第13話

 カミールは、ず、最後尾さいこうび警戒けいかいしていた二人の兵をたおすと、そのあと、丸太で集会所の入口を破壊しようとしている集団の方へと向かって行った。


「え? もうあんな所に」


 ――全く見えなかった。


 気付けば、カミールは、丸太の上に立っていた。

 風の魔法を器用きように使いこなし、移動速度と跳躍力ちょうやくりょくを上げていたのだ。


 ――やっぱり、この世界に住む人は、魔法の使い方も全然違うのね。私の魔法なんて所詮しょせん一夜漬いちやづけみたいなものか……。


 私は、感心していた。


             *


「何だ、貴様はっ!」


 彼らは、突如現とつじょあられた敵に、かなり動揺どうようしていた。


「私は、ここの領主・アーサー様のめいにより、お前達を成敗せいばいしに来た。覚悟してもらおう」


 カミールは、そう言うと丸太をささえている兵達に攻撃を仕掛しかけた。

 丸太を持っている彼らにすべはない。


 彼らは、カミールに手元てもとを攻撃され、たまらずささえていた丸太を下に落としてしまった。

 すると今度は、その落ちてきた丸太につま先をはさまれ、負傷する者が多数現れた。


「チキショー」


 台詞ぜりふを吐きながら、ある者は手を押さえ、またある者は足をりながら、集会所への攻撃をあきらめ、撤退てったいしていく。

 それを見ていた周囲の敵兵達もその動きと連動し、彼らと共にこの場を去って行った。


「ご苦労様くろうさま


 私は、カミールの元へと歩み寄ると、ねぎらいの言葉を掛けた。


「この程度であれば、さしたる問題ではありません」


 カミールは、すずしい顔で答えた。

 何ともたのもしい護衛ごえいなのか。私は、自分の事でもないのに少しほこらしく思えた。


「どうかなさいましたか? 何だか、うれしそうですが――」

「えっと、集会所の皆さんを助けられたなと思って……」

「確かにそうですね。って本当に良かったと思います」


 彼は話を続けていたが、私は、そんな事よりニヤケ顔を見られた事を反省していた。


「皆さんご無事ですか?」


 カミールが扉をたたきながら呼び掛ける。しかし、反応がない。どうやら、まだ警戒けいかいしているようだ


「私です。アーサーです。助けに来ました」


 私の声を聞いて、入口の扉が少し開く。

 その隙間すきまからするどい目つきの老人が顔を出し、キョロキョロと周囲を見回す。


「このあたりの敵は撤退てったいして行きました」

 老人は、私の言葉には耳をさず、自身の目で安全を確認し、納得なっとくすると扉を開いた。


 扉が開いた瞬間、私は、あわてて中へ入り、みな安否あんぴを確認した。そして、部屋の奥に大婆様おおばばさまとシンシアさんの姿を見付け安堵あんどした。


「アーサーさんっ!」

 シンシアさんも同じ気持ちだったのか、私の無事を確認すると飛び付いて来た。


「本当に良かった」

 シンシアさんが私をつつむ。

 彼女より背の低い私――いや、は、そのやわらかな胸につつまれる事となった。


――これが世に言う、胸囲きょういの格差社会というヤツか……。


 その無自覚なマウントに、私は、少しだけ複雑な気持ちになった。


「おい、そこのメイド! 少しれしいぞ」


 ――えっ、このタイミングで?

 私は、心の中でツッコミを入れた。


「す、すみません」

 シンシアさんが、あわてて私をはなす。


「良いか、このお方は――」

「ちょっとカミール、そこまでっ!」

 私は、シッとういポーズをとった後、カミールを部屋のすみへと引っ張っていった。


「どうしたのですか?」

「私は、ここでは身分の事は、話してないのっ」

「なるほど、そう言う事ですか」

「そう。それから、あのシンシアさんへの態度は何?」

「シンシアさん? ああ、あのメイドの事ですか。彼女がアーサー様に色目いろめを使っていたもので――」

「い、色目いろめなんて使う訳ないでしょう」

「そうでしょうか? 私には、あのけがらわしい胸を押し付けているように見えました」

「いや、確かに胸は当たっていたけどぉ……」


 カミールは、おそろしく冷たい視線をシンシアさんに向けていた。

 当のシンシアさんは、少し離れた場所で不思議そうに私達を見ていた。

 そして、私は、カミールの過剰かじょうな反応に少しドン引きして苦笑にがわらいを浮かべていた。

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