第51話 身分違いと無縁系主人公



「な、薙刃くんは、これからどうするんですか?」


 話題を変えるようにエレイナが平静を装いながら尋ねてきた。

 ギリ装えてなかったが。ちと引き攣ってる。


「そうだな……とりあえずお前をテレーゼの元に届けたら依頼は完了だからな。その後は、色んな手はずを整えるのが最優先だな」


 オレは壁にもたれかかり、ストレージからコーヒー牛乳を取り出しながら答える。

 パックにストローを挿し、一つをエレイナに渡す。


「ありがとうございます」

「オレの嫁だ。味わって飲むように」

「嫁!? ……嫁? …………嫁」


 草。

 百面相で色んな角度からコーヒー牛乳を眺めたエレイナだったが、最終的にオレの隣に並ぶと、ストローに口を付けた。


「あ、美味しい」

「だろ」


 オレはコイツのためなら世界すら救えると自負している。


「えと、話を戻しますけど、薙刃くんが依頼を受けた理由は、星間領域に都市を築くための人材派遣、でしたよね?」

「七割くらいはな。うちの星はゲートと繋がってまだ三年だからな。ゲートが野晒し状態なんだ。しかも星間行路を踏破したのはオレだけだから全部のゲートがな」


 うむ。改めて話すと終わってんな。

 他にも諸々の教導役を初め、足りないものだらけというのが現状だ。


「えと……聞く限りかなり危険な状態では?」

「そらもう。要するに家の出入り口を全部開けっぱなしで生活してるようなもんだからな」

「……星間領域と繋がったばかりの星って、そんな危険なんですね。ご先祖様たちもさぞかし大変だったことでしょう」

「まあ現国王がそんなご先祖たちの顔に泥を塗るような真似をしとるわけですが」

「あの、とても反応し辛いです……」


 父だもんな。

 でも、最有力候補がいない状態を狙って王練なんてものを開いたんだから妥当な評価だと思うの。

 しかも聞く限りじゃ息子の才能に嫉妬したのが原因っぽいじゃん。

 親なら普通、我が子が天才として生まれたなら誇るだろうに。

 天才コンプレックスは大変よな。迅切、指差して笑います。プギャー。


「でも、人材派遣となると、人員の確保には時間が掛かるんじゃないですか?」

「そこんところはテレーゼ次第だが、そう時間は掛からんだろ。オレに依頼を出したその日のうちから人員確保に動いているはずだ」

「そんなうちからですか?」


 エレイナが目を丸くする。


「アイツはオレが失敗するワケがないと確信してるからな」


 オレの断定から互いの信頼関係を読み取ったのか、エレイナは「いいなぁ」と呟いた。

 掛け値なしに優秀で良い女だからな。

 とは言え、別の女にだけ花を持たせるのはご法度か。


「んな顔しなくとも、お前のことも十分信頼してるよ」

「そう、なんですか?」


 やっぱ明るい性格に反して意外とネガティブだよな、コイツ。


「オレが興味ない相手にもお世辞やおべっかを使うように見えるのか? や、オレほど礼儀正しい人間はこの世にいないから、そう映るのも致し方な――」

「あ、いえ、カケラも見えません」


 なんだァ? てめェ……。


「でも、そうですか。えへへ、そう言ってもらえると、凄く嬉しいです」


 エレイナは照れ臭そうにはにかんだ。可愛いかよ。

 が、すぐに肩を落とした。


「だけど、もうすぐお別れなんですよね」

「ん? 何故にそうなる?」

「え? だって薙刃くん、故郷に帰るって」

「そうだけど、エレイナも付いて来れば良いだけだろ。つか、そのつもりだったんだが」

「ええ!? む、むむ、無理ですよ! その、お誘いは凄く嬉しいんですがっ。ほら、私、これでも王族なワケですしっ」

「だからだろ?」

「え?」


 え、のバーゲンセールかな。


「要するにオレらがやるのは外交なんだ。だとすれば、エレイナがこれ以上ない適任者じゃねえか」

「で、でもそれだったらテレーゼの方が」

