第52話 これにて閉幕(第一章)+後書き
「お帰りなさい、エレイナ様」
ラシュアンに帰還したオレたちをいの一番に出迎えたのは、他ならぬテレーゼであった。
わざわざ格納庫まで足を運ぶ辺り、随分と気もそぞろだったに違いない。
事前に連絡は行ってたはずだが、ちゃんと帰ってきたことで実感に至ったのか、その表情は安堵と喜びに満ちていた。
「はい、ただいま戻りました。無事、最後の試練も突破しましたよっ」
と、エレイナも嬉しそうに討伐の証であるモンスターの素材を見せた。
「おめでとうございます。よく頑張りましたね」
慈しみの表情で頷きを返す。
公衆の面前じゃなければ抱き合ってたんじゃねえかな。
「薙刃、それにリゼ。そして龍女様もありがとう。貴方たちのおかげよ」
次にテレーゼはオレたちにも声を掛けた。
「別にお礼なんかいらないわよ。私はただ依頼を受けただけなんだし」
「それでもよ。本当にありがとう、リゼ」
「フンっ」
ほおん?
「照れてりゅう?」
「照れてなしわよ! そのムカつく語尾やめろ!」
「なしわよ草」
「よし、今からアンタを斬るわ」
「薙刃は〝ネメアの獅子牢〟を使った。薙刃はありとあらゆる斬撃・刺突に対する絶対的耐性を得た」
「…………」
ガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッ!
リゼの攻撃!
薙刃は0のダメージを受けた!
薙刃は草を生やしている!
「え? 本当に通らないんだけど。何で人体を斬り付けてガッとかいう音が鳴るの? キッショ」
「キショはライン超えだろ」
「その技、確か締め技への抵抗力が著しく下がるデメリットがあるんじゃなかったかしら?」
「へえ」
「ヴワァカめ。それは本来の使い手の弱点だ。オレが修正しとらんとでも思ったか」
「チッ」
前述の通り、オレはフェイルーンにすら自身の天賦をキープ中であることを隠している。
それは他の面子も同様であり、対外的には『他者の天賦を模倣・編纂する天賦』と説明しているのだ。
その前提を踏まえた上で、地球のお偉いさん方との会合時にフェイルーンの語った内容を思い返してみよう。
『妾も相当な年月を生きたけど、薙刃ほどの戦いの才能の持ち主は片手で数える程度しかいなかったわ』
まだオレに切り札があることを知らないのに、この評価よ。
そりゃあおいどんも天上天下古今無双の人類と思うわけである。
「薙刃もお疲れ様。貴方を頼って正解だったわ」
「そりゃあオレが不正解を叩き出すワケがないからな」
「ええ、そうね。だけど貴方は少々慢心するきらいがあるから、そこだけは心配だったのだけど」
「おっと」
オレの反応にテレーゼが半眼になった。
「……今回も悪い癖が発症したのね、もう」
「勝ちゃあ良いんだよ、勝ちゃあ。それに、万に一つもオレが負けるとかあり得ないからな」
「それでも、よ。貴方が私たちの想像も及ばないほどに強いということは重々承知しているけど、それでも薙刃、貴方の身を案じる権利くらいは許してほしいわ」
「…………おう」
「――と、純粋な厚意には弱い迅切薙刃氏をお送り致しました。闇は光に弱いということが証明されたわね」
「光が、闇に勝った……!」
フェイルーンとリゼが茶々を入れてきた。ガキィ!
