第21話 それは爽


 まさかのヴィマーナ損失というハプニングに見舞われた結果、オレたちはラシュアンの戦艦に乗せてもらうことになった。

 ホンマこの化石ロリ。


「だから悪いのは悪乗りした視聴者であって――」


 隣を歩きながらぶつくさ文句を垂れるフェイルーンの頭には立派なタンコブ。

 もちろんやったのはオレだ。

 コイツのしでかしたことを考えたら、これでも甘すぎる処遇だろう。

 しかし、視聴者たちは違った模様。


 :そうだそうだ!

 :悪いのは俺たちだ! フェイたんを責めるな!

 :幼女に暴力……? ふぅ、久々にキレちまったよ

 :イエス・ロリータ、ノー・タッチの精神を知らんのか?

 :寛容が足りないよ寛容が。笑って許すのが男の度量と言うものだろうに


「アレ、オレが知る限り一番文明の進んだ世界が作った最新鋭のヴィマーナ。日本円で換算すると二百億。それをコイツは何度も壊してきたわけだが?」


 :に……!?

 :ッスゥー

 :……今日も良い天気ッスねー

 :おっと飯の時間だ

 :風呂食ってくる!(バリバリバリバリバリ!)

 :ホントに風呂食ってる!

 :ボチサミサンタイで……みんなに笑顔を……!


 現金なヤツらめ。

 S級冒険者の依頼となれば、一つの報酬で億単位の金が入るのは珍しくないが、だから何だという話だ。

 コイツの出した損失額で、一体どれほどカジノで豪遊できたことか……!


 オレたちが到着したのは、医務室だ。

 ドアがスライドした途端、消毒薬の匂いと、苦痛に喘ぐ騎士たちの声が飛び込んでくる。

 先ほどの戦闘に於ける負傷兵だ。


「彼らを治せば良いのね?」


 ここに来た用件は、まあそういうこと。

 貸しは幾らあっても困らないからな。


「ああ。だが、大丈夫なのか?」


 フェイルーンの疑問に答えたのは、道案内をしたレイゼルだ。

 やや胡乱な瞳をフェイルーンに向けている。

 まあヒーラーは世界的にも希少だし、これだけの人数を治すとなるとエーテルが枯渇すると考えるのが普通だ。

 どれくらいヒーラーが希少かというと、やんごとなき身分のお姫サマが乗艦した部隊でさえ二人しかいないという限界集落っぷりである。


 それに対処法を間違えると却って悪化する可能性もあるからな。

 例えば、傷口に黴菌が残ったまま傷を治したり。

 粉砕した骨を治したは良いものの、破片となった骨が残ったままだったり。

 漫画やゲームに登場する回復魔法のようなご都合主義が働かないのがヒーラーの世知辛いところだ。

 だからレイゼルの心配も最もである。


 まあ、何事も例外というのは存在するのですが。


「委細、問題ないわ」


 フェイルーンから温かな光の粒子が放たれる。

 揺蕩うように舞い上がるエーテルが徐々に負傷兵たちの身体へと吸い込まれ、瞬く間にその傷を癒やしていった。

 欠損した四肢も何のその。

 内臓を吹き飛ばされ、虫の息だろうと無問題。

 内臓や手足が無くなったのなら新しいものを生やせば良いじゃない♪ とばかりに失った部位が再生していく。


「なん、と……! こんなことが……!?」

「久々に見たけど、やっぱ反則だよなー。世界的に有名なヒーラーですらベ〇マ数発が限界なのに」


 なおフェイルーンのように内臓や手足の再生は不可能とする。


 :待って待って待って。フェイたんってこんなヤバかったの?

 :ただの幼女じゃなかったんか……

 :これベホマ〇ンどころかザオ〇ーマじゃね?

 :俺の腕も治したりしてくんないかな

 :こんなんチーターや!

 :でもロリやぞ

 :全てを許そうフェイルーン。何故なら俺は、最初からロリコンだったからさ。ペロペロペロペロペロ!

