第17話 いやあ……ミノタウロスくんは強敵でしたね

 




「いやあ……ミノタウロスくんは強敵でしたね」


 :草

 :ミ〇トさん!? ミ〇トさんじゃないか! 自力で脱出を……!?

 :彼はミ〇トじゃない(無言の腹パン)

 :グッ……!? スパ〇ボ……OG……新作、待ってます……(バタ)

 :いや流石にOGの続編は無理でしょ

 :どうしてそんなこと言うの……?

 :普通のスパ〇ボでいいよ。種自由の傲慢サンダーと傲慢ビームをはよ使いたい

 :映画マジえがっだ……

 :リアタイ勢は全員無事に成仏できたよ


 血糊の付いた刀を振り払い、鞘に納める。

 初めて戦ったときは相応に苦労したが、今となってはゴブリンと大差ないくらいだ。

 まあゲームみたいに戦えば戦うだけ強くなるシステムだもんなぁ。

 気分は二周目のデータを引き継いで序盤のボスを塵殺するようなものだ。


 ――確信した。オレは強くなり過ぎた。キリッ。


「お疲れ」


 壁際まで下がっていたフェイルーンがこちらにやって来る。


「――――」

「何かしら?」

「いや、相変わらず仕事しねえなって」

「仕方ないでしょう。妾はヒーラーよ。其方が怪我しない限りやることがないんだもの」

「まあそうなんだけどな」


 でも何か釈然としないっつーか。

 ここ最近、全っ然怪我とかしないから、マジでフェイルーンの役割がないんだよな。

 ネタで言ったけど、ガチで強くなり過ぎた。


 このままじゃオレ、イキリダン太郎になっちまうよ。


「一応、其方が戦っている間コメントの対応はしておいたわ」

「ふうん。それブヒブヒ鳴いてるだけじゃね?」


 :ブヒ(何だとお……!)

 :ブヒーン!(俺たちのどこがブヒブヒ鳴いてるって言うんだ!)

 :ブヒブヒブヒ!(そうだそうだ! 謝れ!)

 :ブヒッヒ!(ちくわ大明神)

 :ブヒィ?(誰だ今の)


「ノリ良いね、お前ら。で、初めてボス戦を観戦してどうだった?」


 :無理

 :こわすぎ

 :カケラも戦える気しないんですけど

 :田舎の農家を継ぐことにしました

 :ほんとに俺たちでも倒せるようになるん?


 ほぼ後ろ向きなコメントばっかだな。

 これが普通なんだろうな。

 異世界の連中も初のボス戦はガクブルだったみたいだし。

 それでも酒の肴になるくらいだから、乗り越えられないレベルじゃないはずだ。


「ま、何とかなるだろ。ちゃんとエーテルの扱い方を学べば、本格的に漫画の住民の仲間入りだよ。それに初めてのボス戦は基本的にキャリー枠が付くみたいだしな」


 :それでも怖えよ

 :俺はちょっと頑張ってみようかな

 :エルフ娘と出会うためなら某もミノタウロスと戦えるかもしれん

 :そっか……漫画の住民になれるし、獣耳美少女との出会いもあるのか

 :そう考えたら夢しかねえな

 :命を懸けるだけの価値はありやすぜ


「異世界は割りとどこも実力至上主義の傾向が強いからな。冒険者として成り上がれたら普通にハーレムもワンチャンあるよ」

「あらゆる世界が群雄割拠してるんだもの。強い種を優遇するのは当然よ」


 :う、うおおおおお!

 :ハーレム! ハーレム!

 :やってやるぜ!

 :ミノタウロスがなんぼのもんじゃい! 絶対倒してやるからな!


「顔が良ければ尚良し」


 :ひぃん

 :何で上げてから落とすの?

 :人の心とかないんか?

 :人間、大事なのは中身だと思うの

 :そうだそうだ!

 :人の根っこは心だ! 魂だ!


「じゃあ何で男物に登場するヒロインは美少女ばっかで、女物に登場するヒーローはイケメンばっかなんですかね。中身が大事なら主人公の相手役はフツメンで良くね?」


 と、常々思ってた疑問を尋ねてみる


「しかも相手役が容姿端麗なのに、主人公がフツメンの陰キャとか、それだけで究極のご都合主義だろ。何で選り取り見取りの存在が底辺の陰キャボッチを選ぶんだよ。コミュニケーションっつーモラルからも逃げ出して被害妄想全開で陽キャを妬む連中だぞ。常識的に考えてあり得ないだろ。チーレムの方がまだ納得できるわ」


 優しさ?

