第14話「揺れは振動になる」

宮崎は、カフェ「黄色いチューリップ」を訪れて以来、心の中でずっと何かが引っかかっていた。大樹と萌果の関係に対する不安や、自分の気持ちに正直に向き合うことへの恐れが、彼女の胸の中で渦巻いていた。


学校では、宮崎はいつものように明るく振る舞っていたが、大樹は彼女の微妙な変化に気づいていた。放課後、大樹は意を決して宮崎に声をかけた。


「宮崎、最近何かあったの?なんか元気がないように見えるけど」


宮崎は一瞬戸惑ったが、すぐに笑顔を作って答えた。


「何でもないよ、黒羽。ちょっと疲れてるだけかも」


しかし、大樹は彼女の言葉をそのまま信じることができなかった。宮崎が何かを隠しているような気がしてならなかった。


その日の放課後、大樹はいつものようにカフェ「黄色いチューリップ」を訪れた。ドアを開けると、店内にはいつもの温かい空気が漂っていたが、今日は何かが違って感じられた。


萌果がカウンターに立っていたが、その表情にはいつもの笑顔が欠けていた。大樹は彼女の様子に気づき、何かがあったのかと尋ねた。


「萌果さん、大丈夫ですか?今日はなんだか元気がないみたいだけど」


萌果は少しためらった後、静かに答えた。


「大樹くん……実は、少し悩んでることがあって」


その言葉に、大樹は驚いた。いつも明るく、強い印象を持っていた萌果が悩んでいるなんて、彼には信じがたかった。


「何かあったら、話してほしい。僕でよければ力になるから」


大樹は真剣な表情でそう言った。萌果は彼の言葉に心が揺れたが、すぐに答えられなかった。彼女の胸の中には、大樹への感情が少しずつ芽生えていることを認めたくない気持ちがあったからだ。


一方、宮崎もまた、自分の心と向き合っていた。大樹に対する気持ちが強くなる一方で、萌果への友情も大切にしたいという気持ちが交錯していた。


「黒羽と萌果さんは、本当にお似合いだな……」


宮崎は、カフェで二人が話している光景を思い出し、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。彼女は自分の気持ちを抑え込み、大樹と萌果の幸せを願おうとしたが、それがますます彼女の心を苦しめた。


次の日、宮崎は再びカフェを訪れた。彼女は自分の気持ちに決着をつけるため、二人と話すことを決意していた。しかし、店に入ると、すでに大樹と萌果が親しげに話している姿が目に入った。


「また二人で楽しそうにしてるんだ……」


宮崎はその光景に耐えきれず、一瞬立ち止まったが、すぐに意を決して二人のところへ向かった。


「黒羽、萌果さん……ちょっと話があるんだけど」


宮崎が真剣な表情で言うと、大樹も萌果も驚いた様子で彼女を見つめた。宮崎は自分の気持ちを打ち明けようとしたが、その言葉が喉の奥で詰まってしまい、うまく言葉にできなかった。


「何かあったの、宮崎?」


大樹が心配そうに尋ねると、宮崎は一瞬目を伏せた後、意を決して言った。


「実は、私……」


しかし、その瞬間、カフェのドアが開いて新しい客が入ってきた。その音に、宮崎は言葉を途切らせ、話すことができなかった。


「ごめん、やっぱり何でもない……また今度にするね」


宮崎はそう言って微笑んだが、その笑顔はどこか寂しげだった。大樹と萌果は彼女の様子に何かを感じ取ったが、深く追及することはできなかった。

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