第35話 やはり暴力……!
口内にエーテルカノンをぶっ放すという人の心案件な不意打ちは、完全な形で決まった。
とは言え、さすがにヴォルスピナを一撃で倒すには火力不足だ。
や、ちとこれは語弊があるか。
エレイナのエーテルカノンは高火力だ。
単純にヴォルスピナが頑丈なのだ。
アイツもA級に属する大型モンスターだからな。
ゲーム的に表記するなら、HPの二~三割を削ったってところかな。
突然の襲撃にヴォルスピナも激おこぷんぷん丸(死語)。
まあ『シャオラー! 勝ったどー! ワシに挑むなんざ百億万年早いんじゃ! ほな、いただきます』しようとしたら『こんにちわ死ね』されたんだから怒りもするわな。
「やれやれ。菩薩級の寛容力を持つオレをちったぁ見習ってほしいもんだ。やれやれ」
「バカ」
「は???」
:寛容どこいった
:草
:こーれ完全にキレてます
:堪忍袋の緒が細すぎる件
:こういう芸風なんだよ
:やれやれ(殺れ殺れ)
:ウケる
怒りの形相を浮かべたヴォルスピナがエレイナへと襲い掛かる。
帯電状態により肉体が活性化しているのか、その動きは残像を残すほどに速かった。
右に左にとエレイナを翻弄するよう揺さぶりを掛けながら鋭爪を振るう。
だが、エレイナは動きに惑わされることなくブレイドカノンで応戦した。
ガキィン! ガキィン! ガキィン! と重厚感のある金属音が木霊する。
「くぅっ」
上手くいなせていたが、それでも大型モンスターの攻撃は重く、地面を削りながら後退してしまう。
エレイナは即座にトリガーを引き、エーテルカノンをぶっ放したが、ヴォルスピナはひょいと避けた。
二発、三発、四発と続けざまに撃ったが、結果は同じだった。
:迅切氏みたいに薙ぎ払ったりせんの?
:薙刃だけに?
「殺すぞ。あの使い方はバカみたいにエーテルを食うからな」
「湯水の如くエーテルを使いたい放題できるのはコイツくらいよ。仮に薙ぎ払ったとしてもヴォルスピナの速度に追い付けないでしょうし」
「素早い相手にエーテルカノンは相性が悪いからなぁ」
連射も利かないし。
そういう相手には、やっぱスナイパーよ。
「アンタならどうする?」
「ワンパン」
「ほんとカケラも参考にならない男ね」
「強すぎて申し訳ねえ。その上イケメンで性格も良くてほんと申し訳ねえ」
「喚いてろ」
:辛辣で草
:まあこういう返しができるのは、迅切氏の良いとこだよね
:本人も意図的にツッコミやすい隙を作ってるっぽいしな
:顔と実績はガチなんだよな。特に後者(なお中身
:俺も学校であのノリやってみようかな?
:相応のスペックがないとだだ滑りするだけだと思うが、大丈夫か?
:やめときましゅ……
:あ(察し
:無情
エーテルカノンを回避しながら高く跳躍したヴォルスピナは、くるりと上下を入れ換え、刺々しい甲殻を下にすると、そのまま落下した。
バックステップで距離を取るエレイナに追撃を掛けるため、起き上がりつつしなやかな身体を回転。刺々しい甲殻の一部を散弾のように飛ばした。
「わっ」
咄嗟に前面にシールドを展開してしまうエレイナ。
「「あ」」
オレとリゼの言葉が重なった。
シールドはしっかりと飛来する甲殻を防ぐことには成功したが、それらは帯電しているのだ。
「あばばばばば」
案の定、着弾と同時に膨れ上がった雷撃を受けるエレイナ。
エーテルが多いだけあり、大したダメージではないだろうが、軽度の麻痺に陥ってしまった。
「あそこは自身をすっぽり覆うシールドを展開するのが正解だったな」
一時的に行動不能となったエレイナを力強く振り上げた鋭爪が襲う。
エレイナは麻痺になりながらも再びシールドを展開する。
エーテルの操作は意思によるもの。例え身体が動かなくとも操作自体に問題はないのだ。
とは言え、踏ん張りが利くわけもなく、大きく吹き飛ばされてしまった。
何度も身体をバウンドさせ、ゴロゴロと地面を転がる。
すかざず飛び掛かったヴォルスピナ。
ギリギリで麻痺から復帰したエレイナは、エーテルカノンを放ち、ヴォルスピナを撃ち落とすことに成功した。
攻守が入れ替わり、今度はエレイナが攻める番になった。
エーテルを漲らせた彼女はジェット機のように疾走して距離を詰める。
勢いの乗った斬撃は容易く甲殻を砕き、その奥に隠れた皮膚を斬り裂いた。
一つ、二つ、三つと斬撃を重ね、堪らず苦悶の声を上げて仰け反るヴォルスピナ。
その拍子にハッキリと顎下から腹部が露見する。
そこは爬虫類のように鱗が存在しなかった。
ヴォルスピナが体勢を立て直し、睨み合う両者。
再び激突。一進一退の攻防が繰り広げられる。
豊富なエーテルを活かし、爆撃のような攻撃を放つエレイナと、雷撃を自在に操るヴォルスピナ。
互いに傷つけ合うも、一向に戦意は衰えない。
ヴォルスピナが再び天に高らかな咆哮を上げた。
晴天から降り注ぐ落雷が導かれるように一本角へ落ち、消耗した分の雷を補填する。
するとヴォルスピナは、ブンブンブンをかぶりを振った。
その数だけ一本角から雷の斬撃が放たれる。
斬撃の幅は広く、一つ一つの角度も異なるために回避は困難だ。
同時に雷撃ということもあり、先の失敗を鑑みれば安易な防御も択から外れる。
やはり普通なら自身を覆うようなシールドを展開するのが正解だろう。
エレイナの取った行動は、シンプルイズベストだった。
それは豊富なエーテルに飽かした突撃だ。
エーテルの出力を更に引き上げ、膨大なエーテルを全身に纏った今のエレイナは、もはや動く要塞そのもの。
どうやら決めに入ったようだ。
「なんつーバカエーテル」
「やっぱシンプルな暴力こそが最強なんだよな」
豊富なエーテルも出力が足りなければ宝の持ち腐れだが、エレイナは問題ないようだ。
雷の斬撃が直撃したが、その身が纏うエーテルを通り抜けることは叶わず霧散する。
迎え撃つヴォルスピナだったが、それをエレイナは真っ向から捻じ伏せた。
振り下ろされた鋭爪にブレイドカノンを合わせ、右腕ごと破壊する。
横薙ぎに振るわれた尻尾を掻い潜り、懐に飛び込んだエレイナの刺突が深々と腹部に突き刺さった。
絶叫――そして、それを掻き消す爆発が響く。
エレイナがエーテルカノンを撃ち込んだのだ。
それは奇しくも先ほどヴォルスピナ自身がモンスターを仕留めた技と酷似していた。
内と外から浴びせられる攻撃にのたうち回るヴォルスピナ。
エレイナはそこに二度、三度、四度とエーテルカノンを叩き込んだ。
爆発。爆発。爆発。
それが決め手となり、ヴォルスピナがゆっくりと崩れ落ちる。
「ふぅ」
色んなところに怪我を負いながらも額の汗を拭うエレイナ。
可憐な衣装もすっかりボロボロで、土と血で汚れた姿は到底お姫サマとは思えない有様だ。
それでも彼女はニッコリと笑い、上空で見守っていたオレたちにピースサインを向けるのだった。
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