まった。


「宮崎……」


大樹は彼女の突然の登場に驚き、言葉を失った。宮崎もまた、自分がここに来たことを後悔するかのような表情を浮かべていた。


萌果は二人の様子を見て、何かを察したように静かに微笑んだが、その笑顔には少し寂しさが漂っていた。


「どうしたの、宮崎さん?何かあったの?」


萌果が優しく声をかけると、宮崎は何とか笑顔を作って答えた。


「ちょっと寄っただけだから、気にしないで。用事があるから、やっぱり帰るね」


そう言って、宮崎はカフェを後にしようとしたが、大樹はその背中を見送ることしかできなかった。


「宮崎、待って……」


大樹が声をかけようとしたが、宮崎は振り返らずに店を出て行った。


大樹と萌果はその後、何も言わずにカフェで過ごした。二人の間には微妙な沈黙が流れていたが、それを打ち破る言葉が見つからなかった。


「大樹くん、無理しないでね。何かあれば、いつでも話してくれていいから」


萌果がそう言って微笑むと、大樹は小さく頷いたが、その言葉にどう答えればいいのかを悩んでいた。

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