第19話 あの!?
「お?」
しばらくの空の旅を満喫していると、レーダーに反応。
目を凝らし前方を見遣る。
ちなみにこの場合、じっと見つめるという意味ではなく、目にエーテルを集めるという意味だ。
そうすることで視力が強化され、遥か遠くを見渡すことが容易となる。
その精度は彼のマサイ族さんすら優に上回るほどだ。
オレの視界が捉えたのは、全長百メートルほどの中型戦艦が一隻と、五艘の小型戦艦。
それだけなら星間領域だと特に珍しくもない光景だ。
前述の通り、ここバカ広いからの。
その上、生息するモンスターも星間行路より強いのがうじゃうじゃいるから、大人数で移動する際は、戦艦や装甲車が必需品なのだ。
――が、なぁんか様子が変だ。
ああ、なるほろ。並走しているだけかと思ったら、どうやら襲撃の最中らしい。
五艘の小型戦艦が、中型戦艦を襲っている。
白亜のボディには痛々しい被弾の痕が残っており、モクモクと黒煙が立ち昇っていた。
周囲には無数の人影もある。
そいつらの服装や武装はキレイに別れており、片方が上品な軍服と装備を携えた兵士なら、もう片方は粗忽な傭兵と言ったところか。
飛び交う剣戟と光弾の嵐。
戦いの趨勢は、後者に傾きつつあった。
:え、何あれ
:戦艦だああああ!
:し、思考が世界観に追い付かん……!
:って、もしかしなくても戦ってる? 人間同士で?
:ヤバない、これ?
ふむ、さすがに人間同士の殺し合いをそのまま映すのはマズいかしら。
EVEの設定を弄ってグロテスクな表現を控えめにしとこう。
これなら多少のリアリティは誤魔化せるはずだ。
「どうする?」
「決まってんだろ。オレは慈愛と勇気と道徳心に満ち溢れた迅切さんだぞ。困っている人を見捨てるなんてこたぁ、お天道様が許しても、このオレの正義の心が許さねえよ」
「意訳『報酬は幾らだろうなぁ、ゲピャピャ』と言ったところかしら」
「まずはお前から三枚に卸したろか、このガキ」
:凄い。俺、言葉の薄い厚いとかただの言葉遊びだと思ってたけど、全然そんなことなかったんだな
:だな。こんな薄っぺらいと思える言葉がこの世にあるとは思わなかった
:ほんと凄い。ここまで心に響かないことってあるんだ
:多分一人だけギャグの世界で生きてる
こういう連中を即座に始末する呪術とかどっかに転がってねえかなあ。
まあ何にせよ、あの軍服はラシュアンのものだ。
これから外交しようってんだからスルーすんのは悪手だろう。
そも初めて世話になった国として、相応に恩義もあるし。
「自動操縦にしてっと。じゃ、ちょっと行って来るわ」
「妾が操縦しても良いのよ?」
「絶対やめろヘタクソ」
コイツのせいで一体何度ヴィマーナを修理に出すことになったか。
毎度毎度『次は大丈夫よ』とか根拠のない自信を垂れ流しやがって。
オレがよくやる口八丁のポーズとは違い、本気でそう思ってるから質が悪いんだよ。
フェイルーンに「やるなよ? 絶対やるなよ」と念を押してからブレイドを展開。ヴィマーナから飛び降りる。
「まずは一発」
左肩付近に浮遊する機械仕掛けの大剣と、左肩付近に浮遊する長大のライフルを握る。
うん、やっぱ後者は、このSF味のあるデザインとトンファーみたいに逆手で持つスタイルが凄く良い。個人的にオサレポイントが高い。
双方のトリガーを引くと、大剣からは高出力の野太いエーテルカノンが、槍のように先端の尖ったライフルからは、エーテルライフルが放たれる。
前者は破壊力に、後者は貫通力に特化した仕様だ。
桜色に輝くエネルギー弾が的確に標的を捉えた。
貫通力に秀でたライフルは、二艘の小型戦艦のエンジン部を。
射線上に重なった瞬間をタイミング良く撃った結果だ。
対するエーテルカノンは、まずは傭兵らしき人間を呑み込んだ。
しかし、エーテルの放射は止まらない。
こちらはライフルと違い、トリガーから指を離さない限り、エーテルを放射し続ける代物なのだ。
トリガーノズルを付けたホースを想像すれば良い。
だからこうやって大剣を動かすと、エーテルカノンはその動きに追随しながら二人、三人と呑み込んで行った。無法だわぁ。
多分、死んではないと思う。
一応、肉体へのダメージを軽減させる非殺傷設定はオンにしとるからの。
それにブレイドには緊急時の保護機能が備わっているから、このまま地上に落下しても恐らく大丈夫だろう。
まあ打ちどころが悪ければ、そんときゃそんときで。
別に不殺を貫いてるわけでもないし、『ドマです』とだけ。
あくまで視聴者を気遣った結果だ。
「行け、クォンタム」
側面に展開していた細長い凧型の武装たちが、敵陣目掛けて飛翔する。
もしかして:ビット
もしかして:ファ〇ネル
大体そう。
SF要素ありで無線式の自律稼働武装がないのは、アホの所業よ。
正式名称は、クォンタム・レーザー。
声に出す必要ないのに、声に出したくなる兵器選手権ナンバーワンだ。
これには某戦闘民族の王子もニッコリ。
クォンタムを向かわせながら、同時にオレ自身も一気に加速する。
「な!?」
「うわっ」
ライフルとカノンにより浮ついたところに奇襲は、ピタリとハマった。
四方八方、縦横無尽に空を翔けるクォンタムから放たれたエーテルレーザーにより二割が撃墜。
突然の奇襲に驚愕しつつも何とかクォンタムを捌こうとする連中へと斬り掛かり、率先的に叩いていく。
「何だ、お前は!?」
敵認定した一人が叫ぶ。
……フッ。
「――通りすがりの正義の味方だよ」
「うさんくさ!」
「死ねカス」
男の顔面を強く蹴り抜いた。
全く、この身から放たれる圧倒的な善性のオーラを感じ取れないとは、侘しいヤツめ。一体どんな教育を受けたと言うのか。
「キミは……!?」
と、警戒と驚愕を半々に問い掛けてきたのは、ラシュアンの騎士だ。
オレは即座にそいつの方へとライフルのトリガーを引き、騎士の背後にいた敵を撃ち抜いた。
「通りすがりの冒険者だよ」
異世界共通の身分証である冒険者カードを見せる。
騎士は目を見開いた。
「S級、だと!? ……黒髪に青の機械翼。もしや《暴君》か!?」
その二つ名付けたヤツ絶対許さんからな。
何故に剣聖ではないのか。
「《暴君》!? 《暴君》だと! あの!?」
騎士の声を聞いた敵が驚きの声を上げる。
それは周りの連中にも伝播していった。
「S級の中でもぶっちぎりにイカれたと噂の、あの!?」
「実力千点、道徳マイナス一億点と言われた、あの!?」
「犯罪者よりも犯罪者してると言われた、あの!?」
「《暴君》が来るといった途端、どんな問題児も更生すると言われた、あの!?」
「超越の才を与えられた代償に全ての善性を失ったと言われた、あの!?」
「鬼畜外道の大悪党ですら『ちょ、一緒にしないでくれます?』とマジレスを返した、あの!?」
「よし、皆殺しだ」
オレは蹂躙を開始した。
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