 ハッ、ソレこの世で一番簡単に被れる皮だろうが。

 つーか、主人公の善人アピールって、作者の「この子はこんな優しい子なんですよ~」っていう明け透けな感情が伝わって来てキツいんだわ。


 :ひぃんpart2

 :ワァ……

 :泣いちゃった

 :正論やめろ

 :人の心ォ!

 :おのれ逆張りキッズが! ラノベの中でくらい夢を見させろォォオオン!


 猛反発で草。

 オレは男女の吊り合いが取れたラブコメの方が好きなんだがなぁ。

 陰キャ系主人公とかエンディング後を想像したら、大学辺りで普通に破局、もしくはNTRしそうじゃん。

 物語とは言えさ、コイツなら絶対ヒロインを幸せにできるだろって思わせる主人公であってほしいんだよな。


「雑談はこんくらいにして次の階層に行くとしますか」

「待って、薙刃」


 一歩踏み出したところでフェイルーンに呼び止められる。


「どした?」

「ここで一先ず攻略は区切るとしましょう。一気に情報を開示するのは得策とは言えないわ」

「そうか? 色々試行錯誤が働くと思うんだが」

「そうすると五十階層で待ち構えるボスのインパクトで、ミノタウロスに抱いた危機感が薄くなってしまう可能性があるわ。とても危険なことよ」

「なるほろ。恐怖の更新……上を見過ぎて足元が疎かになるパティーンか」

「パティーンよ」


 『アレに比べたら』とか『上には上がいる』と知るのは、良いことばかりではないという事だ。

 特に雛鳥の段階だと尚更。


「だからまずはミノタウロスの攻略に集中してもらいましょう。これより下の階層は、ミノタウロスの討伐に成功した冒険者が現れてからでも遅くないわ」

「おけ、把握。――じゃ、そういうことだから一旦攻略配信はここで終わりだ。完全攻略っつったけど、この配信はパート1っつーことで」


 :りょ

 :先の光景も気になるけど、フェイたんの言い分も分かるマン

 :ミノタウロスの情報だけでも値千金よ

 :まあこのダンジョン――じゃなかった、星間行路に限った話だけどな

 :そうじゃん! 俺が拠点にしてる星間行路別だったー!


「そこに関しても追々だな。とりあえず星間行路を突破したら、また配信を始めるから、ちっとばかし待っててくれ。次は大本命の異世界配信ってワケだ」


 :おお! 異世界!

 :きっちゃ~

 :えーと、星間領域、だっけ?

 :大陸化した宇宙ってよう分からんな

 :異世界と異世界を繋ぐための中継地点なんじゃろ。星間行路は中継地点への交通路

 :と説明されてもなぁ

 :星間行路は高速道路。星間領域はサービスエリアみたいな

 :寧ろ空港までが星間行路。空の旅が星間領域って認識の方が分かりやすくね?

 :うむ! 分からん!

 :無理やり例えんでも、地球→星間行路→星間領域→異世界と覚えときゃええのよ

 :ちなみにどんくらい時間掛かる? マジで楽しみだから飯とか風呂とか色んな準備を済ましときたいんだけど


「んー、そうだな」


 一番早いのは、今から引き返してゲートのワープ機能を使うことだが、せっかく三十階層まで来たんだしなぁ。

 正直、ちと暴れたりないし。

 やっぱ手加減で普通にストレスだわ。

 うん、やっぱり百層まで駆け抜けよう。

 そうすると大体の所用時間は……


「三時間……いや、二時間くらいかね」

「そうね。ブレイドの全機能を解放すれば、それくらいが妥当でしょう」


 :にじかん……

 :ぼくが一層踏破するのに掛かる時間じゃないですか……

 :やっぱぶっ飛んでるわコイツ

 :ブレイドを使った戦いも見たいなぁ

 :ファ〇ネルを! ファ〇ネルをキボンヌ!


「はいはい、分かったよ。じゃ、二時間後にまたな」

「また会いましょう」


 ひらひらとフェイルーンが手を振るい、締めの挨拶への返答を流し見しながら配信を閉じる。

 途端にちょっとした解放感と達成感のようなものが湧き上がり、二人揃って一息。


「思いのほか楽しかったな」

「そうね。少し疲れたけど、新鮮だったわ」


 ブレイドに搭載された武装を纏い、フェイルーンに左腕を差し出す。

 すると彼女は当たり前のように左腕に座り、オレはひょいと抱き上げた。

 これが二人旅での星間行路に於ける基本的な移動手段だったのだ。

 背中から少し離れた位置で浮遊する青の機械翼のスラスターを点火。


 オレたちは弾かれたように飛翔した。



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