第一章【3】
【三】
目を開けると、いつもと変わらない朝だった。
そのせいで昨日の出来事が夢だったと思いたくなってしまう。
だが現実逃避するにも、真田剛毅はさっきまで見ていた昔についての夢をはっきりと思い出せてしまう。
あまり良くない思い出であり、そんなものを追体験したことについて二重でうんざりしてしまう。
頭を掻いてベッドから降りる。
昨日の出来事のせいか、どうにも気力面で疲れが残っていた。
着替えようとする剛毅の手に吸い付くように魔法少女の杖がやって来た。
スカートは時間経過で消えたが、どうやらこの杖は常に付き纏うものらしい。
これが魔法少女になったということか。
この鬱陶しいことこの上ない魔法の杖を、姉はどう持ち運んでいたのか。
記憶では手ぶらでいることも多かった。
杖は持ち歩いていなかったはずだ。
先日の事件が原因で学校は長期休みに入った。
時間はある。とにかく色々と学ばなければ。
「まったく、忌々しいもんだぜ」
毒づいて杖を顔の前に持ってくる。
「おいステッキ野郎。なんで俺を選びやがった。俺なんかのどこが良いんだ、このスットコドッコイ」
杖の先端にある星の宝珠を指差し、語り続ける。
学校の先生には話し方の感性がとても古いと笑われたり呆れられたりだが、こちらはツッパリ風味で話すようにしているのだ。
もちろん杖は無言。
姉が杖によく語りかけていたから、もしかしたらと考えたが、返事をすることはないようだ。
こんなことなら姉にもっと色々と聞くべきだった。
特に、この杖を誰かに引き継ぐ方法などをだ。
まあ、話を聞くにしても姉は戦いに忙しすぎて、まともに帰ってくることも話をすることも難しかったのだが。
手早く朝食の準備をし、トーストにジャムを塗って、皿に目玉焼きとレタスを載せる。
テレビでもスマホでも先日の事件のことで持ちきりだ。
中には魔法少女の復活の兆しと考える人もいる。
『ですから、魔法少女がまたも必要な世界になったんですよ!』
そう言って、最近よく見る男が弁舌を振るう。
この街の市長であり、ほぼ壊滅しかけていた都市機能をたちまちに復興させた凄腕だ。
声がよく通り、体は活力に満ち、顔立ちも整っていることから、老若男女に人気がある。
カリスマの体現者。男の中の男。男らしさとはこのような男のことを言うのだろう。
剛毅はなんとなくそう考えていた。
正直、彼のファンだった。
『しかし、また彼女を頼るのですか! プリティプディングに守られた頃からまるで進歩がないではありませんか! それでは魔法少女の偉業に到底見合いませんよ!』
いつもこの手の番組で難しいことを話している批評家の中年女性が反論する。
世の風潮とは逆流することが多くて嫌っている人も多いが、耳を塞ぎたくなることを敢えて言うタイプでもあった。
言い方を考えれば良いのに、といつも真田は思っていた。
人間の心を動かすのは非常に多種多様な要素だ。
逆に言えば、一つの要素が飛び抜けて劣っているとすれば、それは言葉としての効果を持たなくなってくる。
市長は首を振って彼女に語りかける。
『それは仰る通りです。故に、私達は間違えるわけには生きません。今回こそ、一丸となって、魔法少女が戦いやすい制度を作っていかなければ』
市長の言葉にその場の全員が拍手する。
ネットでも市長を支持する声が大多数なのは予想できた。
羨ましいことだ。ネット人気が高いことではなく、ああいう風に堂々と自分の意見を話して自信満々に振る舞 えることが。
『まあ今は難しいことはいいじゃないですか。僕はまた魔法少女を見られて嬉しいですよ。なにせ可愛いですからね。目の保養って言うんですか? テレビの前の男性諸氏もそうでしょ? もちろん女性も』