 :ロリコダイル……!!

 :吐き気を催すカスは黙ってもろて


「――なるほど。あれが『この世界』を作ったと謳われる龍神のチカラというわけか」

「あいつは関与してないっぽいけどな」


 龍種とかいう、大体の作品で世界の根幹を握ってる存在。

 確か龍種が死ねば、その遺骸は星間領域を広げる苗床となるんだったか。

 三年前に地球と繋がったのも、とある龍種が死に、星間領域が拡張された結果というわけだ。

 この後、フェイルーンが神の如く崇められたのは言うまでもない。

 コイツ、オレのヴィマーナ壊した戦犯なんだが???




 次にオレたちが向かったのは、エレイナの私室である。

 どうやら彼女的にはまだ色々話したいことがあるようだ。


「そう言えば、迅切さんたちは、どうしてテレーゼに?」


 お山の如く聳え立ったお菓子を、凄い勢いで減らしながらエレイナが言った。

 まさかの腹ペコキャラと来たか。

 あの細い腹の一体どこに……ああ、その上辺りにご立派なご立派様がどたぷ~んと実ってましたね。

 その特盛サイズには、コメント欄も『でっっっ』と大盛り上がり。


「実は――」


 と、オレは内情を話した。


「なるほど。うちから支援を受けるために。確かに、祖国に繋がるゲートを野晒しにはできないですよね」

「あそこを抑えられたら侵略され放題だからな。オレくらい優しい人間になると、故郷が襲われる可能性を見過ごすわけには行かないんだよ」

「「普通のことでは???」」

「あはは……」


 フェイルーンとノエルのツッコミ。

 ああ言えばこういうヤツらがよ。エレイナを見習え。


「迅切さんの国は、どんな国なんですか?」


 彼女はラシュアンの王女だ。

 そしてこれからラシュアンの力を借りようと言うのだから、少しでも良い印象を持ってもらうのは大事だろう。

 そう思ったのだが、一歩遅かった。


「変態不審者の集まりね」

「え――」

「ガタッ」


 フェイルーンの冷めた一言にエレイナの表情が固まり、ノエルがガタつかないテーブルでガタついた。

 つか、おのれはエレイナの後ろに立ったままやろがい。


「えーと、聞き間違いでしょうか?」

「残念だけど事実よ。これが証拠ね」


 と、フェイルーンがコメント欄を見せる。


 :幼女にへんたいふしんしゃさんって言われちゃった。……ふぅ

 :我々の業界ではご褒美です

 :つか、お姫様のお姫様デカくね??? アズ〇ンかよ(最高です)

 :うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! おっぱいぷるんぷるん!

 :総統閣下!

 :リアルであんなボンキュッボン存在したんだ……

 :こんなんじゃ俺……可能性の獣になっちまうよ

 :ごめん、母さん……俺は、いくよ(意味深)

 :ユニコオオオオオオオオオオオン!

 :完全勝利した巨乳派UC

 :ぐお、想像の羽ばたきが収まらん……! うっ

 :ぱいぱい七拍~~子!

 :ぱいぱいぱい! ぱいぱいぱい! ぱいぱいぱいぱいおっぱいぱい!

 :ぱいぱいぱい! ぱいぱいぱい! ぱいぱいぱいぱいおっぱいぱい!

 :ふううううう~~~~~~~~~~~~~~!!

 :(゚∀゚)o彡゜おっぱい! おっぱい!

 :(゚∀゚)o彡゜おっぱい! おっぱい!

