第6話

 私は、その夜、屋敷の中を探索たんさくしていた。家出の準備をする為だ。


 蝋燭ろうそくを片手に屋敷の地下へと向かう。


 この屋敷には、そこそこ広い地下があった。そこには、地下牢ちかろうと宝物庫のような部屋があった。


「どの鍵ならひらくのかしら?」


 私は、持ち出した鍵束かぎたばをジャラキャラと鳴らしながら、鍵を一本一本、試していった。

 何本目のかぎだっただろう。とうとうその扉は、カチャリという音と共に開いた。


 扉を開けると、中からカビ臭い空気が一気に流れて来た。


「うわっ」


 可愛かわいらしい、声変わりのしていない少年の声が辺りに木霊こだまする。いまだ聞きれないその声に、私はピクリと反応してしまった。


 そこは、宝物庫というより武器庫のようだった。

 一般兵用のありふれた武器が並んでおり、それらは、私の細腕ほそうででは振り回す事の出来ない代物しろものだった。

 ふと奥を見ると更に扉がある。

 私は、鍵束かぎたばと戦いを再びせいすと、奥へと進んだ。


 その小部屋の中には、期待通りの高価そうな武器が置かれていた。


 「うわ~っ、綺麗きれいな剣」


 特に私の目を引いたのは、壁に掛けられていた細身ほそみの二本の美しい剣だ。私は、そのうちの一本を手にする。


「うわっ、軽っ」


 のちに知る事となるが、その剣は、『微風そよかぜつるぎ』と呼ばれている精霊剣の一つだった。


 精霊剣――それは、剣身けんしんの周囲に魔力をびさせる事で、切れ味や耐久性等を強化している剣の事だ。更に攻撃の際には、通常の剣同様の物理攻撃の他に、魔法による属性効果を付加ふかする事も出来るらしい。

 この世界の魔法と同様に四つの系統の属性があり、この剣は、風の属性の剣である。

 また、『微風そよかぜつるぎ』は、女性向けとされる細身ほそみの剣であり、男性向けのものは、『風の剣』と呼ばれていた。


「使ってないようだし、私が持っていても問題ないよね……。私は、ここのあるじだし」


 私は、その剣を護身用ごしんよう拝借はいしゃくする事にした。


             *


 翌朝、私は、屋敷を出た。


 あの屋敷は、少しばかり辺鄙へんぴな場所にあった。

 朝霧あさぎりの中、一時間近くは歩いただろうか?

 それでも街は見えて来なかった。その代わりに駅馬車が何台も集まっている『道の駅』のような場所に出た。

 私は、自分の直感をたよりに、その中でも小奇麗こぎれいな駅馬車の御者ぎょしゃであろう人物に声を掛けた。


「この馬車に乗りたいのかい?」

「ええ。おいくらかし……。じゃなくって、いくらだい?」

 御者ぎょしゃの人は、変な目で私を見ていた。

「銀貨十枚だな」

「じゃぁ、これで」

 私は、屋敷から持ち出したお金で支払いをませた。

 屋敷のお金を使ってしまった事で罪悪感がぶり返す。

 持ち出す時も、自分は『アーサー』なのだ、これは私のお金なのだと、何度も心の中で言い訳をしていた。

 でも、自分自身は誤魔化ごまかせない。結局けっきょく、いつか返そうと心にちかう事でいを付けた。


――翌日――


「ここ……どこ?」


 私は、屋敷より更に辺鄙へんぴな田舎の村に連れて来られてしまった……。

 この時ほど、自身の直感をのろった事はない。

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