第50話 実は〇〇
「終わったわよ、薙刃」
「ん、さんきゅ」
――艦の医務室。
ニョキッと生えてきた手の感触を確かめる。
うーん、やっぱコイツのチカラを再現するのは無理っぽいな。
部位欠損を治すだけなら出来るんだけどなぁ。
チィ、ロリっても龍種ということか。
「それにしても其方が腕を斬り飛ばされるなんて、相当強い相手だったのね」
「そうだな。中々強いヤツだったよ。久々に本気を出した」
空間系の天賦を使ってたら大抵の敵は乙るからなぁ。
あのコピー&ペーストの嵐をすり抜けてきたのは正直ビックリした。
オレに未来予知まで使わせたのだから、ホント大したものだよ。
未来予知で《獅子王》の天賦を『見た』ことが決め手となった。
これにより完全再現に成功したオレは、アイツの天賦にアイツの天賦を当てて相殺。即座にぶった斬ったというワケだ。
――にしても、当てを外すチカラを持った天賦とは、随分と強力な手札を得たもんだ。
基本、オレを倒そうとするヤツは、十全の策を練り、確殺の自信を得てから行動に移すからな。
コレがあればそいつらの策も空かすことが可能と来た。
鬼に金棒とは、まさにこのことよ。
「確信した。おいどんは強くなり過ぎた。きりっ」
:いきなりどうした
:一人称
:まあ、はいとしか言えねえわ
:というか何で途中で配信切ったの? 説明して役目でしょ
:この中にXXハンターの弟子がいますね
:絶対☆裏切りヌルヌル……ッッ!
:何それ
:ggrks
「配信を切った理由はアレだよ、アレ。これ以上グロテスクな光景をお見せしないようにっつー拙僧の善意だよ。感謝してねすぐでいいよ」
:今更感
:ンンンンンン!
:善意って何だっけ
:『善』というお題目さえ掲げときゃ何やっても許されんだろの『意』。略して善意
:俺の知ってる善意と違いますねえ
悪いけど、流石に天賦すら見ただけで完コピできるっつー情報を露見させるワケにはいかんのよ。
何度も言うけど、天賦の内容次第でジャイアントキリングも充分起こり得るんだからな。
まあ未来予知を始め、色んな因果系や概念系も再現できるから大丈夫とは思うが。今回の戦いで更に強力な手札も手に入ったことだし。
とは言え、念のためね。
フェイルーンすら知らないオレのトップシークレッツなのだ。
「……ん」
そんな会話をしていると、ベッドでスヤスヤタイムにあった白髪のケモ耳少女――雪姫が目を覚ました。
「起きたか」
「……ここは」
「ラシュアンの艦だ。お前はリゼに負けて収容されたんだよ」
「……《暴君》」
「迅切薙刃。これからそれなりの付き合いになるんだから名前で良いよ」
「?」
いきなりこんなこと言われても分からんか。
「簡単に言えば、お前だけじゃなくて、〝極北の旅団〟そのものが負けたんだよ。王練を達成したのは、うちのお姫サマだ」
「……そう。私はどうなる?」
「お前の身柄はオレが預かることになった。《獅子王》からの遺言でな」
「……遺、言?」
何を言われたのか、一瞬分からないといった様子だった。
「ああ、《獅子王》はオレが殺した」
雪姫の瞳が、微かに揺らめいた。
「……分かった。貴方に従う」
しかし、すぐに淡々とした反応を返してくる。
「お前は良いのか?」
「……ん、そう言われてたから」
「そか」
猟兵の価値観ってヤツなんかね。
や、先の反応から察するに、まだ情緒が育ち切ってないって感じか。
揺らぎはあった。多分、感情の出し方が分からないんだろう。
「名前は?」
知ってるけど、自己紹介自体はまだだからな。
「……雪姫」
「雪姫だな。お前にはオレを殺す権利がある。復讐がしたけりゃ、いつでも来い」
返事はなかった。
上記の通り、色々と整理が追い付かないのだ。
治療も済んだし、部屋に戻るか。
「あ、薙刃くんっ」
通路を歩いていると、向かいからエレイナとノエルがやって来た。
こちらを認めるなり破顔を浮かべ、パタパタと小走りで駆け寄って来る。
:うお、でっっ
:小走りするだけでしゅごい揺れておりゅ
:でもあの顔は完全に
:お、俺の嫁が!!
