第20話 異世界人に日本の伝統芸を教えた結果
と言うわけでラシュアンの騎士と交戦状態にあった連中は、一通りしばき倒した。
今は大地に落下したカス共を回収&捕縛&顔面に『十年は絶対消えないペン』でラクガキをしている最中だ。
えーと、コイツには肉。コイツにはウンコマーク。コイツには女の裸体。
「いっそ殺して???」
「オレ、人を殺すとか出来ないタイプなんだよね」
「じゃあその勢いで尊厳の方も――」
「口応えすんな殺すぞ」
「お手手どうなってんだ……!?」
生かしてやってるだけありがたいと思えや、おおん。
うし、とりあえずオレが落とした連中は全員縛ったな。
向こうと合流しよう。
手持ち無沙汰だったので縄をぐるんぐるん回しながら不時着した中型戦艦へ歩を進める。
「ぎゃあああああ!」
「目が回るううう~!」
「痛い痛い痛い! 擦ってる擦ってる!」
「髪が! 髪があ!」
そんな悲鳴をBGMに、向こうの様子を見遣る。
結構こっぴどくやられてんな。怪我人も多く、右に左にも駆け回る軍人が多く見受けられた。
その中には、戦闘中に話し掛けてきた騎士もいた。
金髪のイケメンだ。
如何にもって感じ。
相応に地位のある人間だったのか、あくせくと指示を飛ばしている。
お、目が合った。
軽く手を挙げると、こちらに近付いてくる。
「先ほどは救援感謝する。僕はレイゼル。ラシュアン軍に所属する騎士だ」
「どーも。オレは
と、縛り付けた連中をレイゼルの眼前に放り投げる。
「随分奇抜な差し入れだな」
苦笑するレイゼル。
何と返せば良いのか迷ってる感じだ。
「要らんならその辺のモンスターの肥やしにでもすりゃいいよ」
「いや、彼らは貴重な情報源だ。ありがたく頂戴させてもらうよ」
レイゼルが控えていた部下らしきのに目配りをすると、そいつは連中を引き連れ、戦艦の方へと向かって行った。
「で、こんなことこっちに聞くのはアレなのは分かってるんだけど、あいつらは悪い奴だったってことで良いんだよな?」
「ああ。彼らは最近名を聞くようになった猟兵だ。……確かに彼らは戦争屋と揶揄され、敬遠されているが、まさか軍艦を襲うとは」
「そらそうだ」
猟兵というのは、冒険者とは似て非なるアウトローな何でも屋だ。
冒険者が協会という社会的信用のある組織から斡旋される依頼をこなすのに対し、猟兵は依頼人から直接仕事を受ける形態を取っている。
故に、後ろめたい汚れ仕事を請け負うことも珍しくなく、彼らがこの殺伐とした業界で生き抜くには、高いリスクマネジメントが必須なのだ。
そんなダーティな仕事柄、冒険者や正規軍とは、対立関係にある。
ヤクザと警察みたいなもんかな。
しかし、だからと事を構えれば只では済まないと承知しているため、猟兵が積極的に冒険者や正規軍を襲うことはないというのが定石だったのだ。逆もまた然り。
今回猟兵は、その定石を逆手に取ったというわけだ。
つまり、それをするだけの『理由』があるわけで……。
自然とオレの視線はレイゼルたちの戦艦へと向いた。
すると、スロープから二人の女性が現れた。
片方は上品なドレスに身を包んだ可憐な少女。
もう片方は護衛役も兼ねているのか、立ち振る舞いに隙のないクールなメイドだ。
俄かに辺りが騒がしくなり、レイゼルからも驚きの声。
慌ててレイゼルが駆け出す。
「エレイナ様!? ここは危険です。どうか艦にお戻りください」
「お気遣いありがとうございます、レイゼル。ですが、既に猟兵の方々は捕まえたんですよね?」
「はい。しかし、警戒を怠る理由にはなりません。まだどこかに待ち伏せが潜んでいる可能性もあるのですから」
「大丈夫です。私とて王家の一人。狙撃に対する心得はありますともっ」
王家と来たかー。大事になって来たぞー。
王家が
「そういう問題ではないのですが」
「……ごめんなさい。でも、私、どうしても彼とお話しがしたくて」
と、エレイナと呼ばれたお姫様の視線がこちらに向いた。
パッと喜色を咲かせ、小走りで駆け寄って来る。
銀のティアラを乗せた黄金の長髪がふわりと優しく広がり。
たゆん、たゆん、と大きな二つのお山さんが上下に揺れた。
デカ過ぎんだろ……。
なんちゅうサイズだ。
これでお姫様は無理があるでしょ。
日本じゃまずお目に掛かることのない特盛である。
アズ〇ンの世界からやって来たんか???
