第8話 ダンジョンを踏破した先は
さて、どこから話したもんかな。
そういやダンジョンの方ですけど、最高到達層は幾つなんですか?
あ、ここのダンジョン以外も含めて。
……二十八層。
思ったより……あ、いえいえ何でもありませんよ。
クソザコナメクジしかいねえな、とかそんなこと思うわけないじゃないですかヤダー。
ちゃんと命を大事に冒険してるんだなって寧ろ感心したくらいッスよ。
冒険者は冒険しちゃいけないってのは、何度もアニメ化したダンジョン系ラノベの格言ですからね。
調査、検討、検証、実証、確認を怠らず、念には念を入れるのは流石だと思います。
世の中にゃ『命とは振り向かず、躊躇わず、駆け抜けるモノ』なんて覚悟ガンギマリな異世界もありゃ、『血祭りワッショイ。トロピカル大殺戮フェスティバル』なんつーものを年がら年中開催してる蛮族な異世界もありますからね。
全く、物騒かつ嘆かわしい話です。
平和主義の私には到底理解し兼ねる世界でしたよ。
何だ、フェイルーン?
其方が一番活き活きしてた?
一番順応してた?
寧ろあの国が魂の母国なんじゃないか?
はっはっはっはっは!
――カメラ止めてください。
ふぅ、失礼しました。
話を再開しましょう。
ああ、横で痙攣してるトカゲ娘のことは気にしなくて結構です。
たまにこんな感じになるんですよね。
頭がおかしいんだと思います。
えーと、どこまで話しましたっけ。
そうそう、最高到達層の話でしたね。
二十八層ですよね。
だったら気を付けた方が良いと思います。
三十層以後は、十層刻みで強いモンスターが出現するので。
ボスってやつですね。
え? 骸骨騎士?
ああ、確かにアレもボスみたいな立ち位置でしたけど、アレはチュートリアル用って感じですから除外で。
で、そいつらのことですが、普通に強いです。
オレの方が強いですが。
オレの方が強いですが。
どんなかは分かりませんね。
基本ダンジョンごとに出現するモンスターは違うので。
あ、それとダンジョンの構造についてですが、最深部は五十層になります。
もちろん、そこに待ち受けるのはラスボスくんですね。
めっちゃ強いです。
オレの方が強いですが。
オレの方が強いですが。
オレの方が強いですが!
但し、五十層がゴールではありません。
五十層に先に続くのは、行きとは別の上層へ続く階段です。
つまり五十層は折り返し地点なんですよね。
けど、まあ安心して下さい。
ご存知と思いますが、モンスターの強さは階層を下るごとに強くなる仕様ですから五十層を突破したなら、後は比較的楽なもんですよ。
さっきも言いましたが、五十層で折り返しなので。
まあだからと油断したモブから乙るのがダンジョンっつーもんですが。
五十層の先に続く階段を上がっていくと、また四十層と三十層にボスが出現します。
それをサクッとブチ殺して最上層に到着。
合計百層からなるダンジョンを踏破すると、そこには見るからに「転移すっぞ!」と言わんばかりのゲートがありました。
最初見た時は泣きそうになったもんですよ。
やっと家に帰られるって。
そう思いながらゲートに触れると案の定、転移。
そして目の前にはパイセンの剣道場が――!!
――と言うことはなく、見渡す限りの緑豊かな大地。
草原を歩く、恐怖のキノコマン。
空を見上げれば見たこともない怪鳥。
天翔ける竜。
This Is The 異世界。
キレたよね。
八つ当たりにキノコマンを八つ裂きにしたよね。
大自然を放浪すること暫し、ようやく街を見つけたオレは、そこで諸々の説明を受けました。
ここが『星間領域』という次元を隔てた星々を包み込んだアストラル界である事。
恒星を遥かに凌ぐ表面積は尚も膨張を続けており、『大陸化した宇宙』という見方もあるみたいです。
ダンジョンが『世界』と『星間領域』を繋げる『星間行路』という事。
それぞれの入口がゲートというわけです。
そして地球とは異なる世界が星の数ほど存在しており、それらは星間領域を経由して繋がっている事を知りました。
要するに『異世界と異世界を繋げる異次元空間』みたいなものです。
ん? 配信で言った侵略の話ですか?
