第9話「新たな風(前編)」
カフェ「黄色いチューリップ」が無事に危機を乗り越え、再び穏やかな日常が戻ってきた。店内には常連客たちの笑顔があふれ、暖かな雰囲気が広がっている。しかし、萌果の心の中には、もっとこの場所を特別なものにしたいという新たな思いが芽生えていた。
「黒羽くん、最近カフェに新しい風を入れてみようと思ってるんだけど、どうかな?」
放課後、大樹がカフェを訪れた際に、萌果はそう切り出した。彼女の目は輝いており、何か新しい挑戦をしようとする意気込みが感じられた。
「新しい風、ですか?」
大樹は少し驚いた様子で聞き返した。萌果は頷き、カウンターの裏から一枚のポスターを取り出して見せた。そこには「黄色いチューリップ主催:地域交流イベント」と書かれていた。
「このカフェを通じて、もっと地域の人たちと繋がりたいと思ってるの。それで、地域の人たちが集まれるイベントを企画しようと思ったの」
萌果の提案に、大樹は心が躍るのを感じた。このカフェが彼にとって大切な場所であるだけでなく、他の人たちにとっても特別な場所になってほしいと、彼自身も感じていたからだ。
「それ、すごくいいと思います!僕も何か手伝えることがあれば、ぜひ協力させてください」
大樹の言葉に、萌果は嬉しそうに微笑んだ。そして、二人はすぐにイベントの具体的な計画を立て始めた。宮崎もこの企画に興味を持ち、後日加わることになった。
数日後、三人は地域の人々にイベントの内容を伝えるために、準備を進めていた。ポスターを作成し、地域の掲示板や学校、商店街に貼り出したり、地元の人たちに直接声をかけたりして、イベントの告知を行った。
イベントの内容は、地元の特産品や手作りの品々を集めたフリーマーケットや、地域のアーティストによる音楽ライブ、子どもたちが楽しめるワークショップなど、多岐にわたるものだった。このカフェが中心となって、地域の人々が一緒に楽しめる場を提供することが目的だった。
しかし、計画は順調に進んでいるように見えたものの、三人の間にはいくつかの不安もあった。特に、地域の人たちがどれだけこのイベントに参加してくれるかという点については、予測がつかなかった。
「大丈夫かな……思ったよりも人が集まらなかったらどうしよう」
宮崎がふと不安を口にした。彼女は自信を持って行動しているように見えても、内心では結果がどうなるのかを心配していたのだ。
「きっと大丈夫だよ。僕たちができる限りのことをやれば、それが伝わると思う」
大樹は彼女を励まし、三人はさらに準備に力を入れた。
イベント当日が近づくにつれ、カフェの周りは少しずつ賑やかになっていった。地域の人々も、このカフェが新しい挑戦をしていることに興味を持ち、期待感が高まっていた。
しかし、イベントの前日、予期せぬ問題が三人に降りかかる。天候が急に悪化し、イベントの実施が危ぶまれる状況になったのだ。
「どうしよう……これじゃ、外でのイベントは難しいかもしれない」
萌果は焦りを隠せなかった。地域の人々を集めるために準備を進めてきたが、この天候では予定通りのイベントが開催できないかもしれない。三人はカフェの中で緊急の話し合いを始めた。
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