第13話 配信スタート
【ダンジョン/星間行路】ダンジョン踏破者による完全攻略ガイド【迅切薙刃】
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……思ったより少ねえな。
や、まだ本物か確認も取れてない段階だと考えると充分な方か。
実際、大半のコメントが真偽を疑うものばかりだ。
まあ三年振りの帰還を果たしたヤツが早速配信するとは思わんわな。
それでもこれだけの人数が集まったのは、夕姫がすぐフォロワーと共有して拡散してくれたのが大きい。
今も自室で配信が始まるのを待っているのかと思うと、妙に擽ったいが。
お、2万になった。
この調子ならトレンドにも乗るだろう。
その時の視聴者数はどんなものか、実に楽しみだ。
こっちには本物か否かをはっきり証明させられる人物がいるんだから。
「始めるぞ。準備は良いか、フェイルーン」
振り返り、フェイルーンに尋ねる。
事後承諾という形になったが、彼女が配信活動に否を唱えることはなかった。
「ええ、大丈夫よ。好きに始めてちょうだい」
「結構落ち着いてんのな」
「昔は人前に立つことも珍しくなかったもの」
そういう事なら、ポチっとな。
オレも特に緊張とかする性質じゃないから、あっさり初配信をスタートさせる。
視線は虚空に浮かぶホログラムの球体に。
これはEVEに備わっているカメラアプリなのだ。
:お
:始まった
:どうせ偽物だろ
:釣り乙
:絶対こういうバカが現れると思ったわ:
:つーか普通に何人かおったしな
:低評価待ったなし
:消えろ
:カス
:人間性疑うわー
「はい、お前ら全員BANしまーす。失せろカス」
とりあえず目に付いたゴミ共を容赦なく弾く。
こういうとき思考操作は楽だわ。
:開幕から草
:最初の言葉がそれでいいんかw?
:本当に本物なの?
:顔はかなり似てんな
:そうなん?
:知らん。龍っ娘のインパクトが強すぎて野郎の面とか普通に無視してたわ
:それな
:わかる
:お前は俺か
:イエスロリータ! ノータッチ!
「まだ半信半疑のヤツがいるみたいだから、さっさと証明しとくな」
ほい、と一歩右に避ける。
オレの後ろで待機していたフェイルーンが配信画面に映り込んだ。
「初めまして。妾はフェイルーンよ。宜しくお願いするわ」
:う、うおおおおおおおお!!!!
:龍っ娘だああああああ!
:え、マジ? 本物??
:髪の色がアニメだああああ!
:スー、ハー、スーハー。これはロリの匂い……!
:フェイルーンたん……!
:フェイルーンたん……!
:フェイルーンたん!
:一人称が妾、だと……!?
:それなのに、わよだわ口調……!?
:あ、しゅき
:惚れた
:結婚しよう
:フェイルーンたんは俺の嫁だぞ
:は? フェイルーンたんは、俺の隣で寝てるんだが???
:寝言は寝ていえ定期
:ペロペロペロペロペロペロペロペロペロ!!!
:じゅるるるるるるるるるるるるる!!
:じゅぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞ!!
:〈〈〈――ゴックン!〉〉〉
「――――」
フェイルーンはオレの後ろへと逃げ出した。
「妾、この国の人間が怖いわ」
「草」
正直オレもここまでかと驚いてる。
それ以上に面白いが。
「こんな幼い身体に興奮するなんて明らかに異常よ。呪われてるとしか思えないわ」
「残念ながら、これで正常なんだよなぁ」
「嘘でしょう……?」
「これが日本という国だ。諦めろ」
「…………修羅の国ね。其方という人間が生まれたのも納得だわ」
「え? 何?? もっと皆とお近づきになりたいって?」
「ひっ」
失礼なことをのたまうフェイルーンを前に行かそうとしたが、割りと本気で抵抗された。
オレは視聴者へと向き直る。
「これで本物だと分かったろ? とりあえず落ち着け」
:あ、男……
:スン……
:イケメンは氏ね
:ロリの女神は何処ぉ……?
:異世界の龍っ娘をあそこまで怯えさせる俺らって
:凄いぞ! 一瞬で日本の正体を露見させたんだな!
:一緒にするな!
:このロリコン共はほんま……
:違うよー。俺たちはロリコンじゃないよ。仮にロリコンだとしても、それはロリコンという名の紳士だよ!
:恥晒ししかおらんのか?
:すまない。我が国の民が本当にすまない……!!
未だ騒ぐロリコン共は容赦なく排除してっと。
「じゃ、改めて自己紹介と行こう。オレは迅切薙刃。三年振りに地球へと帰還した慈愛と道徳の化身だ。オレの悪口を言うヤツは全員惨たらしく死ねばいいと思っている」
:すんごい速く切りそうな名前ね
:ドQネームかよ
:慈愛と道徳どこ行った???
:あまりに早い手のひら返し。俺じゃなきゃ以下略
:とりあえずヤベー奴なのは分かった
:つーか配信画面、どうなってんの? なんか中空に画面が浮かんでない?
:SFとかVRMMO物でよく見る空間ディスプレイじゃん!
「ああ、これか」
と、オレは手元に浮かぶモニターをつつく。
そこにはカメラが映し出した配信画面とコメント欄が流れていた。
「この配信を見にきたって事は、ある程度の事情は把握してんだろ?」
既にパイセンの配信で、星間行路の先に異世界があることは知れ渡っている。
SNSの話題も掻っ攫ったし、どこのテレビのニュースでも取り扱っていたのだ。
フェイルーンっつー、これ以上ない判断材料もあったしな。
「これはEVEつって、要するに異世界のスマホみたいなもんだ」
:異世界すげぇ!
