第14話 これまりょ





「――つーわけで、お前らがダンジョンと呼んでるこの洞窟の正式名称は、星間行路と言うんだ」


 仄かな照明に照らされた薄暗い洞窟。

 スパンとモンスターの首を刎ねながら。

 オレは前日の会談でも話した基本的な知識をリスナーたちにも共有していた。

 そろそろ配信開始から一時間と言ったところだ。

 同接は指数関数的に増加しており、そのうちに七桁や八桁に領域に突入しそうな勢いで現在も上昇中である。


 :ほおん、星間行路かー

 :とか突然言われてもなぁ

 :うむ。こっちは完全にダンジョンっつー認識だからなぁ。

 :専門用語止めてください

 :ダンジョンで良くねー?


「まあ向こうの連中から田舎者扱いされたきゃ、そのままで良いんじゃね? ――異世界にゃあ獣耳美少女とかエルフとかいるんだけどなぁ」


 :星間行路しかあり得ねえよなあ!

 :――当たり前だ!!(ドン!!)

 :今どきダンジョンとか呼んでるやつおりゅ? いねえよなあ!

 :ダンジョンとかwwwちょwwwwおまwwwwwwww

 :星間行路星間行路星間行路星間行路星間行路

 :えー、この配信見てない連中、時代遅れです


「なんていう手のひら返しの早さかしら」

「しゃあねえよ。異種族ってのは夢がいっぱい詰まってるからな」

「……嫌なことを聞いたわ」


 先ほどのやり取りを思い出したのか、フェイルーンはげんなりと肩を落とした。


 :と言うか豆腐のようにモンスターをスライスしてて草なんですわ

 :そんなにモンスターって固いの?

 :んなわけ

 :(今のモンスターは鉄骨くらいの強度があります)


「別にそんな難しい技術でもねえよ。エーテルを刃先に凝縮すりゃ星間行路の雑魚モンスターは大体三枚に卸せる」


 :はい、また専門用語来ました

 :またパルスのファルシのルシがパージでコクーンの悲劇を繰り返したいのか、アンタたちは!

 :分身は、こうやるんだー!

 :劇場版が神だったのは分かったからもちつけ

 :多分、ウィキに載ってるエーテルとはまた違うんだろうなぁ

 :一応ファンタジーで聞かないこともないけど

 :せつめいして。やくめでしょ(土下座)


「そーだな。エーテルってのは――」


 と、オレは夕姫にしたのと同じ説明をした。

 モンスターを倒した時に流れ込む光の粒子がエーテルという名称であること。

 それが身体能力を向上させているエネルギー源であること。

 そして、このエーテルは意識的に操ることができるということ。


「とりあえず実演してみるか」


 丁度良いタイミングでゴーレムが出現したため、コイツを試金石に選ぶ。


「まずはお前ら基準。要はエーテルを意識しない戦い方だな」


 とは言え、オレのエーテル量だと何の参考にもならないから出力は抑えるが。

 多分、アリと象くらい差がある。

 例え地球の連中が全力で武器を振るっても「今何かしたかあ?」ムーブができるんじゃねえかな。


 刀も同様だ。納刀したまま相対。

 鈍重なゴーレムの攻撃を躱しながら、合間合間に連撃を叩き込む。

 ひたすらに脚を狙うこと十五回。

 ようやくゴーレムの脚が砕け、岩石の巨体が転倒した。


 :うお、すっげースムーズ

 :淡々としてて如何にも熟練者って感じ

 :まるで漫画だな

 :どっちかっつうとアクションゲーだろ。テイ〇ズ系みたいな

 :納刀したまま攻撃してるもんな

 :マモレナカッタ……


「次はエーテルを意識した戦い方」


 一旦距離を取ると、砕けた石礫が磁力で引き寄せられるようにゴーレムの脚に集まり、何事もなかったようにゴーレムが起き上がる。

 そしてテレフォンパンチ。

 雑な攻撃だが、普通の人間を殺すには充分過ぎるのは確か。


 それに対してオレは真っ向から立ち向かった。

 エーテルを刀に流し込み、岩石の拳に叩き付ける。

 砕けたのは岩石の拳だった。

 次に流し込んだエーテルを研ぎ澄ませ、質を変化させてからの一閃。

 三日月の斬撃が迸り、ゴーレムの身体を真っ二つに斬り裂くのだった。


「まあ、こんなモンだな」


 :ふぁ!?

 :斬撃が飛んだー!?

 :マジでゲームじゃん!

 :そんなこともできんの!?

 :解説! 解説はよ!


「解説って言われてもな。近いのは念〇力じゃねえかな。オーラの攻防力とか、ほとんど一緒だし」


 :あの神漫画の!?

 :いや、俺も色んな異能バトル参照したけど、どれも参考にならんかったぞ

 :俺も俺も。某狩人漫画のアレは真っ先に試したわ

 :お前はおいどんか?


「そりゃ、まずはエーテルを知覚できるようにならんと話にならんだろ。転生物で例えるところの『これが魔力か……』略してこれまりょから始めんと」


 :冒険者だけど全然分からん。エーテルどこ……(´・ω・`)

 :これが魔力か……。あ、間違えたエーテル!

 :間抜けは見つかったようだな

 :実は転生者くんちゃんたち、天才だった……?

 :嘘だろ、あいつら前世は陰キャとか社畜やらの負け犬共じゃん

 :クッソ辛辣で草

 :ああいう連中が成り上がるのって普通にご都合主義だよな

 :まあ、あの手の奴らが成り上がった話とか一個も聞かんからの。現実は無常。普通に才能至上主義です……

 :目の前にソースがおるもんねえ

 :ぶっちゃけ才能ある人間が順当に成り上がる方が好きよ

 :分かるマン。そっちの方が説得力あるよな

 :時に、そう言う迅切氏は、どうやってこれまりょに至ったの?


「火とか出るかなと思って念じたら普通に出た」


 それを証明するように人差し指に炎を灯す。

 驚きのコメント欄。これを見てる冒険者が同じように人差し指に炎を灯そうとする姿が容易に思い浮かんだ。


 :これが出来るからこそダンジョン――じゃなかった。星間行路を踏破できたんやねえ


 そのコメントに対して、フェイルーンが答える。


「それも理由の一つだけど、薙刃の名前も要因の一つね」


 :名前?

 :どゆこと?


「名前に込められたチカラというのは、エーテルにも作用するのよ。迅切薙刃。まさに斬ることに完全特化した名前ね。彼が刃物を振るえば、その斬れ味は常人とは比べ物にならないわ。もしも薙刃が迅切薙刃という名前じゃなかったら途中で力尽きたんじゃないかしら」

「名は身体を表すってな。ゲームに例えりゃ、刃物を装備したとき攻撃力にバフが掛かるようなモンかね」


 この才能と言い、親のファインプレーには感謝しかない。


 :はああああ!? 何じゃそりゃ!?

 :俺氏、普通の名前にorz

 :まさかのドQネームが大逆転

 :ドQネームでイジメられてきた俺がダンジョンでチートに目覚めた結果~今更ドQネームに憧れたところでもう遅い~

 :氷室苗字のワイ、魂のコロンピアポーズ。氷属性で成り上がるわ、スマンwww

 :父さん、母さん……何で俺の名前に属性を入れてくれなかっ……や、でもキツイっすわ

 :羨ましいようで絶妙に羨ましくない塩梅だな

 :氷室勝ち組すぎんか????

 :不知火とか絶対つよつよ苗字だろ

 :一番ヤベェのは今後生まれてくるキッズたちだろ。琉死不破ルシファーとかだと流石に笑えんぞ

 :無いと言えないのが怖いわ


「話を戻すが、エーテル関連の教導は、オレもフェイルーンもサッパリだからな」

「だから星間行路の攻略がてら、『向こう』から教導に適した人材に来てもらうという寸法ね。まあ上手くいく保証はないけれど」

「大丈夫だろ。あっちにゃあそれなりに貸しを作ってんだから」

「其方はそれ以上のやらかしが多すぎるのよね……」


 と、フェイルーンから呆れた視線が突き刺さる。

 はっはっは、何のことやら。

 オレは目を逸らした。


 :フェイたん以外にも異世界人が来るんか!

 :でも俺はフェイたんだけで充分だよ。

 :フェイたんフェイたんフェイたぁああああああん! あぁああああ……ああ……あっあっー! あぁあああああ!!! 以下略

 :また懐かしいネタを

 :獣耳美少女! 獣耳美少女でお願いします!!

 :は? エルフのお姉さんに手取り足取り教えてもらう以外あり得ないんだが??

 :どうかわたくしめに、イケメンの騎士様を!


「そう言われると逆張りしたくなるのが人の性」


 :はー、普通でいいわー

 :獣耳美少女とかエルフとかカケラも興味ありませんが???

 :モブで良いよモブで

 :ほんそれ。間違っても美少女でおっぱいの大きな異種族を連れてくるのは止めろよな。絶対だぞ絶対。マジで萎えるから

 :俺たち、そういうの求めてないんで、もっとストイックなんで


「おk。じゃあどこにでもいそうなオッサン連れてくるわ」



 :〈〈〈〈〈〈ざけんなあああああああああああああーーーーっ!!!!〉〉〉〉〉




 草。


 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る