オレは両端についている角を握り、右に左にと振り回した。
芋けんぴ、髪に付いてたよ(ボキッ)したろかホンマ。
ったく、どう考えても光属性なオレに何たる暴言か。
「報酬についてだけど、既に手配は済ませているわ」
「流石。仕事が早くて助かるよ」
防衛都市を築く人材に、教導役を担う人材、ブレイドを開発する人材、アイテムを錬成する人材。
他にも必要な人材は色々いるはずだが、やはりテレーゼは既に仕事を済ませていたようだ。
「もちろん今すぐというわけにはいかないけど、数日中に集まるはずよ」
「オレも個人的に声を掛けときたいヤツがいるから、寧ろ助かる」
それにヴィマーナの修理を待つ必要もあるしな。
「このくらい何てことないわ。でも、それだけで良いの?」
「おん? 充分だと思うが。実際、そういう依頼だったんだし」
「そうね。だけど以前も貴方に助けてもらったことを考慮したら、とても吊り合いが取れてないんじゃないかと思ったのよ。ほら、あのときを恩を返せていなかったでしょう? それなのに今回の件は、さすがに不義理が過ぎると反省したの」
「考えすぎじゃねえかな。オレもお前から色々教えてもらったし」
あのときは星間領域のこととか何も知らんかったからな。
や、一応図書館とか利用したり聞き込みもしたんだが、テレーゼから得られた情報の方がよっぽど正確で助かった。
個人的には、あれで貸し借りは無しのつもりだったんだが。
「私はあれで恩を返し切れたとは思ってないのよ。公平さに欠けるのは申し訳ないわ」
そう言ったテレーゼからは、忸怩たる様子が感じ取れた
真面目だなぁ。
「別に気にする必要はないよ。お前の頼みを聞くのは嫌いじゃないからな」
「……貴方ってそういうことを平然と言うわよね」
スッと目を逸らしたテレーゼだが、その頬には朱が差していた。
「それに追加の報酬だっていうのなら、これ以上ないものを貰ったからな」
オレはチラリとエレイナを一瞥する。
「なるほど」
その視線を読み取ったテレーゼが頷いた。
オレたちのやり取りを聞いていたエレイナは「え? え? え?」とあわあわしている。
「……自分で捲いた種とはいえ、やっぱり複雑ね」
「それについちゃあ、また後でじっくりと話し合おうぜ。人材についても色々細かく聞いときたいしな」
「どっちが本命なのかしらね」
それはご想像にお任せします。
オレとの会話がひと段落すると、テレーゼは全体を見渡しながら言う。
「今回の件、本当にお疲れ様。この任務に携わってくれた皆には、心からの感謝を。ささやかながらの宴席を設けさせてもらったわ。そこでゆっくり英気を養ってちょうだい」
その言葉に、皆の空気が弛緩した。
ようやく任務が終わったと実感したのだ。
周りにいた騎士たちからの歓声が上がり、エレイナも爛々と目を輝かせる。
オレも仕事終わりの達成感に安堵の息を付いた。
まだこれからやるべき事はたくさんある。
防衛都市の建設に始まり、地球との仲介役、教導の進行度次第だが、他の県にある星間行路にも手を伸ばす必要があるだろう。
や、本当に多いな!
しかも今回と同じように最寄りの国との折衝もやらなきゃなんだろ?
もしかしたら外国の方もオレの面倒が必要という可能性もあるし、そしたらブラック企業も真っ青な労働環境だよな。
社畜たちは自分の身体がぶっ壊れるだけで済むけど、オレの場合、下手すりゃ侵略戦争に発展するからね?
圧し掛かる責任が重すぎて草生える。
まあこなして見せるのですが。
普通の人間だったら絶対曇らせパートが合間合間に挟まってるよなー。
やー、曇らせとは無縁の精神性で申し訳ない。
オレに出来ないことが他の人類に出来るか理論で生きてるからね、吾輩。
ほとんど無敵の人なのよ。
最強だとかハーレムだとか、人類は全員オレの下位互換だとか。
大口を叩く以上、誰もが二の句も継げなくなるような絶対の結果は必須。
世の中を好き勝手生きるには、世の中にそれ以上のものを還元しなければならないのだ。
だからまあ。
これから先、どんな困難が待ち受けていようとオレなら問題ないだろう。
何せ、オレより優れた人類とか、人類という種が始まって以来――そして人類という種が絶滅する遥か未来まで勘定に入れても、絶対に生まれて来ないんだからな。どやっ。
「薙刃くーんっ。御馳走ですよ、御馳走! 早く行きましょうっ」
「ああ、今行く」
◇◆◇
――仄かな照明に照らされた薄暗い一室。
豪華な調度品や焼き物、絵画が並んだ煌びやかな内装には、その見栄えにあった豪奢な衣装に身を包んだ者たちが円卓を囲んでいた。
ただ豪奢な衣装を着飾っているわけじゃない。
彼らの纏う高貴な雰囲気は、職人が丹精を込めて作り上げた至高の芸術品すら恥じらい覚えるほどの貫禄を醸していた。
それもそのはず。
彼らにはラシュアンという国を守り、導いてきたという自負があった。
生まれ持った才と地位、自分たちの土壌を整えた先人に恥じぬ貴人であろうと、研鑽の日々を欠かさなかった。
自らが歩いてきた軌跡そのものが彼らの自信を形作ったのだ。
そんな貴人たちの集いの場に、新たに入室する影があった。
「――やはりと言うべきですかな。リシュ王子が負けたようです」
最新の情報を齎せたその者は、堂々と一歩一歩を踏みしめながら空席に腰を降ろす。
「なるほど。王練を達成したのは、エレイナ姫でしたか」
「ほう、ファイ王子に何もかもを奪われた出涸らし姫と思っていましたが、なかなかどうして」
「何を仰る。確かにエレイナ姫はファイ王子に比べれば凡庸以外の何者でもありませんが、その外見は、まさに珠玉の如しではありませんか」
「下品だぞ――とは言え、その見栄えに騙される愚者が多いのも事実か」
「然り。利用価値は存分にありましょう」
トン、と軽く杖を叩く音が会話を断ち切った。
「姫のことはどうでも宜しい。問題は彼女を勝たせた《暴君》だ」
――《暴君》。
その言葉に誰もが眉根を寄せた。
「まさか《獅子王》すらも退けるとは。想像以上の実力者なようですな」
中央の空間にモニターが出現する。
モニターが映し出したのは、《暴君》と《獅子王》の死闘だ。
間違いなく人類の最高峰に立つ二人の死闘は、常軌を逸した光景だった。
最後に《暴君》の刀が《獅子王》を両断したところで再生は終わる。
モニターが切れ、再び場には重たい沈黙が戻ってきた。
「……まさに《暴君》というわけか」
「バケモノとしか形容する他ありませんな」
それはこの場にいる全員の本音だった。
「――だが、どれだけ強かろうと奴とて人間だ」
そして、これも全員の共通認識だ。
「人間であるのなら、幾らでも対処のしようがある」
「うむ。人類は知恵の積み重ねにより、あらゆる苦難、あらゆる災害、あらゆる強敵を退けてきた。そして相手が他ならぬ人類となれば、尚のこと知恵の前には無力に等しい」
決然たる宣言に、誰もが深く頷いた。
そう、敵がどれだけ強大だろうと恐れることは何もない。
人類という種が今まさに存在している事――それこそが何よりの証なのだから。
「では、始めるとしよう。王練などという下らぬ選別も今代までだ。これからは我ら〝貴人の円卓〟こそがラシュアンを導き――」
――チカッ。
チュドオオオオオオオオオオオオオン!!!!
