第37話 パーフェクトコミュニケーション!
「チッスチーッス。次会うときは存分に殺し合おうとか言ってた《獅子王》サンじゃねえっすか。こんなところで遭うなんて奇遇スね~」
「おう。お前さんとは一回した顔合わせたことはないが、絶対揚げ足取ってくると思ってたぜ」
オレの揶揄いに獅子王は特に気分を害する様子なく飄々と答え、近くの席にドカリと腰を降ろした。
「チッ、何でこんなとこに《暴君》がいやがんだよ」
と、こちらに敵意を剥き出しにする糸目の男。
隣には浅黒い肌の大男がおり、そいつも同様の視線を向けてきていた。
「やられ役乙とやられ役乙二号じゃねえか。こんなとこって、レストランはメシを食う場所で、人間はメシを食べないと生きていけないんだが、そんなことも分かんないんでちゅか~? ゆぷぷ。おお、哀れ哀れ」
「こんのクソガキィ! 誰がやられ役乙だ! 俺にゃあ《赤風》っつー二つ名があるんだよ!」
「《赤風》? あんま強くなさそうな二つ名ですね。あ、実際そんな強くなかったわ!」
「よーし上等だあ! 表出やがれ!」
腕を捲り上げ、ズカズカと歩を進めようとした《赤風》だったが、浅黒い大男が両肩に腕を回して制止した。
「落ち着け、サーペンス。店にも周りの客にも失礼だ」
「あ、一刀で斬り伏せられたヤツじゃん。そのデカい図体って見せかけだったんスね」
「お前を殺す」
デデン。
「乗せられてんぞ、ハーティ」
野郎はどうでも良いんだよ野郎は。
それよりも、とあの白髪獣耳少女の行方を探せば、既にリゼが絡みに行っていた。
「こないだは一丁前なこと言ってたけど、あのときは天賦を使わなかったから不覚を取っただけよ。調子に乗らないことね」
「? ……チカラがあるのに使わずに負けた。一番恥ずかしい」
ほんソレ。
白髪獣耳少女の正論にブチキレそうになったリゼだが、寸でのところで持ち直す。
「んん! アレは次を見越しただけよ。実際、私はアンタの天賦を知ってるのに対し、アンタは私の天賦を知らない。つまりあの戦いは、先の先を考えた敢えて敗北だったのよ。そんなことも知らず差し出された勝利を真に受けるだなんて、まだまだ甘っちょろいわね!」
オレは白髪獣耳少女に近寄り、耳打ちをする。
疑問符を浮かべる白髪獣耳少女にうんと頷いてやった。
すると白髪獣耳少女は純粋無垢にリゼを指差し、
「……よく喋る。負け惜しみ乙」
草。
「アンタはどっちの味方だあ!」
「そりゃあお前……」
チラ(中サイズのリゼの胸)
チラ(特大サイズの白髪獣耳少女のお胸)
WIN!
オレは白髪獣耳少女の腕を上げた。それだけでもたゆんと揺れるご立派様。
白髪の獣耳少女は状況を良く分かっていない様子だが、とりあえず自分が勝ったことにムフーと無表情ながらも上機嫌なオーラを放つ。パタパタ揺れる五本の尻尾。可愛いかよ。連中が猫可愛がりするのも分かるわ。
「よろしい。最初に殺すのはアンタよ」
――と、オレたちがドタバタギャグコメディーをしている裏で、向こうは絶賛シリアスパートに突入していた。
「第三の試練をクリアしたのか」
「……はい。リシュお兄様こそ私より半日先に達成したと聞きました。さすがです」
冷たく見下ろす王子サマに対し、エレイナは居心地が悪そうだった。
まともに目を合わせることもできず、下をウロウロしている。
「嫌味のつもりか? ファイならばもっと早くにクリアしていた、と」
「そんなつもりは!」
「ならばなぜ王練に参加した? 俺よりもファイの方が王に相応しいと思っているからだろう」
王子サマは拳を固く握りしめ、怨嗟を吐露した。
「それは被害妄想というものです。リシュ王子」
物怖じするエレイナの代わりに、テレーゼが澄んだ声を上げた。
「……テレーゼ」
王子サマはどこか複雑そうだった。
「王練とは、本来長い時間を掛けて諸々を調整し、万全を期して行われる由緒ある儀式です。ですが、国王様はそのしきたりに逆らい、開催を強行しました。――それも参加者が一人いないという状況下で」
あり得ません、とテレーゼはかぶりを振るう。
ちらりと周りを見れば、オレと同じように盗み聞きに徹していたラシュアンの人々は渋い顔で頷いていた。
ラシュアンではそれほど王練は大事な儀式であり、だからこそ代々受け継がれてきたソレに泥を塗った現国王に反感が止まらないって感じか。
元々不人気っぽかったのが更に拍車が掛かったっぽいな。たーいへん。
「エレイナ様は、その異を唱えるため王練に参加したのです。決してリシュ王子が王に相応しくないからという理由ではありません」
「詭弁だな」
「リシュ王子こそ、このような形で王になって満足なのですか?」
「……父上がお決めになったことだ」
ダ、ダサすぎる……。そう言ってりゃ言い訳立つもんな。
パピィの思惑に乗っかっただけって。しょうもねえわアイツ。
同情の視線を《獅子王》に向けると、やれやれと言いたげに肩を竦めた。
「――身内だからこそ、通さねばならない筋があるはずです」
「ッ、お前もファイの肩を持つのか!?」
テレーゼのそれは実感の伴った言葉だったが、王子サマは別の受け取り方をしたらしい。
例えば、テレーゼがファイのことを好いており、だから遠回しに自分を非難した、とか。
「? なぜそういう結論になるのですか?」
テレーゼは心の底からといった様子の疑問符を浮かべた。
肩透かしな反応から王子サマは思い違いをしていたことを悟り、羞恥に顔を赤くする。
舌打ちと共に踵を返した。
「……エレイナ。お前が王練に挑むのは勝手だが、命が惜しいようなら今すぐ辞退するんだな。――何が起こっても俺は知らんぞ」
去り際の言葉は、このまま見逃すつもりはないということを暗に仄めかしていた。
「リシュ王子。貴方は……!」
いきり立つテレーゼだったが、王子サマは取り合わず二歩ほど足を進め、ピタリと止めた。
その視線の矛先は、何とオレくんであった。
何か全員が『ヤベェ』と言いたげに真っ青になったのは気のせいかしら?
こんな慈愛と献身の塊に対し、なんと失礼な。
このオレが王族相手にバッドコミュニケーションをするとでも?
何たる不敬。何たる屈辱。
しからば刮目せよ。我がパーフェクトコミュニケーションを!!
「……お前が《暴君》か。フン、その名に違わぬ粗野な男だな。エレイナの護衛に付いているようだが、こちらに付くつもりはないか? 金なら幾らでもくれてやる」
「あ? テメェ誰に向かって舐めた口利いてやがる。ブチ殺すぞ劣等種」
だって! コイツが!!
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