第10話「新たな風(後編)」
前日の夜、カフェ「黄色いチューリップ」では、イベントの準備を終えたばかりの大樹、萌果、そして宮崎が緊急の話し合いをしていた。天気予報では、翌日も雨が続く可能性が高く、予定していた屋外イベントの開催が危ぶまれていた。
「これじゃ、せっかく準備したのに、みんなが楽しめないかもしれない……」
宮崎が落ち込んだ様子で呟いた。彼女はイベントの成功を心から願っていただけに、この状況に戸惑っていた。
「でも、ここで諦めるわけにはいかないよ」
大樹は決意を込めた声で言った。彼もまた、何とかしてイベントを成功させたいという思いを強く持っていた。
「そうね、何かできることがあるはず」
萌果も同意し、三人は雨でもイベントを楽しめる方法を考え始めた。
「カフェの中を使えば、規模は小さくなるけど、なんとかなるかもしれないわ」
萌果が提案した。カフェの店内は広くはないが、地域の人々が集まるには十分なスペースがある。三人は店内をうまく活用して、フリーマーケットやワークショップを屋内で行う計画に変更することにした。
「音楽ライブは少し難しいかもしれないけど、地元のミュージシャンにお願いして、ギター演奏してもらうのはどうかな?」
宮崎がアイデアを出すと、萌果もその提案に賛成した。
「それなら、みんなで温かい飲み物を用意して、ゆったりとした雰囲気で楽しんでもらうのがいいかもしれない」
三人はすぐに新しい計画に取り掛かり、カフェのレイアウトを変更してイベントに備えた。雨が降る可能性が高いことを考慮し、ポスターやSNSで屋内イベントへの変更を告知することにした。
翌日、朝から小雨が降り続いていたが、カフェ「黄色いチューリップ」には地域の人々が少しずつ集まり始めた。店内に入ると、そこには暖かな光が溢れ、賑やかな雰囲気が広がっていた。
「来てくれるか心配だったけど、みんな集まってくれて良かった」
大樹はほっとした表情で言った。宮崎も「ほんとだね。みんなが来てくれて嬉しい」と笑顔で応えた。
カフェの中では、フリーマーケットが開かれ、地元の人々が持ち寄った手作りの品々が並んでいた。子どもたちのためのワークショップも開催され、カフェの隅では楽しそうに絵を描く子どもたちの姿が見られた。
そして、昼過ぎには、地元のミュージシャンがカフェの一角でアコースティックライブを始めた。雨の音と共に、穏やかなメロディが店内に広がり、訪れた人々は温かい飲み物を片手にリラックスした時間を過ごしていた。
「なんだか、みんながすごく楽しんでくれてるみたいだね」
萌果は、大樹と宮崎に微笑みかけながら言った。二人もその光景を見て、心から安堵し、喜びを感じていた。
「天気のこともあったけど、結果的にこのカフェの中でみんなが一つになれた気がするよ」
大樹がそう言うと、宮崎も頷いた。「うん、この場所がみんなにとって大切な場所なんだって改めて感じた」
イベントが無事に終わった後、三人はカフェの中で片付けをしながら、今回の経験を振り返っていた。予想外の困難に直面したものの、それを乗り越えて成功させることができたのは、互いの支えと協力があったからこそだと感じていた。
「これからも、このカフェを通じてもっといろんなことをやっていけたらいいね」
萌果がそう言うと、大樹と宮崎もその思いに共感し、頷いた。彼らはこのカフェが、これからも地域の人々にとって特別な場所であり続けるよう、さらに努力していく決意を新たにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます