第15話 ただいま同接七桁を突破






 


 百以上のモンスターをコロコロしながら辿り着いたのは、二十八階層。


「確かこの星間行路の攻略はここで止まってるんだったか」


 何か厄介なモンスターでもいるのかしら?

 うーん、間違いなくオレも通った道なんだが、カケラも覚えがない。


「ふぅ、強すぎるというのも考えものだな」

「純粋に知力が足らないんじゃないかしら?」


 ガキィ!

 人がやれやれ系主人公の如くやれやれムーブをかましてたら。


 :クッソ辛辣でワロタ

 :この二人、ライン超えの反復横跳びが多すぎる

 :でも、この容赦のない関係好きだわ

 :良い塩梅よね。迅切氏単品だと普通に嫌なヤツで終わるもん

 :それで、何で攻略が滞ってるんだっけ?

 :毒を吐くニワトリもどきがおるんよ。こいつが割りとな頻度で出現するから攻略に支障が出てる。

 :バジリスクな。

 :ダンジョンの毒とか怖すぎ。絶対地球人に免疫耐性ないじゃん

 :星間行路な

 :時代遅れがよ

 :解析待ちなんだったっけ


「ほおん、バジリスクねー」


 ゲームだとワニだったりするけど、伝承だとヘビとニワトリを合体させたような生き物だったよな。

 記憶のサルベージを試みながら歩を進めると、前の階層でも見掛けたモンスターたちと遭遇する。


「はい、ころころのお時間――」


 と、一足飛びに距離を詰めたところで既視感。

 直感的に後ろへと飛び退り元の位置に戻ると、左方の岩陰から毒々しい風が吹き込んだ。


 モロに風を喰らったモンスターたちがあっという間にエーテルへと還る。

 連中が残した燐光を瞬く間に吸い込み、岩陰から顔を出したのは件のモンスター――バジリスクだった。


「ああ、思い出した。三年前もこんな感じだったな」


 ギョロリとしたヘビの瞳孔がこちらを捉える。

 嘴からは、残り香のように毒々しい吐息が零れ落ちていた。


 :え、大丈夫よな?

 :一瞬でモンスターが散っていったんじゃが

 :同士討ちとかあるんだ……

 :マジでエグいよ。前に配信者がこいつに攻撃したんだけど、武器を伝って配信者を毒にしたからね

 :ヒエ。近接アタッカー絶対殺すマンだ

 :さすがにビームライフル使った方が良くない?

 :や、三年前は刀だけで突破したんだろ。じゃあ対処法はあるってわけだ


「そーゆーこと」


 そう返しながら、フェイスガード付きの防護服を纏うようなイメージでエーテルを操り、全身をスッポリと覆う。

 外からはオレが光の膜に包まれているように見えるだろう。


「解析待ちっつってたけど、モンスターの状態異常はエーテルによるもんだから科学的な視点じゃ解決は不可能だよ。オレのようにバリアを張るか、フェイルーンみたいなヒーラーを用意するか、錬金術士が作ったアイテムを使うかの三択が解決策だな」


 :バリアの張り方が分かりません!

 :ヒーラーのなり方が分かりません!

 :錬金術士とかいません!

 :おいおい終わったわ

 :なんつーか異世界の話を聞く限り、マジで地球遅れてるっぽいな

 :地球舐めんなファンタジーどこ……?

 :銃器の効きが薄い時点でお察し

 :現実は地球ペロペロファンタジーだった模様

 :地球ベロチューファンタジー!?

 :頭沸いてんのか?

 :つか錬金術士もおるんか。つかなれる可能性もあるんか?

 :アトリエシリーズ全クリの俺氏、渾身のガッツポーズ

 :野郎の錬金術は需要ありません

 :ウソダドンドコドーン!

 :そもそもこの三択しかないのに、何で初見で突破できたんだよ


 バジリスクが毒々しい吐息を吐き出すが、構わず突貫。

 そのまま一刀の元に斬り伏せる。


「さっき挙げた何れかの条件を満たせばこの通り。耐久力が無いのが救いだな」


 ドヒ〇イデと比べたら可愛いもんだ。

 ほんとポケ〇ンは修羅の世界だ。


 :あ、バリア解いた。

 :ずっとしとった方がお得じゃね?


「や、それだと普通に疲れるんだよ。エーテルも消費するし、思考のリソースも割き続けなきゃだからな」


 余念に越した事はないのは事実だが、必要な時に必要な分だけを見定めるのも大切なのだ。


「星間行路のような長丁場だと尚更ね」

「まあ何事も緩急が大事ってワケだ」


 そんなことを言いながら探索を進める。

 どうやらバジリスク以外に厄介なモンスターはおらず、あっという間に三十階層へと辿り着いた。


「とりあえず三十階層に辿り着いたワケだが、見ての通り、ここからはちと事情が変わるぞ」


 一方通行の道を辿ると、突き当たりに大きな二枚扉が鎮座していた。

 オレの身長の三倍以上はあるだろうソレからは異様な――それこそ妖気と呼んで差し支えないほどの雰囲気が湧き上がっている。


 :確か、こっから十階層ごとにボスモンスターが出るんだっけか

 :うへ、見るからにヤバそうなんですけど

 :ボス部屋だーっ!

 :画面越しでも雰囲気伝わってくるわ

 :完全に未知の領域だ

 :これ知らんまま突入してたら、エグいことになってたよね

 :ある意味ストッパー役も兼ねてたバジリスクさんに感謝だな


 ちゃんと説明を聞いてたようで何より。


「オレの記憶が正しけりゃ、三十階層のボスはミノタウロスだったはず」


 :ミノタウロス!

 :ダンジョン物の王道よな

 :何か気を付けることは?


「まずは咆哮だな。これはミノタウロスだけじゃなくてボス全体に言えることだが、連中の咆哮にはスタンのデバフがあるんだ。これをどうにかしないと、勝負の土台にも上がれん」


 スタンを喰らったところにあわや一発は、ボスとの戦闘経験が浅い冒険者の大半が経験する失敗談だ。

 ボスとの戦いは極限の精神状態に陥りがちだからな。

 咆哮という――ある種の仕切り直しに緊張の糸が解れ、その結果、来ると分かっていても対処が間に合わないなんて事も珍しくないのである。


「さっきバジリスクとの戦いのときに見せたバリア。あれで聴覚を保護するのが一番のおススメだな。慣れりゃ耳だけに限定なんてことも可能だが、それは中級者向けだ」


 あとは、


「ゲームにありがちな逃走不可ってことは無いから、常に撤退を視野に入れておくこと。どれだけ混戦になろうと、来た道の方角を忘れるのは絶対にNG。漫画みたいにピンチに覚醒なんて事も無いからトライ&エラーが大正義だよ。勇気は自動的に蛮勇に変換されると覚えときましょう」


 

 で、次はミノタウロス。

 帰って来るときは瞬殺だったから、三年前の記憶をサルベージしながら説明する。


「ミノタウロスは一撃の威力が高い重戦士って感じだな。まともにぶつかり合うのは悪手だから、タンクは回避型を推奨。突進力もあるから団子になるのは避けること。散らばりすぎるのも×。常にタンクとは付かず離れずの距離をキープするように」


 どれだけ距離を取っても、あっという間に詰めてくるからな。

 武器による攻撃は遅いが、反対に機動力は高かった覚えがある。

 後衛が狙われたら、タンクがカバーに入る前に潰されかねん。


「一定以上ダメージを与えると暴走状態に入るから、それが収まるまで防御に徹するのが最適ですわね。それと、さっきも言ったけど、咆哮には細心の注意を払うように」


 そう締め括る。

 後は実戦でミノタウロスの動きを見せるべきだろう。


「其方って結構真面目にアドバイスするわよね」


 我が最愛のコーヒー牛乳で喉を潤していると、フェイルーンが言った。

 ぷはっ。


「そりゃ他人の生き死にが関わってるんだ。流石にここで適当をのたまうほど終わったつもりはねえよ」

「そう」


 その分かってますみたいな笑顔ムカつくな。


「うし、そいじゃ牛の解体業と行きますか」


 二枚扉に触れると、呼応するように扉は重低音を響かせながら開き始めた。

 おお、いつの間にか同接がとんでもないことになってんな。

 悪くない。

 オレは目立ちたい系主人公なのだ。

 目立ちたくないムーブをして読者に媚びる主人公とはワケが違うぞよ。


 扉の向こうは真っ暗な深淵だったが、扉が完全に開き切るとボボボという連続音と共に壁に設えられた松明に火が灯る。

 広々とした正方形の空間――その最奥にミノタウロスはいた。

 死体のようにピクリとも動かない。


 しかし、オレが部屋の中に入ると、その瞳が赤く光った。

 やおらに立ち上がり、脇にあった巨大な戦斧を鷲掴みすると瞬く間に筋肉が膨張した。

 筋骨隆々とした体躯は三メートルはあるだろう。

 丸太のように太い四肢を広げ、ミノタウロスの咆哮が迸る。

 一足飛びに肉薄し、巨大な戦斧を振り上げる。


 赤い眼光が尾を引いた。

 



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