第12話「揺れる心と交錯する想い」

カフェ「黄色いチューリップ」は、今日も穏やかな雰囲気に包まれていた。大樹は学校が終わると、自然と足がカフェに向かっていた。ドアを開けると、店内にはほんのりとしたコーヒーの香りが漂い、温かい空気が彼を迎え入れてくれた。


萌果がカウンターでコーヒーを淹れている姿を見て、大樹はホッとした気持ちになる。彼はいつもの席に座り、静かに時間を過ごすのが日課となっていた。


「いらっしゃい、大樹くん。今日は何にする?」


萌果が優しい声で問いかける。大樹は少し迷ってから、いつものカプチーノを頼んだ。


「いつもありがとう、萌果さん」


「こちらこそ、いつも来てくれて嬉しいわ」


萌果の笑顔に、大樹は心が温かくなるのを感じた。彼女との時間は、彼にとって特別なものになりつつあった。


しかし、その日、カフェにもう一人の客が訪れた。宮崎だった。彼女は大樹に気づき、少し驚いたように微笑んだ。


「黒羽、ここにいたんだ。ちょうど良かった、今日一緒に帰ろうかと思ってたの」


宮崎が隣に座ると、大樹は少し緊張しながらも嬉しそうに「うん、もちろん」と答えた。彼女との会話はいつも楽しく、自然と笑顔になれる。


萌果もカウンター越しに二人の様子を見て、微笑んでいた。しかし、彼女の心の中には、何か小さな違和感が生まれつつあった。


その後、三人で少し話をしていたが、宮崎はふとした瞬間に、大樹と萌果の親しげな雰囲気に気づいた。二人の間に流れる穏やかな空気に、宮崎は少し胸がざわつくのを感じた。


「黒羽、最近よくここに来てるのね。萌果さんとも仲良しだし、なんだか私が知らない一面を見た気がする」


宮崎が少し冗談交じりに言うと、大樹は照れ笑いを浮かべながら「いや、ここが居心地良くてさ。気づいたら通うようになってたんだ」と答えた。


その言葉に、萌果も笑顔で「大樹くんが来てくれると、私も嬉しいの」と言ったが、その笑顔の裏には、何か複雑な感情が隠されているようにも見えた。


その日は三人で話を続けたが、会話の中で宮崎は自分が二人の間に割り込んでいるような感覚を覚えた。大樹と萌果が交わす視線や、言葉の端々に感じる親しみが、彼女の心を揺さぶっていた。


「そろそろ帰ろうか」


宮崎がそう言って立ち上がると、大樹も一緒に立ち上がった。萌果は二人を見送りながら、何か言いたそうな表情を浮かべていたが、結局何も言わなかった。


カフェを出た後、宮崎はしばらく沈黙していたが、歩きながらポツリと呟いた。


「萌果さん、優しい人だよね」


「うん、すごく」


大樹は素直に答えたが、宮崎の声にはどこか影が差しているように感じた。彼はその理由を考えたが、すぐには理解できなかった。


その夜、大樹は家に帰ってからも、宮崎の言葉が頭から離れなかった。彼女が何を考えていたのか、どうしてあんな表情をしていたのかが気になって仕方がなかった。


一方、宮崎もまた、自分の中で芽生えた感情に戸惑っていた。大樹と萌果の関係に対する不安や、嫉妬のような感情が、彼女の心の中で渦巻いていた。

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