:え、めっちゃ欲しいんですけど!
:これ、視点的にカメラも超技術じゃね?
:どこで買えますか?
:俺も欲しい
:全ダンジョン配信者垂涎の代物じゃん
:俺、異世界って中世ヨーロッパ風をイメージしてたけど、SFだったのか
:そういやロボットが使うビームライフルみたいなの撃ってたもんな
:あれも気になる
:というか二人とも普通に私服だけど、そのまま行くのか?
:武器と防具は装備しないと意味ないぞ
「ま、そこんところは追々な。今日はサクッとダンジョンを攻略して異世界に行くつもりだ」
:そんな簡単に行けるものなの……?
:無理です(最高到達階層8)
:ダンジョンが解禁されると同時に冒険者になったけど、未だ15層で足止めくらってるよ
:同じ人間の発言とは思えねえ
前も言ったが、星間行路は、一度踏破してしまえばカットできる仕様だ。
当初はそのシステムを利用して一気に星間領域に飛ぶつもりだったが、配信を行うことにより、その目論見は中断。
星間行路の攻略から一から始めることにした。
というわけで、またもや多数の視線を感じながらギルドへと入る。
星間行路へ行くには、身分証であるギルドカードの提出やら目標到達階層や滞在時間の目安を記載する必要があるらしい。
不測の事態が起きたときの保険なのだとか。
作りたてのギルドカードを受付に提出。
このギルドカードは冒険者になった証であり、これを資格を取るには結構難易度の高い試験を突破する必要があるようだ。
オレは免除されたが。
オレ以上に星間行路に詳しいヤツが地球にいるわけないから当然だ。
何なら試験の見直しを頼まれたくらいだしな。
目標到達階層は百層。
滞在時間は……んー、星間行路を踏破したあとはそのまま星間領域に行くつもりだしな。
夕姫にすぐに帰って来ると言った手前、あんまり時間は掛けたくないんだが。
まあ配信してるんだから大丈夫か。
安否の確認は取れるわけなんだから。
だから滞在時間は不明と記載しておく。
何か言われるかと思ったが、普通に受理された。
話が通っててもおかしくないか。
手続きを済ませ、ゲートのある場所へと向かう。
そこはギルド内の中央にぽっかりと空いた中庭だった。
その中心に幾重もの光輪を廻す青い球体――すなわちゲートが鎮座している。
ここが元々パイセンの道場だったんだよなぁ。
んでもってオレが星間行路に転移することになった元凶でもある。
そう思うと、ちっとばかし感慨深いな。
周りにはちらほらと冒険者が。
芝生の上でストレッチや食事に休息、最終確認の会議を行う姿などが見受けられた。
今まさに星間行路へと転移する姿も。
「さて、そんじゃ行くとしますか」
オレが取り出したのは、刀身のない剣の柄だ。
フェイルーンも見た目は違うものの、同じく柄を握り締めている。
ちなみにオレの方が豪華な造りだ。
まあコイツは星間領域に名を轟かす大国の国宝なのだから当然だが。
え? 何でそんなものを持ってるかって?
気にしない気にしない。ただの慰謝料みたいなモンだよ。
「「『
キーワードを呟く。
すると柄の形は砂粒のように分解され、オレたちの身体を波紋が駆け抜ける。
次の瞬間には、オレたちの身なりは戦装束に変化していた。
オレは騎士服の上に純白のローブを纏い、更にその上に白銀の胸当てを付けた魔法騎士と言った姿。
周囲には如何にもSFといった武装が浮遊している。
フェイルーンは裏地が天の川のようなフィッシュテールワンピースに羽衣を纏った姿。
こちらはオレと違い、これといった武装がなかった。
自分で言うのもなんだが、アニメキャラみたいなデザインだ。
こういうのをアニメバウントっつーんだったか?
イケメンフェイスで良かったと心から思う。
:へ、変身だあああああ!!〉
:野郎はどうでも良いが、フェイルーンたんの変身シーンが一瞬だったのは許せん
:そうだそうだ!
:これは流石に無能すぎ
:訴訟じゃ訴訟!
:我々はフェイルーンたその変身バンクを要求する!
:魔法少女物を履修しろ!
:変身するときはね、謎の空間で全裸になって、ゆっくりと可憐な衣装に身を包まないといけないんだ(血涙)
:な〇は完売しました!
:ちゃんリネの配信で見た服だ
:異世界の技術ってスゲー
:説明キボンヌ(バンバン)〉
「既に分かってるヤツもいるみたいだが、これは『ブレイド』っつー異世界の武器だよ。一瞬で武器と防具を装備できるんだ。そうだな……な〇はのデバイスとか、ワー〇リのトリガーみたいなもんと言えば分かるか?」
:把握
:把握
:把握
:把握
:(オタクくんが多いことを把握)
:な〇ははいいぞ
:ハーメルンでももう見かけないし、正直もうオワコ――
:何だァ? テメェ……
:フェ〇トそんは俺の嫁
:古のオタクが……
:ワー〇リはいいぞ
:とりあえず騙されたと思って9巻まで読んでみ。
:悪いヤツがおる!!
「とは言え、タイトルにあるように攻略ガイドがメインだからな。今回は刀一本で行くつもりだ」
というわけで展開していた武装をしまい、代わりに長年連れ添った愛刀を取り出す。
「よし、それじゃあさっさと行こうか」
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