お笑い芸人がそう言って議論に茶々を入れる。
外見への無遠慮な言及。不愉快だ。
個人的な感情を抜きにすると、事件についての見解を語る彼ら/彼女らに共通するのはハッキリとした魔法少女への信頼だ。
きっと魔法少女が救いの手を差し伸べる。魔法少女が助けてくれる。
彼女が生きていたら、戻ってきたら必ずそうする。
真田には納得できない唾棄すべき女々しい考えだ。
男たるもの、自分のことは自分でなんとかすべきというのが真田の長年の持論。
悪しき怪物には素手だろうと勇敢に立ち向かうべきというツッパリがあった。
魔法の力も使わず、男だったら拳一つで戦わねば。
まあ……出来なかったのでどうしようもないことだ。
「でも魔法少女かよ……」
杖に対して深々とため息をつく。
右手で食事をし、左手で杖を握っている状態だ。
不便ではあるが一人暮らしが長いので、さほど問題にはならない。
何故こんなファンシーなアイテムが自分を選んだのか、男の中の男であるはずなのに。
まるで自分の中に”女の子”が存在していると囁かれているかのようだ。
「ごうちゃん。杖を戻せないの?」
湯気の立つ熱々のオムレツの横にケチャップとマスタードがかかったソーセージとレタス。
焼き立てのトーストも持ってきた母が席につく。
「あ、ああ……」
どうしても慣れないやりとりに戸惑ってしまう。
魔法少女になった自分と、それを守る騎士という母。
具体性はゼロなのに、身分差だけはハッキリとある。
元から距離、関係を掴めずにいたのに、今はそれがいっそう強くなっていた。
どうしても居たたまれなくなり、少年は気まずそうに母に切り出した。
「その……改めてよろしくお願いします」
かしこまってお辞儀する新人魔法少女。
母騎士はびっくりして両手を挙げた。
「いいのよいつも通りで。とは言っても難しいでしょうから、少しずつ状況を知ってもらおうかしらね〜」
「じゃあ…………」
咳払いして、第一に訊きたいことを考えた。
困惑に押されたせいで忘れてしまっているツッパリを取り戻し。
胸を張って、声を低くして問いかけた。
「とりあえずあんたは何者なんだ」
「あんたって言ったらダメぇ」
口元で指を交差させ、バツ印を作り、母は叱る。
食事を続け、トーストを齧ってからオムレツを口にしながら、少年は渋々言い直した。
「おふくろは何者なんだ」
「三代前の魔法少女…………の使い魔よ」
「人間じゃなかったの!?」
突然のカミングアウト。
滑らかで濃厚な食感のオムレツを吐き出してしまうところだった。
何年も一つ屋根の下で暮らしてまったく知らなかった。
そも、使い魔とは具体的にはなんなのか。
絵本や童話で魔女が、蝙蝠や烏を使い魔にしているのをよく見る。
「体の構成は人間と同じよ。琴音も私がお腹を痛めて産んだわ」
真田剛毅の知識において、使い魔というのは魔法少女が付き従える相棒だ。
姉にも使い魔がいたが、誰がどう見ても人間ではなかった。
それでは、どのような姿だったかというと、小さな竜の形をしていた。
もう輪郭しか思い出せないくらいに遠い昔のことだ。
あの使い魔には名前があったのだろうか。
母はかなり大柄とは言え、人間以外のなにものにも見えない。
「使い魔はね。魔法少女の写し鏡なの。魔力に意志を伝わらせると、自然とその魔法少女が求めるモノが浮かび上がる。明るくなりたい魔法少女は一緒に楽しく話せる明るい使い魔ができる。だらしない魔法少女にはしっかりとした保護が必要な使い魔ができて、魔法少女の成長を促す」
つまり、ずっと一緒に生活してきたこの女性も、元は誰かの願望やパーソナリティの鏡面投影ということか。
この包容力と豪快なパワーを併せ持つ人物像。
誰の求めで生まれたのか。