「アイツが長期間都市を空けるワケにはいかんだろ。それともお前はオレと一緒に来るのが嫌か?」

「そ、そんなことはっ」


 ブンブンと首を振るエレイナに苦笑を向ける。

 お頭がお固いですわよ。


「深刻に捉えず考えてみろよ。この状況はお前にとって美味しいことばかりだぞ」

「この状況が、ですか? ……あっ」


 どうやらエレイナも思い至ったようだ。

 彼女の視点に立って簡潔に状況を考えてみよう。


 まず、当然としてエレイナは王族だ。

 民の税金により育った者として、それ以上の見返りを返還する義務がある。

 そしてその返還方法とは、他国と懇意な関係を築くための政略結婚が常だ。


 もちろんエレイナはその事を承知しており、自身に自由な恋愛ができないことも理解していた。


 だが、そんなところにオレと出会い、恋心を抱いてしまった。

 しかし、自身は王族。

 恋をしたからと義務を放り出すことは許されない。

 故に、この恋心が叶うことはない――――と思っていたのか?(某MAD風


 まあね。

 そのねえ。

 恋心の相手がねえ。

 ただの凡人だったらねえ。

 身分違いの恋みたいな物語が始まるんだろうけどねえ。


 相手はおいどんなんすわぁ。

 ぶっちゃけね、国からすれば喉からどころか五臓六腑から触手を生やし兼ねないほどの逸材なのである。

 当然よな。


 その理由はオレが単純にめちゃんこ強いというのもあるが、一番の要因は、エーテルの素質が遺伝するということだ。


 つまりオレとの間に子を成せば、その子どもが相当なチートスペックを生まれ持つ可能性が非常に高いのである。


 モンスターを配合して強いモンスターを生み出す系のゲームで例えるなら、オレはSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS級だからね。

 全ステータスが二位とトリプルスコアどころか軽く十倍、二十倍は上回っている正真正銘のバグキャラ。


 それが吾輩という究極で無敵のゲッ――げふん、存在なのである。


 子を設ければ設けるだけ人類の平均値を大幅に引き上げられるからな。 

 その恩恵を得られるとなれば、王族としては、これほど旨い話はないだろう。


 要するに、エレイナは自身の恋心と王族としての義務の双方を果たせるというワケだ。

 一石二鳥とは、まさにこの事よ。


「私、頑張ります!」

「おう、頑張れ」


 ふんすと気合を入れるエレイナだったが、次の瞬間、まるで凍結攻撃を受けたかのようにガチンと硬直した。


「? どした?」


 ギギギと震えながら目を合わせるエレイナの顔は、羞恥に染まりつつあった。


「あの、その……そういう言葉が出てくるという事は、その、えと……」


 そういう言葉?

 ああ、なるほろ。美味しい状況云々ね。


「そりゃあ気付いてもないのに、いきなりキスなんざするワケないだろ」

「は、はわわわわわわわっ。し、失礼しますぅうう~~っ!!」


 リンゴのように顔を真っ赤にしたエレイナは、土煙を巻き上げるような勢いで逃走した。


「……アレで隠しとるつもりだったんか」


 :待て

 :キスとは、何だ?

 :詳しく話してもらおうか

 :我々は今、冷静さを欠こうとしています

 :こやつテレーゼたんともロマンティクスした雰囲気を出しておきながら!

 :ハーレムとか許せねえよな!

 :つまり……つまり、あの至宝の如くデッパイは……!

 :ああああああああ羨ましいいいいいいいいいいい~~~~!!!!!


「ハッハッハ。モテない男の嫉妬というのは、いつ見ても大変気分が良い。さあもっと悔しがるが良い、ザコ雄くん共よ」


 と、コメント欄と仲良く会話をしながらオレも自分の部屋に戻るのだった。






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