 :後ろのメイドさんも良き

 :あのクールな美貌に見下ろされるの想像したら堪らん

 :吾輩、椅子になる覚悟あります


 ……オレさぁ。

 自分ではさぁ、『善人の化身』とか『慈愛の具現化』とか色々言うけどさぁ。

 あれは軽いジョークでさぁ、自分の本性はさぁ、ちゃあんと自覚してるんだよね。

 ――そんなオレにガチで頭抱えさせるお前ら凄いよ。

 負けた! って思いました。

 もう散体しろ。

 ぱいぱい七拍子って何やねん。

 ちと面白そうと思ったじゃねえか、ボケが。


「ね」

「あ、あはは……」

「エレイナ様。是非この国と国交を結びましょう。このノエル、魂の故郷を見つけました」

「下がってろファッキンメイド」

「四つん這いになれと?」

「無敵か???」


 溜め息。そして話題を変えるため、オレはお菓子を取り出した。


「そうだな……ちとクセの強いヤツが多いが」

「ちょっとかしら」

「ちと! ちっとばかしクセの強いヤツが多いが、ちゃんと良いところもたくさんある。飯が美味いとかな」


 オレがテーブルに置いたのは、お嬢様な夕姫御用達の代物だ。

 フェイルーンから伸びた手をパシッと叩き落し、エレイナへと差し出す。


「オレはラシュアン以外にもたくさんの星々を巡ったけど、うちの国より美味い飯は無かったよ」


 エレイナの様子を窺うと、目がしいたけになっていた。


「良いんですか?」

「もち。好きなだけ食ってくれ」

「では、いただきます」


 実に嬉しそうに、それでいて品を感じさせる所作でエレイナはお菓子を一口。

 すぐに満開の華が咲いた。


「凄いです凄いです! こんな美味しいお菓子は初めて食べました! ノエルも食べてみて下さい!」


 キャッキャとはしゃぎながら後ろに控えるノエルにも勧めた。


「では、失礼して。――素晴らしい」


 ノエルの言葉は一言だけだったが、そこには万感の想いがあった。


 :おにゃのこが美味しそうに食べる姿って何でこんなに絵になるんだろうね

 :あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~

 :日本の食べ物が評価されるの素直に嬉しい

 :これ異世界行けば料理人の需要めっちゃ高そうじゃね?

 :始まったな、俺の時代!

 :どうやって異世界に行くんだよ

 :始まる前に終わったな、俺の時代

 :あれどこのお菓子? ちょっと気になる

 :高級菓子だから諦めろニート

 :ニ、ニニニ、ニートじゃねえしゅ!

 :誤字乙


 あ~と~は。

 お菓子に夢中になってるエレイナを尻目に掛けながら、ボソッと視聴者に話し掛ける。


「女性リスナーに聞きたいんだけど、異世界の姫を主人公にしたおススメの少女漫画とかないか?」


 :任せろわよ

 :お確かにお日本はお漫画がお強いですわね

 :ボー〇ボ

 :異世界人にはまだ早すぎますわよ

 :日本人にもまだはえーですわよ


 これ野郎が女口調で喋ってるだけじゃね?

 訝しみながらコメントを眺め、おススメ数の多かったタイトルで検索を掛ける。


 ふむ、優秀な家族との才能差にコンプレックスを持ったお姫様が、チョイ悪系のイケメン冒険者と出会い、旅をしながら恋に始まり、色々なものと向き合う話か。

 評価も高いし、これでええか。購入&ダウンロード。


「他におススメと言ったら娯楽系かね。コレとかかなり人気みたいだぞ」


 と、電子書籍のアプリを映したウィンドウを差し出す。

 これもEVEの良いところだよな。

 ウィンドウをポイポイポイポイポイってスペックの許す限り浮かべられるんだから。


「これは、漫画ですか。……優秀な家族との才能」


 エレイナは神妙な面持ちで漫画を読み出した。

 もしかして地雷踏んだ?

 や、様子を見る限り結構のめり込んでるな。


 :異世界にも漫画ってあるん?

 :分かる。異世界と言えば小説オンリーってイメージだった

 :やはりボー〇ボを布教するしか

 :だからまだ人類には早いって


「普通にあるけど、やっぱサブカルは日本の方が優秀だよ。異世界のはお行儀が良いっつーか、ケレン味が足りないんだよな」

「其方たち日本人の性癖が闇深いだけでは?」

「それはそう」


 :それはそう

 :それはそう

 :それは爽

 :それはアイス


 

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