簡単な話ですよ。
星間行路が踏破されてないって事は、星間領域にあるゲートが野晒しになっているって事です。
つまり異世界人が自由に地球へとやって来れるというわけです。
実際、向こう側にあるゲートはポツンと佇んでるだけでしたし。
ええ、お察しの通り、極めて危険な状態です。
何せ、違法入国し放題も同然ですからね。
それも兵器の携帯すら思いのままに。
珍しくないみたいですよ。
野晒しのゲート=そこに繋がる世界を『星間行路が出現して間もないを情弱』と判断して侵略戦争を吹っ掛ける国なんて。
勝ち戦ですからね。
戦国時代に戦車や戦闘機を持ち出すようなものです。
だから星間行路が出現した世界が真っ先にしなければならない事は、星間行路を踏破し、星間領域にあるゲートの周りに防衛基地を設える事です。
オレがやっとの思いで訪れた街も、そのために異世界の奴らが作り上げた防衛都市ですし。
んでもって、これがまた厄介な話ですが、星間行路が繋がる場所ってのはメチャクチャなんですよね。
これがどういう事かと言うと――と、その前に日本に出現したゲートは幾つありますか?
……五つですか。
ありがとうございます。
話を戻しますが、例えばそこの星間行路を踏破した先がアメリカだったとします。
じゃあ日本にある他のゲートもアメリカに繋がっているかと問われれば、全然そんなことはありません。
中国やロシア、オーストラリアにブラジルと繋がっている可能性もあるんです。
ええ、本当に厄介な話です。
ここの星間行路から向かう星間領域の安全性は、オレが保証しましょう。
あそこ周辺の地名は『ライオル平原』と言うのですが、ライオル平原にゲートを持つ国々には大きな貸しがあるので。
普通に友好関係を築けるでしょう。
オレのおかげですね。
はい、オレのおかげです。
ここ、しっかり記録しておいて下さい。
ですが、他のゲートに関してはサッパリです。
もしも『浮羅大霊峰』と繋がってたら最悪ですね。
え? 何故ってそりゃあオレがあそこと繋がってる大帝国の皇帝を――ゲフンゲフン。
ボク、平和大好きー。
ともかく、最初に訪れた街で世界の常識と生活基盤を整えたオレは、日本への帰り道を探しながら各地を転々としました。
凄かったですよ。
行く先々の文明や主義主張、在り方が全然違うんです。
獣人の惑星『アートラータ』には、子が親を殺すことで一人前と認められる国がありました。
強ければ何をしても許される国がありました。
獣人の性である弱肉強食を嫌い、秩序と理性を矜持とする国がありました。
エルフの惑星『ユグドラシル』には、エルフこそが至高の生命体と驕り高ぶった国がありました。
ただ叡智のみを探求し、家族すら喜んで生贄に捧げる国がありました。
常にヴェールで顔半分を覆い隠し、自分の素顔を初めて見た異性を殺すor結婚相手と見なす、潔癖なのかアマゾネスなのか分からない国がありました。……ほんと何なのあいつら。
近未来的な惑星『クェーサーⅣ』には遺伝子操作が当たり前な国がありました。
宇宙にコロニーを建設し、母星を巣立った国がありました。
AIを神と見なし、数値化したカルマによって人間を区別する国がありました。
ロボットこそロマンをモットーに掲げる、賢いバカしかいない国がありました。
他にも色んな惑星や国がありましたよ。
錬金術が発展した国。
長期滞在した異世界人をTSさせる、TS大好き人間の聖地とも呼べる惑星。
遊戯が全ての決定権を持つ惑星。
百合の間に挟まる男を絶対に殺す国。
転生者しかいない惑星。
ええ、事実ですとも。
まあこれほど突き抜けた個性を持つのは珍しいですが。
でも異世界人からすると、日本人の食に対する執着心もそれらと同じレベルらしいですよ?
そんな国々を旅すること三年。
ようやく日本行きの星間行路に辿り着いたオレは、こうして無事に帰還したわけです。ちゃんちゃん。
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