◇◆◇
「どうしたんですか、薙刃くん。いきなり発砲なんかして」
「ん~、何となくあっちの方からエピローグ辺りにチラッと出てくる黒幕みたいな会話が起こっている気がしてな」
「???」
――――――――――
――後書き――
最後のシーン、一度でも良いからやってみたかった――というか、ああいうシーンを読んでいると、ふとここに茶々を入れてたらどんな反応になるんだろうな、などと想像するのが好きなんですよね。
なので実際にやりました。
最強系だからできる手法。
最強系ならこういう横紙破りな展開もじゃんじゃんやってほしいと思いました。丸。
実際に乙ったのか、それともアフロになり「やっぱり悪い事はしちゃいけないな」と改心、「ファイ王子万歳! エレイナ姫万歳!」となるかはご自由にお受け取りください。
というわけで、今話で第一章が終了となります。
地球に帰還と同時に終わらそうと思ったのですが、それまでの間に新キャラが登場するのでここで一端区切りとすることにしました。
結局、最後の最後まで登場しなかった王族二人の拗らせの大本、ファイ王子。
イメージ的にはCV石田彰氏が担当する黒幕感プンプンの知性的なキャラクターです。
敢えて登場させず、言及のみに留めた方が『こいつ何者』感が強そうと思い、今回は登場しませんでした。
作者より頭の良いキャラクターは作れない――ならば言及のみに留めて実際に登場させなければ良いのでは? という逆転の発想です。多分。
しかし、いずれラシュアンのお話を再び書く際には流石に登場させます。その頃にはラシュアン側の政争も落ち着いているはずなので。
ひとまず第一章を書き切った感想――と言いますか、書いている途中も思っていたのですが、もう少し何とか上手いこと書けなかったのかと己の技量不足を思い知る毎日でした。
ちゃんとプロットを組んでなかったのが一番の原因ですね。
ローファンタジー枠で投稿しておきながら早速ハイファンタジーに突入してしまったので『何とか早く地球に帰還しなければ』と思い至り、また、同時に『ラノベ一冊分にまとめたい』という思いもあった結果、色々と端折る結果になってしまいました。
変に長編にせず、こまめに地球とラシュアンを行き来するお話でも良かったな、と思い立った頃には時すでに遅く。
何故にこんな見通しが甘いのかというと、元々先の展開が思い浮かばず、没ネタだったのを供養用として投稿したら、思った以上に反響が出たので慌てて――というのが真相です。
こう、この世界観や設定で書きたいシーンは明確にあるのだけど、そこに行くまでが思い浮かばず、書き溜めの段階で断筆――というのは作者あるあるではないでしょうか。
繋ぎを書くのが一番難しい。
私は墓地に何十作も眠っております。
と、まあ後書きはこの辺で。
次章からはようやく地球近辺の話が始まります。
主な内容としては、防衛都市の建築、教導の様子、日本に来るラシュアン勢の反応&日本側の反応etcと言った感じでしょうか
個人的にはこの作品自体、ギャグコメな日常をメインに据えつつ、たまーにシリアス長編という銀魂スタイルでやっていきたいなと思っています。
最後となりますが、この小説をここまで読んでくださった皆さま、誠にありがとうございました。
ここまでお付き合いくださった方々が私の原動力です。
これからもどうかよろしくお願いいたします。
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どうやらダンジョンを踏破して異世界から帰還したのは俺だけらしい 黒兎 @thres
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