そう考えている息子へ、母は話を進める。
「魔法少女の技を極めると1つだけ願いを叶えることができるの。それで当時の魔法少女は私に”お友達になって”と願ったから、こうして人間として生きることになったわ」
初耳だ。姉も叶えた願いがあったのだろうか。
というかそんなの有りだったのか、と魔法少女歴一日の新米は驚く。
使い魔を元に家族や親友を生み出す。
それは夢のようなことだ。
魔法少女とはもっと無私で報われないものと思い込んでいた。
「おふくろに願った魔法少女は、今何してんだよ」
「それは…………」
目を泳がせ、口ごもる。
いつもは穏やかで柔和な瞳に、寂しさと悲しみが強く見えた。
そういう顔を母がするのは初めてな気がする。
いや、正確には剛毅が寝静まった夜。
トイレに行こうとリビングの前を取ると、ホットココアを前に物思いをしている母を見かけることがあった。
そういった時、彼女は今のような表情をしていた。
「彼女は亡くなったわ」
「ごめん、嫌なこと聞いて」
「ううん、いいのよ。それで、私はごうちゃんのお姉さんに頼まれて、未来の魔法少女を守る準備をして、貴方を見守ってきた」
「お姉ちゃんは俺が魔法少女になるのを知ってたのか?」
「だって魔法少女プリティプディングが後継者を貴方にと指名したから」
「俺を魔法少女にしたのってお姉ちゃんなの!?」
あのフリフリの衣装を思い出して、真田剛毅はテーブルに突っ伏した。
男の中の男を目指す彼にとって、あんな軟弱な姿というのは最も嫌悪すべきものだ。
それに魔法少女の弟だから魔法少女になるだなんてあまりに安易すぎる、それじゃあまるで魔法少女が世襲制であるかのようだ、そんなの魔法少女らしさがない、マチズモ的ですらある、大まかにまとめると、そういったことを真田は内心で呟き続けた。
襲名、指名が可能なら魔法少女の希少性自体が大したことがないように思えてくる。
「いやあ弟さんが魔法少女になるというのはまだ例は少ない方じゃないかしら……聞いたことがないものぉ」
「ゴホン」
声に出てしまっていた。
とにかく疑問の多くは解消された。
いきなり魔法少女になって頭の中がゴチャゴチャのぐるぐるだった。
だがこうして教えてもらうことで、不安はかなり取り払われた。
持つべきは魔法少女に仕える母騎士かもしれない。
「…………そんなに詳しいなら、教えてほしいんだけども、魔法少女になった時に、先代魔法少女がいる変な光景を見たんだけどよ。あれが何か知ってるか?」
「変な光景?」
「先代が殺される瞬間」
それを聞いた母が青褪めた。
無理もないことだ。
あの救世主が、殺された瞬間なんて、想像するだけで背筋が凍る。
しかし、母はすぐに立ち直る。
いつもの口調、声の高さ、リズムで
「魔力は意志を通して働きかけるから、先代の意志が強く残っていることがあるの。それかもしれないわねえ。でも凄いわ、ごうちゃん。そんなの初めて聞いた。きっと天才なのよ!」
母は浮かれて上下に跳ねる。
姉のそんなシーンを見たと打ち明けた息子を気遣っているのだろう。
ありがたいことこの上ない。
「きっと立派な魔法少女になれるわね」
それを言われても少年としては憮然とするばかり。
魔法少女。強いのは良い。可憐なのが嫌だ。
ずっと、可愛いと言われ続ける人生だったのに、まるで嫌味みたいだ。
「ということは、やっぱりあれは先代が……姉が見た景色なのか」
プリティプディングが負っていた傷。あれは戦いで生じたものではなかった。
銃創。敵に刻まれたものであるはずだ。
「姉を殺した誰かがいる」
「……そうね」
「誰かに撃たれてた。心当たりは?」
「…………私はあくまで後見人をお願いされただけだからプリティ・プディングの人間関係は知らないの」
