第9話 生き残った理由
「――とまあ、こんな感じですかね」
「「…………」」
おっと、お通夜みたいな空気ですね。
「なあ、薙刃。何で日本に帰るのに三年も掛かったんだ? 聞く限り……その、星間領域だったか?」
「オー、イエス」
進藤さんの問いに肯定する。
「星間領域にあるゲートも特に移動したりするわけじゃねえんだろ? 来た道を引き返せば、それで解決じゃねえか。ダンジョン――星間行路にしてもそうだろ?」
「そうですね。進藤さんの言い分も最もだと思います」
「だろ?」
「ですが、これには深い事情があったんですよ」
「深い事情?」
若干辟易としながらも進藤さんは目を細める。
それに対してオレは神妙に頷きを返し、何とかカッコいい言い回しを、いっそ捏造でもいいから考えていると、
「其方が方向音痴なだけでしょう? 星間行路でもすぐ迷子になるんだから」
この化石ロリ。
「バカ。余計なこと言うんじゃねえよ」
軽くフェイルーンを睨めつけるが、プイッとそっぽを向かれる。
擽り攻撃が随分と尾を引いているようだ。
「お前な……」
「違うんです。オレはただ自分探しの旅も平行していただけなんです」
あと星間行路に関しては、巻き込まれて転移したのが悪かったのか、初期位置にゲートが見当たらなかったのが原因だ。
「そうかい。ところで北はどっちだ?」
「えーと、南があっちだから東があっち……北東があるってことは北と東は隣同士。おし、こっちですね」
「……正解だが、何とも言えねえな」
フン、まさにぐうの音も出ないと言った感じだな。
「も一つ質問だ。こういう言い方はアレだが、何で薙刃は生き残ったんだ?」
「天才なので。いや才能マンで申し訳ねえ。なろう系特有のイキリ系主人公で申し訳ない」
「俺もダンジョン――星間行路にゃ潜ってっけど、一層攻略するだけでも四苦八苦の命懸けだぜ?」
スルーされたし。
「それなのに、お前はたった一人で、しかも俺らと違い準備すらできなかったんだ。生きてる理由に説明が付かねえよ」
「と言われてもなぁ」
普通に切った張ったで生き抜いただけだし。
割とマジレスだったと思うんだけど。
「そうね。薙刃の言い分は六割正しいわ」
フェイルーンの援護が入った。
尚もこっちを見ようとしないので、きな粉餅で釣ってみる。
もう自分の分は完食したみたいだし。
「はむ」
釣れたわ。ちょっろ。
「六割ってのはどういう事だ、嬢ちゃん」
「薙刃の才能は本物よ。それも剣の才能とか、そういうスケールの小さな話ではなく、戦いそのものの天才なの」
「めっちゃ褒めるじゃん」
まあ剣術の才能と戦いの才能は=じゃないもんな。
どれだけ剣を振るう才があろうと、敵の動きや気配、それに戦場の空気を読めないんじゃお話にならないし。
「妾も相当な年月を生きたけど、薙刃ほどの戦いの才能の持ち主は片手で数える程度しかいなかったわ」
ドヤァ。
結局世の中才能なんですわ。
「まあそれと引き換えに道徳と倫理観を失ったのだから、差し引きはマイナスだけれどね。天は二物を与えずとは良く言ったものよ」
は? お? 喧嘩か? お? ん?
こんな性善説の化身みたいな生き物が他のどこにいるというのかね。
――汝、敵と出会ったときは迷わず首を刎ねなさい。
――やられる前にやりなさい。
――セメントとドラム缶を常備しなさい。
――完全犯罪は紳士の嗜み。
「ほおん。じゃ、残りの四割は?」
「彼が偶然持ち込んでいた刀よ」
流れ的に刀を取り出すべきかなと思ったが、場が場なので止めておいた。
「あの刀はアストラル製――其方たちに分かりやすく言うなら異世界産の武器なのよ。だから星間行路だと本来の力を発揮するの。自動修復機能も備わっている事だしね」
「へえ、そんな武器もあんのか。つーか何でそんなもん持ってたんだ、お前」
「パイセンの家にあった」
「おそらくは次元震の影響でしょうね。次元の狭間に飲まれた物質が余所の世界の漂着するのは偶にある事なのよ」
へえ、とオレと進藤さんの声が重なる。
多分、この刀の本来の所有者も一緒に日本へと漂着したんだろう。
じゃないと『裏・白夜一刀流』なんてものが存在するわけがないしな。
何せ、あそこに載っていたのは、異世界の力を前提とした技術が大半だったのだから。
これもオレの生存率を大きく引き上げた要素に違いない。
そうなるとパイセンに異世界人の血が混じってる可能性もあるのか。
覚醒フラグかよ。
「いいかい、迅切くん」
と、そこでイケオジが復活した。
や、随分と頭が痛そうだが。
権力者は大変よな。
オレ、金も名誉もハーレムも欲しいけど、地位だけは絶っっ対要らねえわ。
適度に責任を押し付けられるくらいが一番良いと思うんだが、何でそれ以上を求めるかねえ。
「貴重な情報提供感謝する。君が齎した情報は日本に――延いては全世界にとって計り知れない功績だ」
「報酬は期待して良いですか?」
「ああ、約束しよう」
イケオジは苦笑交じりに頷いた。
「しかし、我々にはあまりに多くの問題が山積みとなっている」
「でしょうね」
最優先事項は、星間領域側のゲートを確保し、防衛体制を整える事だ。
しかし日本のみならず、地球全体が星間行路で足踏みを食らっているのが現状だ。
前提条件すら成立していないのである。
だが、まあそこまで焦る必要はないと思う。
前述の通り、星間領域は大陸化した宇宙と称されるほどの規模を持ち、今も膨張を続けているのだ
野晒しのゲートを見つけるのは、砂漠の中から一本の針を見つけるよりも遥かに至難の業である。
余程運が悪くない限り、数年は有余があると考えて良い。
もちろん早いに越したことはないんだがな。
「迅切くん。ようやく日本へと帰還した君に頼むのは大変心苦しいが、現状、頼れる者は君しかいない。どうか今後もこの国のために力を貸してもらえないだろうか?」
イケオジが手を差し出してくる。
オレの返答は決まっていた。
流石のオレもこんな状況下で我欲を優先するほど終わっていない。
真摯に頷きを返し、
「もちろん――――――応相談という事で」
「コイツ」
や、無償奉仕とか論外ですわ。
労働の対価はキッチリと、大量に頂く。
こちとら三年分の漫画やゲームを買い漁る必要があるのだ。
裕福な家庭でもないし、金は幾らあっても困らない。
二度と課金に困る必要がないくらい搾り取ってやるぜ。
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