「あの、迅切薙刃さんですよね? 私、エレイナと申します。助けて下さってありがとうございました」
ぺこりとエレイナは一礼した。
すかさず横に控えたクールなメイドさんが注意する。
「お止めください、エレイナ様。どのような事情があろうと王女たる貴女が頭を下げるなど。迅切殿が『王女様がオレに頭を下げた? つまりオレの女になるってことで良いんだよな? よ~し、この全国民を虜にしたデッケェおっぱいはオレのもんだ。おら、おら。昼間っからパーリィナイトだぜ~』と勘違いしたらどうなさるのです」
「頭沸いてんのか、この女??」
クールな面からとんでもねえパンチが飛んで来やがった。
「あはは……ノエルのことはどうかお気に慣らさず。いつもこんな調子ですので」
「そうか。終わってんのな」
「言動以外は本当に優秀なんです……」
ノエルと呼ばれたメイドを一瞥する。
すると彼女は、いやんと身体をくねらせた。無表情で。
優秀なヤツに限って頭のネジがぶっ飛んでんだよなぁ。
ちっとはオレを見習ってほしいものである。
「――で、その王女さんがオレに何か用でもあるのか? オレのことを知ってるみたいだが」
「はい、テレーゼから迅切さんのお話を聞きまして、是非とも一度お会いしたいなと思ってたところなんです」
嬉しそうに胸の前で手を組み合わせるエレイナ。
スゲェ、それだけでお山の形がふにょんと変形しとるが。
だからデカ過ぎんだろ……。
「テレーゼか。あいつは元気か?」
「もちろんです」
「そりゃあ良かった。ちなみにテレーゼはオレのことを何て言ってたんだ?」
「そうですね。『やること為すことどれもぶっ飛んでて思考回路は犯罪者。悪という言葉を擬人化したような存在――』」
ふぅ、遂に友人を手に掛ける時が来たか。
「『だけど同時に悪を嫌う性質も併せ持ち、義理人情には筋を通す――悪を以て悪を制し、正義を煽る不思議な存在よ』」
命拾いしたな、テレーゼ。
「『総評すると、そうね……うん――鬼畜外道。絶対に関わっちゃダメよ』と」
やっぱ処すわ。
――にしても、調和を是とするテレーゼが他人にそういうことを言うの珍しいな。
「仲良いのか?」
「はいっ。大事な親友です」
ま、今となっちゃあ、あいつはラシュアンの大守護者だもんな。
その権力や名声は、王族に勝るとも劣らない。
元々その地位を嘱望されてたっぽいし。
そう考えるとエレイナとテレーゼは、唯一対等な存在というわけだ。
「で、その親友からの忠告を破って良かったのか?」
「大丈夫です。だって迅切さんの話をするとき、テレーゼはとても楽しそうでしたから。テレーゼのあんな顔、初めて見ました」
「……そか」
何か急に居心地悪くなりましたね。
「そう言えば迅切さんは、どこへ行くつもりだったんですか?」
「御宅のとこ。ちょうどテレーゼに会いに行くつもりだったんだ」
「そうなんですか!? じゃあ是非一緒に行きましょう! 良いですよね?」
「ああ、全然大丈夫だ――あ」
フェイルーンのこと忘れてた。
「悪い。旅の仲間を空に置いてきたんだった。ちょっと迎えに――」
「お、おい、何か墜ちて来るぞ!?」
「敵襲か!?」
「は?」
オレが騎士たちの叫びに振り返った瞬間だった。
ちゅどおおおおおおおおん!!!!
――と、何かが墜落し、ド派手な大爆発が巻き上がった。
慌ててレイゼルを始めとする騎士たちがエレイナを守らんと前に出る。
モクモクと立ち上がる黒煙から現れたのは、見覚えのある幼女だった。
おかしいね。
彼女はヴィマーナにて待機中だったはずなのに、何でこんなところにいきなり現れたんだろうか。
一体何が墜落したのカナ?
「――――」
自分の中から表情を始め、色んなものが一斉に抜け落ちたのが分かった。
それを認めたフェイルーンが汗を滲ませて口を開く。
「違うのよ、薙刃。ちゃんと話を聞いて頂戴」
「――――」
「妾もね、最初は其方の言った通り大人しく待機するつもりだったのよ? そうしたら視聴者の皆がね、日本という国に於いて『やるなよ? 絶対やるなよ?』は『やれ』の合図だと言ったのよ。妾はそれを信じただけなの」
仕方なかったと言いたげに、身振り手振りも加えて話す。
「だから過失的には1:5:4だと思うの。1は素直にコメントを信じた妾。5は視聴者。4は紛らしいことを言った薙刃。これでファイナルアンサーだと思うのだけ――」
「ンなわけねえだろこの化石ロリがあああああああーーーーっ!!」
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