:寝てから言え定期
:と言うか次から次へと美少女ばかり。どんな徳を積んだらこんな美味しい立場に立てるんや
:ダンジョンを踏破してその先にある情報を世界に齎せる。現状日本のみならず地球の唯一の生命線
:徳たっっっか
:功績だけ見れば間違いなく後世に名を遺す偉人レベルだよな。尚中身
:世の中、所詮、顔とスペックよ。ぼっちなモブくんと甘酸っぱい恋愛を繰り広げてくれる美少女なんてラノベにしかおらんのや
「お疲れ。上手くいったみたいだな」
「はいっ。いえ、上手くいったかは分かりませんが、言いたかったことは全部えました。きっと伝わったと信じています」
「そか、良かったな」
「これも薙刃くんが力を貸してくれたおかげです。本当にありがとうございました」
深々と頭を下げる姿は、やっぱりお姫様らしくないなと苦笑する。
「力を貸したのは事実だけど、それだけだよ。成し遂げたのはお前だ。勇気を出した自分を一番に褒めてやれ」
「……っ。えへへ、はいっ。頑張りました!」
かわよ。
コメ欄も浄化されとるわ。
「で、そっちも随分と上機嫌だな」
オレはやたら顔が艶々しているノエルに水を向けた。
「フッ、久々にフルスロットルをかましました」
相変わらず無表情でそんなことをのたまう。
何がフルスロットルだったのかは聞くまい。
「あ、えっちなお汁がフルスロットルというワケじゃありませんよ。それは寧ろ現在進行形でエレイナ様の領分です」
「え」
何を言われたのか、という反応をするエレイナに、
「だってエレイナ様、完全に乙女の顔に」
「わあああ! わ、私のことは良いですから! というか全然そんなことありませんから!」
顔を真っ赤にブンブンとかぶりを振るう。
ノエルのこの物言い……コイツもしや。
オレはスッとノエルとの距離を縮めた。
「っ」
瞬時に距離を取ろうとする判断はさすが二つ名持ちというべきか。
だが、常人からは目で追えない速度であっても、オレからすればカメより遅い。
壁際へと追い詰め、振り払おうとした手首を掴み、抱き合うように密着した。
いわゆる壁ドンというヤツだ。
「な、な、な、な」
信じられないと目を見開くノエルは、露骨に狼狽していた。
「やっぱり。お前、ただ知識が豊富なだけで普通に生娘だろ」
もうね、思考回路が完全にエロ漫画の知識だけでエロソムリエを自称する童貞くんのソレなのよ。
如何にも経験者みたいな下ネタの嵐だったが、経験者ならもっと生々しい話が出てくるはずなのだ。
「そ、そそそ、そんなことありませぬがバリバリに開通済みですが手練手管を修めたマスターエッチウーマンですが何なら今から実際にお見せしても良いんですよほらほらほら」
早口。
「じゃあ見せてもらおうか」
「え?」
「そんなことないって実際に証明できるんだろ? じゃあ本当に証明してもらおうじゃねえか」
「――――」
パクパクと口を動かして間抜け面を晒すノエル。
そんなノエルの顔にグッと近寄り、不敵な笑みを向ける。
「どうした? 出来ないんならオレがやってやろうか」
「ひゅいぃっ。わ、私が、負ける……!?」
声を低くして耳元で吐息多めに囁くと、ノエルの身体がビクビクと跳ねた。
強キャラみたいなこと言ってんの笑うわ。
ちなみにエーテルをちょちょいと操り、ノエルの性欲やら感度を弄るというおまけ付きだ。
つまり、吾輩、対〇忍ごっこも可能なのである。
普通に感度三千倍とかも出来ます。
エーテルのチカラってスゲー。
腰砕けになり、へたり込んだノエルの顔は無表情から一変。頬を上気させ、潤んだ瞳は蕩け切っていた。
「よし、ノエルにはこう当たるのが正解だな」
下ネタぶっぱに及び腰になり、受け身になるから調子付かせるんだ。
寧ろグイグイこっちから攻めてやったらご覧の通りの有様である。
:なんだこの急展開
:くそ、ちそちそがイライラする……!
:確かに下ネタキャラが実は押させるのに弱い処女ってのは定番だけどさあ!
:俺、この人にだけはえっちな気持ちにならないって思ってたのに!
:拙者の性癖に刺さる音を聞いたでござる
:顔と身体が良ければ誰でもいいや
:自分の母親でも?
:うちのカーチャン、太ったオ〇チマルだが?
:草
:やれー! 襲えー! 見せろー!
やらんわ。
コイツに手を出したら本当に無敵の女になり兼ねん。
「むぅ」
と、エレイナから嫉妬を含んだ不満の声。
まあ彼女からすりゃあ、想い人が他の女に粉を掛けてる姿を堂々と見せ付けられたようなもんだから当然か。
吾輩は鈍感系主人公ではないのである。
と言うか好意を持たれている確信がないと、いきなり唇を奪うとかせんわ。
―――――――――
Q.こんだけあって何で割と重傷負ってたんすかああ????
A.普通に慢心。ちゃんとジャイアントキリングの可能性も理解しときながらコレである。バカがよ。
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