第3話
私は、男の子になっていた。
その事実を受け止められずにいた私は、洗面台の鏡の方へと向かった。
下げていたズボンに足を取られ、転びそうになりながらも、なんとか洗面台へと
鏡に
これが私なのかと、
プニプニとした
――これが、若さか。
(今は、自分のものにも
「大丈夫ですか?」
ノックの音と共に彼が声を掛けて来る。
「今、戻ります」
私はそう返事をすると、軽く
ベッドに戻った私を待ち受けていたのは、二人からの熱い視線だった。
もちろん、良い方のものではない。私からの説明を期待してのものだ。
「あ、あの、その前に、お二人のお名前を――」
「そうでしたね。
――この人は、『カミール』と言うのか……。
私は、そんな事を考えながらも、彼の青く輝く瞳に
「俺の名は、セドリック」
私は、ハッとして声の
「普段は、王都で働いているが、こうやって定期的にアーサー様の
何か複雑な事情でもあるのだろうか? 上手くは言えないけど、何かを
「で、お前は、何者なのだ?」
――ついに来た。核心の質問。
でも、私には、もう一つ聞いておきたい、いや、聞かなければならない事があった。
「その前に、私について……。いえ、この体の持ち主の方について教えていただきたいです」
私の言葉を聞いて、二人は互いの顔を見合わせていた。
「良いでしょう。お話します」
カミールは、そう言って『アーサー』について教えてくれた。
この体の持ち主である少年の名前はアーサー。この国の第一王子であり、この屋敷の
その
その為、今回の自殺について、誰も思い当たる事が無いらしく、全くの
私は、彼の自殺の理由について、多少は気にはしていたが、それ以上の大きな疑問を
そして、何より今は、かつての私が
「それでは、貴方のお話をお聞かせ下さい」
――ついに来たか……。
私は、全身に変な汗が流れるのを感じた。
「私は、この世界の人間ではありません。異世界……。つまり、別の世界から来ました」
「お前、何を言ってるんだ?
「セドリック様、落ち着いて下さい。まずは、話を聞きましょう」
セドリックは、不満そうに腕を組み、
私は、この後、自身の住んでいた世界について、そして、日本について、
その一方で、彼らは、私の話に
私は、そんな二人を見て、思わず
二人がこんな状況である。
彼らが自身の環境との違いに大きなリアクションをする
どうやら、この世界は、中世ヨーロッパのような世界観で、科学の代わりに魔法が発展しているというヲタクであればお
その為、日本人の私には、すんなりとそれを受け入れる事が出来た。
*
あれからどれだけ時間がたったのだろう。
私は、
「つまりお前は、異世界から来た人間だと言いたいのだな」
「ですから、最初からそう言っています」
「しかも、中身は女だと」
「ええ、そうです」
「うむ~」
セドリックは、
――取り調べってこんな感じなのかしら……。
正直、そろそろ解放して欲しい。それが素直な感想だった。
「だが、どうしたものかな」
「そうですね。ですが、彼女――は、自分がアーサー様でない事をすぐに報告してくれました」
「そんな
「確かにそうだが、記憶喪失だのなんだのと、
「そうです。貴女はそうしなかった。誠実な方のように思えます」
「べ、別に、そんな……」
「私は、信用しても良いのではないかと思います」
「
「例えば、どんな?」
「こいつが、本当の事を言っている場合。とんでもない詐欺師で今の話をでっち上げている場合。アーサー様のままだが、混乱して
「確かにそれくらい
「と言う訳だ。当分の間、監視させてもらう事になる。
「あ、はぁ……」
私は、気の抜けた返事をしてしまった。
「身の回りのお世話は、私や使用人がさせていただきます。そこまで
「あ、ありがとうございます」
「あっ、あともう一つ、大事な事がある。お前には、アーサー様を演じて欲しい」
「えぇっ!?」
「大きな混乱は
「わ、分かりました」
「それから、これからは、自分の事は『僕』と言え。それに女言葉も
「わ、分かりました……」
「言ったそばから!」
「あっ。わ、分かったよ」
「それで良い。はぁ~。今日は、なんて日だ」
大きなため息を吐きながら、セドリックは、部屋を出て行ってしまった。
――ため息を吐きたいのは、こっちの方だ。
私は、心の中で
こうして、私は、この世界で『アーサー』として生きる事になった。
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