第48話 物語が進む連れて『実はアイツって相当ヤバかったんだな……』と読者に再認識させるタイプ


 



 ――時は少し遡る。

 薙刃とデュークの死闘は、機先こそデュークが制したが、以後は薙刃の優勢が続いていた。

 互いに一撃一撃が天災規模の破壊力だが、それでも両者の間には到底埋めがたいスペック差があったのだ。


 出力こそ辛うじて拮抗しているが、如何せんエーテルの保有量が違う。

 デュークとて充分人外離れしたエーテル量を保有している。


 エーテルの総量を面積に置き換え、見比べた場合。

 一般的な冒険者や猟兵は、都道府県の一つくらいだろうか。

 リゼやレイゼル、〝極北の旅団〟の幹部等は日本列島と同等。

 雪姫は更にその倍。

 そしてデュークは、ユーラシア大陸と同等というバカげた面積を誇るのだ。


 だが、それでも。

 薙刃には遠く及ばない。


 何せ、薙刃のエーテル量は地球すら凌駕する。

 しかもブレイドは、大帝国が国宝に指定するほど特別なブレイドであり、半永久的にエーテルを生成する動力が組み込まれているのだ。

 実質、無限に等しい。


 それでもギリギリの拮抗が発生している原因は、前述の通り、出力が関係している。

 水道と同じだ。

 タンクに豊富な水が貯蓄されていようと、水栓から少しずつ取り出す必要はあり、タンクの水を一気に消費することは出来ない。


 エーテルもそう。

 総量こそ天と地ほどの差があるのだが、エーテルの出力に限定して言えば、何とか追い縋れるレベルであった。

 とは言え、色々下準備をした上で、という前提条件が付くが。


 薙刃が刀を振るう。

 技でもなんてもない、ただの一閃。

 だというのに、ソレは因果や概念を斬り裂く必殺の刃だ。

 十次元さえも容易く両断する斬撃が、世界という名のテクスチャーを砕きながら迸る。


 音速を超え、光速に比肩する攻撃だが、《獅子王》の名は伊達じゃない。

 ドライブのアビリティを一瞬だけ全開にして回避に努める。

 デュークの瞬間最大出力ならば、ギリギリ回避可能なのだ。

 


「ふうん。ほおん」


 それを認めた薙刃は、クォンタムを向かわせた。

 両肩付近に戻したブレイドカノンとガンランスの照準も合わせ、思念制御により連続射撃も行う。

 そうして無慈悲とも呼べる飽和攻撃を行いながら、トドメとばかりに刀を振る。


「チィッ、ラスボスっ子が!」

 

 文句を垂れながら、それでもデュークは斬撃以外の攻撃は、しっかりとシールドで防ぎ、斬撃を回避して見せた。

 無駄のない動きと巧みな技術と戦術眼。

 三位一体の神業には、さすがの薙刃も感嘆する。


「んじゃ、もう一つ難易度を上げようか」


 薙刃はワームホールを開くと、そこに斬撃を飛ばした。

 ワームホールを斬り裂くという間抜けな展開にはならず、吸い込まれるように斬撃が消失する。

 そして――


「コピー&ペーストってな」

「おいおいおいい。そりゃやり過ぎってもんだろうが」


 告げられた言葉に、笑みが引き攣った。

 つまり――と思考する隙間すら与えず、大量のワームホールが開いた。

 そこから飛び出すのは、宣言通り、コピー&ペーストされた斬撃の嵐。


「はいよーはいよーはいよー」


 言いながら薙刃は、ワームホールに次々と斬撃を飛ばす。

 ワームホールに消えるや否や、コピー&ペースト。


 コピー&ペースト。コピー&ペースト。コピー&ペースト。コピー&ペースト。

 コピー&ペースト。コピー&ペースト。コピー&ペースト。コピー&ペースト。

 コピー&ペースト。コピー&ペースト。コピー&ペースト。コピー&ペースト。

 コピー&ペースト。コピー&ペースト。コピー&ペースト。コピー&ペースト。

 コピー&ペースト。コピー&ペースト。コピー&ペースト。コピー&ペースト。

 コピー&ペースト。コピー&ペースト。コピー&ペースト。コピー&ペースト。

 コピー&ペースト。コピー&ペースト。コピー&ペースト。コピー&ペースト。

 コピー&ペースト。コピー&ペースト。コピー&ペースト。コピー&ペースト。



 :これは酷い

 :人の心とかないんか?

 :ガシャンガシャンとガラスが割れる音を立てながら世界が砕け散っとりゅ……

 :スっくんの次元斬をめっちゃあくどく使用している感じかしら?

 :これって……

 :ああ――迅切氏の勝ちだ

 :あ

 :あ

 :フラグぅ!


「やったか!? かっこフラグかっことじる」


 :草

 :おい

 :フラグにフラグを重ねるなあ!


