第38話 うおおおおおおおおおーーーーっ!!
こんなことを言われたのは生まれて初めてだったんだろう。
間抜けな顔を晒すこと数秒、ようやく言葉の咀嚼に成功したバカ王子の顔が憤怒に染まった。
「顔真っ赤で草」
「貴様! 誰に向かって物を言っている!?」
「お前ですがあ??? え? 何? もしかして不敬罪とか言っちゃうつもり? たかが一国家の王族風情が、S級冒険者に?」
冗談キツイっすわ、と肩を竦める。
今のオレはやれやれ系主人公だ。やれやれ。
「……リシュ王子。俄かに信じ難いかもしれませんが、
重い溜め息を吐いたテレーゼは、こちらにジト目を向けてから常識の違いを説明した。
冒険者協会というのは、 個人や組織、公的機関から依頼を受け、冒険者たちに割り当てる斡旋所だが、その大本は〝スターオーシャンコミュニティ〟という星間領域を股に掛ける宇宙規模の超巨大企業だ。
〝スターオーシャンコミュニティ〟は星間領域でも指折りの勢力であり、星間領域に於ける国家間の貿易やインフラを中心に幅広い商売を展開している。
冒険者協会もその一環というワケだ。
星間領域で暮らす人々に『会社と言えば?』と聞けば、十中八九『〝スターオーシャンコミュニティ〟』と返って来るほど規格外の規模と知名度を誇っており、星間領域各地で運用する通貨も〝スターオーシャンコミュニティ〟が発行している。
つまるところ〝スターオーシャンコミュニティ〟とは、星間領域に生ける人々の生命線そのものなのだ。
〝スターオーシャンコミュニティ〟の恩恵が無くば各国が星間領域に築き上げた防衛都市を運営・維持することも間々ならないほどその権威は深々と食い込んでおり、莫大な力と独占的な地位が齎す権力は、国家を超越して尚有り余るほど莫大である。
そんな〝スターオーシャンコミュニティ〟の部署の一つである冒険者協会。
そこに属する冒険者の数は地球の総人口より多いが、現在S級の資格を持つ者は、十にも満たない。
その中の一人であるオレの立場は――ぶっちゃけ星間領域内に於いては、ガチで王族よりも上なのだ。
だからオレがエレイナにタメ口を利いても、誰一人忠言をしなかったんだよな。
だってオレの方が上なんだもの。
「バカな……そんなことが……!」
「あるのです。もし薙刃が本気で圧力を掛けようものなら、それだけで星間領域に築き上げた我が国は滅びるでしょう」
マジで色んなインフラ握られてるもんな。
優しい顔で近付いといて『えへへ、じゃあ御代金として心臓貰いますね☆ もう逃げられないぞ☆』だもん。新手のヤクザかな?
多大に貢献してんのは間違いないんだけど、利益を優先して人命を軽んじる黒い部分も普通にあるのがね。
商売と言えばそれまでだが。
「権力を笠に着るなんざ、ンなダセェことしねえよ。やるなら武力で直接焼け野原ひろしにするわ」
「尚悪いわよ、おバカ」
「と言うか、アンタのその態度も権力を笠に着てる証じゃないの?」
なるほど。リゼの言葉も一理ある。
オレのこの言動が、S級という立場が為せるものと思い至るのも不思議じゃないか。
「安心しろよ。例えS級という立場があろうとなかろうとオレの言動は変わんねえから。文句言うヤツ全員殴れば良いんだからな」
「ただのカスということね。把握」
やはり暴力……。
暴力は全てを解決する。
礼儀がなってない?
バカが。何でオレが凡人共の作り上げた常識に従わなきゃならんのだ。
おまいたちが拙僧に合わせよ。
まずはチミたち凡人がおいどんに敬意を払ぴたまへ。
「つーか、金なら幾らでもくれてやるって言ってたけどさぁ。たかが王子サマ如きがオレを雇えるほどの金を出せるワケねえだろ」
これはイキリ発言でも何でもなく、ホントのこと。
星間領域は国からすれば無限に等しい資材が眠るお宝の山だ。
その土地はもちろん、本来なら交流することの叶わない異世界との交易も可能となれば当然経済は活性化する。
経済が活性化すれば、物価を始めとした諸々がインフレするのも必然であり、その価格は、本来の数十倍に跳ね上がることも珍しくないのだ。
オレを雇おうと思ったら国家予算並み――とまでは言わないが、相応の金が必要となる。
何せ、こちとら複数の国家が力を合わせて対処に当たる大陸級はもちろん、何千という国家が対処に当たる惑星級すら単独で倒した実績を持つ唯一神ぞ?
