第2話
「結構です」
僕はハッキリとそう言った。
「え、何で?」
敬語を忘れて甲斐は驚いている。
親切心で言ってくれたであろうことはわかるが正直言って迷惑だ。それはお節介というものだ。
「興味ないからだ」
他人より僕は小説も有原光についても知っている。他人に説明される必要は全くない。だから、断っただけなのだが彼女は食い下がる。
「一回読めば良さがわかるから。本当に最高なんだよ、有原光の小説!」
熱弁されても困るなと思いつつ、自分の小説が褒められることは悪い気がしない。
「よし、図書室行こう!」
そう言って甲斐は僕の手を握る。そのまま引っ張って図書室に向かわせられる。
「強引だな」
「有原って苗字なのに有原光に興味ないからいけないんだよ」
「僕の名前、知ってたのか」
「知ってるに決まってるじゃん。だって私たち同じクラスだよ。有原くんだって私の名前、知ってるでしょ」
「まあ、一応」
「一応か」
甲斐は苦笑する。
「それより、手を離して貰いたいんだけど」
廊下を歩く生徒の視線が痛い。注目されるのは好きではない。
「逃げないなら良いよ」
「逃げないよ」
どうせ図書室に向かう予定だったので甲斐に抵抗しない姿勢を見せる。わかってくれたようで甲斐は僕から手を離す。
図書室について二人で中に入ると微かに本の香りが流れてくる。
僕は紙の本の香りが好きだ。これは電子書籍には絶対真似できないし、真似しようとして欲しくもない。
「相変わらず空いてるね。じゃあ、早速、有原光作品をおすすめするね」
そう言って甲斐は図書室の奥の方にある小説コーナーから2冊ほど本を持ってきた。
「まずは有原光のデビュー作、『鋼の貴方』」
手渡された本の表紙には両手で顔を覆った髪の長い少女の姿がある。
「これは有原光先生が幼馴染のメンタルの強さに驚いて書いた作品なんだよ」
ああ、よく知ってる。
「そうなんだ」
僕は適当に相槌を打つ。
「それでこっちの本は『炎な彼女』」
本の表紙には炎の中で笑っている少女の姿がある。
「これは有原光先生が幼馴染の情熱的なところを見習いたいと思って書いた作品なんだよ」
それもよく知っている。
「有原光先生の作品は幼馴染に関してのものが多いの。何でだろ?」
僕は苦笑する。目の前にその有原光がいるというのに彼女は間抜けな質問をしているなと。
「きっと、大好きだったんだよ。その幼馴染のことが」
甲斐は目を大きく開いて頷く。
「そうだね。きっと、そうだと思う」
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