第一章【4】
【四】
かつて、モモカという獣がいた。
彼女の使い魔として、この世に生を受けた。
正確には、存在を確立した。
使い魔というのは、やることはシンプルだ。
戦いに参加するタイプもいれば、右も左もわからない新人の相談役になるものもいるし、戦いのサポートをするタイプもいる。
モモカは、“魔法少女の支え”になるための使い魔だった。
主、造物主は、とにかく気弱だった。
誰かを助けられなかった、力が及ばなかったことにベソを掻き、モモカは持ち前のフワフワボディで慰めた。
だが、特にキューティクルスターを、泣き虫な魔法少女を苛んだのは“市民からの罵倒”であった。
「グスッ。どうしてみんな、あんなに酷いことを言うの……。いいえ、わかってるわ。悪いのは、力のない私。だから、みんな私を否定するの」
鼻を啜って涙を拭う。
誰だろうと、本当の意味で全員に敬われる者などいない。
後のプリティプディングが、ああも敬われているのは、世界滅亡寸前だったのを気高き自己犠牲で救ってみせたからだ。
そうでなくては、自分は被害を受け、身近な人を喪っていても、他の誰かを助けている者に、感謝だけを向けることはない。
仕方のないことである。
誰が悪いということでもない。
当人たちも時間を置いたら、魔法少女に誤った憎しみを向けたことを恥じるか、忘れるかのどちらかだ。
「そんなことないモー。感謝している人はちゃんといるモー」
だからそういう時は、モモカは少女を慰めた。
涙を拭い、舌で舐め、毛皮でくすぐり、笑わせた。
力はない、戦いの時は、隠れている。
戦いが終わって心も体も傷だらけの魔法少女の帰還を出迎え、癒やす。
それが、彼女の役割だった。
「モー、モー。いいこと考えたモー。キューちゃんには友達が必要だモー」
「トモダチ……?」
「そうだモー」
「モモカは違うの?」
「もちろん友達だモー。でも、それとは別に、同じ目線の友達が必要だモー。楽しいこと、学校とか、好きなアイドルとか、格好いい男子のこととか、将来の夢とか、そういうことを、女の子同士で話し合える人だモー」
魔法少女キューティクルスター。
彼女は、変身をしないときは、とても内気で、自分から他人に話しかけられる気質ではなかった。
だから、魔法少女に変身している時と、モモカという時だけが、彼女が笑顔を浮かべるときだった。
「それじゃあ……モモカがなってよ」
「MO?」
両手を合わせて、良い考えが浮かんだと、頷いたキューティクルスター。
「そうだ、モモカならずっと一緒にいられるし、わたしと離れ離れになることもないし、なにを言っても否定はしないもん。これほど信用できるひとはいない!」
「MOOOO……」
何かしら言うことがあったような気はするが、モモカには何も言えない。
「人間になったモモカとなにをしよう。学校が終わったら一緒に買物に行ったり、お泊り会をしたり、テスト勉強したり……アイドルのライブも一緒なら行っていいかも! 楽しみだなあ」
こんなに嬉しそうな魔法少女はとても珍しい。
水を差したくない。
それになにより、モモカも興味を惹かれたのだ。
「私も楽しみだモー」
人間になるということに。
そうすれば、こんな小さな体にはない、力を得られる。
もっと。助けになれる。
人間になって、強くなって、魔法少女を守る盾になるのだ。
まるで、そう。絵本で読んだ騎士のように。
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