まあその割りに手取りがイマイチ納得いってないから、そろそろ〝スターオーシャンコミュニティ〟にカチコミに行こうと思ってるが、それはさておき。
つまるところ、星間領域では王族の出せる金ですらはした金になり兼ねないのだ。現国王でもない王子サマとなりゃ尚更。
大企業の方が普通に金持ちなんよね。
王族の価値がほとんどない。
だから王練とかいう、力と権威を示す儀式が必要なんだろうな。
「ほおん。つーことは、お姫さんはお前さんを雇うだけの金があったってことか?」
《獅子王》が顎を撫でながらそんな疑問を述べる。
依頼を出したのはテレーゼなんだが、ここでバカ正直に言うのは悪手だな。
「なわけ。顔が良くて髪が長くて胸の大きくて気品があって性格も良い女からの依頼となりゃあ、99%オフも辞さねえよ」
「なるほど。真理だ」
「ああ、真理だ」
「うむ、真理だ」
分かるってばよ、と身振り手振りで巨乳を描きながらしみじみと頷く〝極北の旅団〟。
オレ、こいつらとすんげー仲良くなれそうなんだよな。馬が合うっていうの?
「男ってホントカスしかいないわよね、チビッ娘」
「ごめんなさい。妾の本当の姿は持ってる側なの(写真を見せる)」
「この角へし折ってあげましょうか」
「あう、あう」
青筋を浮かべたリゼがフェイルーンの角を弄ぶ。
何気に龍種相手にあそこまで砕けた態度を取れるって凄いことなんだよな。
王族のエレイナや大守護者であるテレーゼですら恭しい態度だし、《獅子王》も意図的に距離を取っている。
まあ星間領域に於いて龍種は神様みたいなモンだから当然か。
触らぬ神に祟りなしってな。
それを捕えて実験動物扱いをしてた帝国さんマジ帝国。
で、いつになったら本当の姿に戻るので?
「クッ! 不愉快だ! 帰るぞ、デューク」
王子という権力が通用しなかったせいか、はたまた自分を置き去りにワイワイ喋り出す面々に耐え切れなかったのか。
バカ王子はそうがなり立てるや否や、ズカズカと歩き出した。
「メシは良いんですかい?」
「このような連中と同じ場所で食えるものか!」
「オレという存在が神々しくて喉が通らないということですね、分かります」
「「「「「寝言は寝て言え」」」」」
ほぼ全員から突っ込まれて草なんよ。殺してあげましょうかですわよ候なりけり。
エレイナと白髪獣耳少女を見習え。
「黙れ!」
バカ王子がドン! とテーブルを殴り付けた。
どうやら気安いやり取りすら勘に触ったようだ。
「……俺は絶対、王になる。例えどんな手段を使ってでも、必ずだ。そうじゃなきゃ……俺は何のために――」
ドロドロと煮え滾った憎悪をエレイナに――否。
彼女の奥から垣間見える仇敵に向け、今度こそバカ王子は去って行った。
――――――――――
迅切薙刃
このあと重苦しい雰囲気になったので『国を滅ぼされたくなきゃ一発芸を披露しろ』と暴君ジョークを周りの客相手に炸裂しようか迷ったが、寸でのところで空気を読んだ。奇跡。
S級というのは本来、確かな実績と経験、信頼、折衝、人格面の全てを兼ね備えた至高の傑物にのみ与えられる至高のランクだが、唯一実力だけで登り詰めた。
〝スターオーシャンコミュニティ〟苦渋の決断である。胃薬を捧げよ。
エレイナ
作中一番のお労しや枠。
ちょっと怖いなと思っていた兄がチート過ぎるせいで、懐いていた兄に坊主憎けりゃ袈裟まで憎いと敵愾心を抱かれるようになった。
もう昔のようには戻れないのかな?
リシュ王子
昔は自分がラシュアンの王になり、民を導くんだと王道ムーブをかましていたが、腹違いの兄弟がとんでもチートだったせいで徐々に歪んでいったお人。
自らが血反吐を吐くほどの努力をしても、ファイには全く届かない現実に心がポッキー。ファイが実は裏で努力をしていた――とかいうエピソードも一切なく、本当に才能だけで飛び越えていったから報われない。
あらゆる分野で片手間のファイに敗北してきた。
ファイ王子
稀代の名君の素質持ちにして、稀代のトラウマ&コンプレックス製造機(身内限定)。
どこぞのイキリダン太郎と違い、人格面も優れているので比較対象とされる身内たちには『でもアイツ〇〇なんだよなぁ』等の一切の逃げ場がない。
リゼ
そんなにデカパイが良いか!!?
男たち
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!!!!!!!
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