第12話

「どうやら、あそこが集会所のようですね」

「良かった。まだ、敵は中に入れてないみたい」


 集会所の周囲を敵兵が取り囲んでいるものの、出入口は固く閉ざされ、まだ彼らの侵入を許していないようだった。


 私は、ホッと胸をなでおろした。


「しかし、に落ちません」

「何が?」

「彼らがこの東の領地にいる事です」

「そうなの?」

「状況も膠着状態こうちゃくじょうたいのようですし、少しご説明しましょう」


 カミールは、そう言いながら、枝を一本拾うと、地面に図を描きながら、この国のあらましを説明し始めた。


             *


 彼等の住むこの島は、天庭スカイガルズと呼ばれている。四方を海で囲まれ、他の国のある大陸からは、完全に孤立した位置にある。

 そして、この島は、空から星が落ちた時に出来た大地と言われており、円形の盆地ぼんちとそれを取り囲む円環状えんかんじょうの山脈で構成される地形となっていた――恐らく、私達の世界で言う、巨大なクレーターのような地形だ。

 つまり、そのような地形であるこの土地は、自然のほりである海と自然の壁である山脈に守られているという訳だ。


 さらにこの島には、かつて、魔王が住んでおり、人々からは、『呪われた大地』と呼ばれていた。

 しかし、七人の英雄により魔王が討伐され、人族ひとぞくを中心とした王国が建国された。


 この国は、五つの領地で構成されている。この島の中央には、王都を有する『中央庭ミッドガルド』と呼ばれる領地が有り、そこには、王の城や政府機関、上級貴族の住宅等が集まっている。そして、この中央の領地をのぞいた残りの土地を東西南北の四つの領地に分割、統治とうちしている。


 北側の領地は、一年のほとんどを雪におおわれる極寒の土地である。作物もあまり育たず、生産性の低い土地である一方、北からの脅威きょうい対峙たいじする重要拠点でもある。


 この島は、四方を海に囲まれてはいるが、冬の期間、北の海がこおり、大陸と地続じつづきとなる事がある。厳しい寒さの中での行軍こうぐんは、容易よういではないものの、それでもなお、幾度いくどかの侵略の危機にさらされている。その為、北側の山脈が、防衛線をねており、その山脈の切れ目で唯一の通り道である渓谷けいこくには大きな長城ちょうじょうが建設されており、他国からの侵入をこばんでいた。


 アーサー達が住むこの領地は、王国の東側に位置している。

 『北の蛮族ばんぞく』が、この地に攻め込むには、国境の渓谷けいこくにある長城ちょうじょうを突破し、さらに北の領地を進まなくてはならない。


 カミールが疑問に感じたのは、この点である。『北の蛮族ばんぞく』が現れるとしたら、先ず、北の領地であり、何の予兆よちょうも無く、いきなり東の地に現れるのは、地形的に不可能に近いのだ。


             *


「しかし、こんな事になるのであれば、アーサー様の暗殺説についても、もう少し調査しておくべきでした。あれが、事件だとしたら、暗殺事件と北の蛮族の侵攻。北の領主と蛮族ばんぞく結託けったくうたがってもいいくらいの状況です」

「何ともきなくさい状況ね」

「アーサー様、お言葉が――」

「あっ。何ともきなくさい状況だぜ」


 ――考え事をしていると、つい、元の口調がてしまう……。

 私は、ため息を一つ吐いた。


「お言葉の方は、徐々じょじょれて言って下さい」

「分かった……よ。あれ?」


 私は、彼らが大きな丸太を持ち出し、何かをしようとしている事に気付いた。


「あれ、もしかして、扉を破ろうとしているのでは……」

「その通りです」

「じゃあ、ピンチなんじゃ――」

「いえ、私は、この時を待っていました」

「えっ?」


 私は、彼の言っている意味が分からず、首をかしげた。


「両手がふさがった敵が多数、一つ場所に集まっているのです。まとめてたお好機こうきです」

「出来るの?」

無論むろんです」

「では、お願い。中の人々を救って」

「おまかせを」


 カミールは、そう言うと、片手を胸に当て頭を下げた。


「何だか……うれしそうね……。もしかして、戦う事が――」

「まさか。貴女のお役に立てるのがうれしいのです」

「そ、そうなんだ……」


 私は、想定外の回答に言葉をまらせてしまった。

 もしかしたら、顔も赤らめていたかもしれない。


「あっ、あと……」

「何でしょう?」

「なるべく殺さないようにして戦える?」

「彼らは、この村をおそった敵ですよ?」

「だとしてもです」

「貴女は、お優しいのですね」

「人の死が見たくないだけ――。もしかしたら、罪からのがれようとしているだけなのかも……」

「やはり、貴女はお優しい」


 カミールは、少しだけ笑顔を見せていた。

 私には、その笑顔がまぶしくてしかたなかった。


「では、不殺ふさつで戦ってみせましょう」

「お願い」

「では――」


 カミールは、再び頭を下げると、物陰ものかげに身をひそめながら、敵の集団の方へと向かって行った。

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