 砕け散った世界に佇みながら薙刃は呟いた。

 デュークは強かった。

 間違いなく人類最高峰の存在だ。

 到達点と呼んで充分差し支えないだろう。


 序盤で登場するには、あまりにオーバースペック。

 漫画やアニメで例えるなら、物語が進む連れて『実はアイツって相当ヤバかったんだな……』と読者に再認識させるタイプだ。


 それでも薙刃からすれば『まあ強かったわね』で終わる。

 残念ながら、人類最高峰程度では、薙刃に遠く及ばないというのが現実だった。


 ――だが。


 それを勝敗のファクターとするには、少し足りない。

 どれだけ薙刃が強かろうと、無敵というワケではないのだから。


「――――」


 背後にエーテル反応。

 おそらくアイテムによる空間転移だろうと瞬時に予測した薙刃は、背面にワームホールを展開しながら振り向いた。

 自分や自分の攻撃はもちろん、その他――例え敵の攻撃だろうと呑み込める――つまり防御にも応用が利くのが、ワームホールの凄まじい利点だ。

 しかし、


「は?」


 ワームホールが開くことは無かった。

 薙刃にとってワームホールを開くことは、呼吸するようなものだ。

 死闘の渦中にあろうと、メンタルが絶不調だろうと、手足がもがれていようと当たり前のように行使できる――はずだった。


 一瞬の隙。

 デュークはそこに逆転の一手を見出し、ブレイドカノンを振るう。

 それでも薙刃は即座にシールドを展開しようとしたのだが――またしても発動しなかった。


 振り下ろされたブレイドカノンが突き出した状態にあった右手を切断し、更には右の眼球ごと深々と身体を斬り裂くのだった。


 そして話は冒頭に戻る。


 見事に(愚かにも)フラグ回収をして見せた薙刃に勝利宣言をするデューク。

 しかし薙刃は莫大なエーテルを解放し、その放出だけでデュークを吹き飛ばした。


「おいおい。この剣にゃあ、ベヒーモスの猛毒がたっぷり塗られてるんだがな」


 一滴垂らすだけでドラゴンすら無様にのたうち回り、瞬く間に全身を腐敗させるベヒーモスの猛毒。

 頬に掠り傷を付けたとき、欠片も動じた様子がなかったから、まさかとは思ったが、コレでもダメというのは流石に想定外だった。当たり前だ。


「ボケが。オレが毒に犯されるとか、ンなご都合主義があるワケねえだろうが」

「普通は逆なんだよなぁ」


 一瞬遠い目になるデュークだが、すぐに戦略を立て直す。

 一回きりの手品というわけではないが、好んで使いたい策でもないのだ。

 それでも目の前にいるバケモノを狩るには必要不可欠と憂いを呑み込んだ。


 対する薙刃も、先ほどの事象について考察を巡らせていた。

 薙刃は防御系の概念系や因果系の天賦なら無力化できるが、それは刀を振るうというアクションが必須なのだ。


 故に、思考を働かせる。

 無論、攻撃も忘れない。


 利き目と利き手の欠損、深い裂傷、猛毒への対処と諸々の問題により、世界を裂く斬撃を飛ばすことは出来なくなったが、それでも嵐のような攻防を重ねる。


(まあ十中八九因果系の天賦だろうな)


 ベヒーモスの猛毒もそうだが、随分と希少なアイテムを取り揃えているみたいだが、自身の勘がアイテムの可能性に斜線を引いた。


 薙刃は自らを襲った感覚を思い出す。

 呼吸の仕方を忘れたような――あるべきものが突如として消失したような感覚。


(因果を逆転させる? いや、それなら使いどころはもっと他にある。それにそんな強力な天賦なら、もっと条件が難しいはず)


 結果に働きを掛けるというより、相手に働きを掛ける天賦と見るべきだろう。

 距離を詰めたのは、もちろん斬るためではあるが、同時に『宣誓』の条件でもあると予想を立てる。

 

(因果系にしては緩い『宣誓』だ。つーことは、相手に依存するハイリスクハイリターンな天賦か)


 それにしては成功を疑っていなかった。

 つまり薙刃がいつのまにかリターンを確定させる何かしらの条件を満たしてしまったということだ。


(実力差の分からせ? や、違う気がするな。一定以上のダメージ? も、多分違う。特定の行動をしたら――みたいなアクティブ系じゃないと思うんだよな)


 証拠不十分かつ勘に依存した推測だが、薙刃は当たっているという自負があった。

 こういうとき勘が優れているというのは本当に便利である。

 

(もっかい見られば盤石まで持ってけるんだが)


 まあ難しいだろうというのが薙刃の結論だ。

 因果系の天賦は強力無比な反面、使い手に相当の負担を強いる。

 創るには、まさに地獄のような人生を体験する必要があり、使えば使うたびにその地獄のような人生を想起させてしまう。

 中にはフラッシュバックして使い物にならなくなった者もいるくらいだ。


 故に、使うにしても、それは今度こそ確実に倒せるという条件下に違いない。


(スペックでゴリ押し――は、ちと危険か)


 実力差が大きかろうと天賦次第でひっくり返せる可能性があるのが、この世界の戦いだ。

 要するに相性ゲーというワケだ。

 もちろん、だからと薙刃は自分が負けることはないと確信しているが。


「――――」


 薙刃は何も言わずに配信を切った。

 冷徹な瞳がデュークを見据える。

 スラスターを噴射して加速しながら刀を振るい、シールドを展開したデュークが真っ向から受け止める。

 瞬間、受け止めた力を反射するかのようにシールドから衝撃波が迸り、薙刃の体勢が崩れた。

 空かさずデュークのブレイドカノンが閃く。

 薙刃は片翼のスラスターを噴射し、コマのように勢いよく回りながらブレイドカノンの腹を蹴り抜いた。

 

 衝撃を利用して後ろに下がった薙刃は、背面にワームホールを開こうとし――成功した。

 デュークの背後に転移するや否や攻撃しようとしたが、自身の背後に飛ぶと予測していたデュークは既に攻撃の体勢にあった。


 勢いよく振り抜かれたブレイドカノン。

 薙刃はその軌道上にワームホールを開こうとしたが――今度は失敗した。


 心の軋みを感じながらもデュークが笑う。

 無防備な薙刃へとブレイドカノンが吸い込まれるように閃き、赤い華が咲き乱れた。


 

 


―――――――――



あんな次回予告しといて終わらんかったが……

次こそ決着です。

その後2話くらい後始末を書いて、ようやく地球に帰還でしょうか

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