申し訳なさ、罪悪感に母が睫毛を伏せた。
話題が深刻なものになったことで、母の柔らかさに影が差す。
「魔法少女が撃たれたの? それはおかしいわ。銃火器が効かないはずだもの」
話題が深刻なものにシフトしたことで母の表情もぽやんとしたものから引き締まった。
いつもの慈愛に満ちたものから凛とした思慮深いものに変わる。
普段の彼女を知らなければ、これこそが素顔と思い込んでしまいそうなほどに似合っている。
「あれが実際に起きたことなら、犯人がいるはずだ。絶対に見つけたい」
闇の軍勢の長が銃を使うなど聞いたこともない。
あれは人間がやった。
人間が姉を殺したのだ。
誰からも愛される、世界の希望を身勝手にも殺したのだ。
「見つけてぶっ殺してやる」
言葉にすると、すんなり通った。
生命を奪って見せる。姉を死なせた者を。
”復讐は間違っている”、”憎しみに囚われないで”だの月並みなことを言われるかと身構えたが、母は静かに頷いた。
その瞳には憂慮、思索、そして同情が見えた。
殺すというのを、息子の口から聞いた母の顔だった。
「そうね……一緒に調べましょう」
「止めないのか?」
母の性格的に復讐めいたことは止めるか嫌がるものだと真田少年は思っていた。
少なくとも、彼は妹や母親が”殺す”なんて言ったら、あまり良い気分はしない。
いや、きっと酷く不愉快になるに違いない。
「だって魔法少女を殺したなんて、どう考えても悪い人でしょ? だからどちらにしてもいつかはぶつかるわ」
辞めるように説得してほしかったわけでは決してない。
それでも、母に殺意を否定されないのはショッキングでもあった。
かと言って本当はどう言ってほしいのかも真田剛毅自身にすらわからないが。
「とりあえずは先日の事件の首謀者を探しましょう」
「やっぱり誰かがやったのか」
怪物が空から降ってくる直前、朱黒い闇が視界を覆った。
あの肌がざわつく感じは、魔法処女が術を使う時の感触とよく似ていた。
もちろん、本物の魔法少女の力にあんな禍々しさはない。
あれは酷似した別物だ。
「俺以外の魔法少女がいるとか?」
「それは無いと思うけれども…………それも含めて突き止めるの。いえ、やはりその可能性もあるのかしらね」
「どうやって突き止める?」
「ママに全部お任せ!」
何かあった時はこう言って、腕を曲げて力こぶを作るふりをするのが母の決め台詞だ。
これまでなら人並みの大きさのこぶができたのだが、正体を教えてくれたことで、彼女の本当の力こぶを見せた。
火山が鳴動したと錯覚する音が聞こえた。
冗談のように一部だけ筋肉が膨張し、息子は腰を抜かしかけた。
張り詰めた会話が穏やかなものに変わる。
悔しいことに、真田剛樹がどれだけツッパっても成りきれない原因がここにあった。
母がいる空間ではすべてが柔らかく、暖かいものになってしまう。
こんな家で、不良をやり切るのは凄まじい忍耐が要求される。
全身が母のオーラでふにゃふにゃになるのを堪え、少年は話題を変えた。
「それで、そうだ。杖をしまうことができねえ。寝てる時も、トイレに行くときもだった」
「眠っている時は大丈夫だったんじゃない?」
真田剛毅は頸を振る。
戦いの場から帰宅して夜になっても、近くから離れようとしなかった魔法の杖プリリンバース。
母はとにかく手元に置き続けるように言っていたが、その言いつけを破って、廊下に杖を置いてから寝た。
「コラぁ」
それを聞いて、間延びした語尾で息子を叱ろうとする母の表情。
眉を少し吊り上げ、言葉短く叱ろうとするも、やりきりはしない、いつものもの。
非日常の極地に突き飛ばされた昨日と比べると、あまりに普段通りで真田剛毅は嬉しくなった。
それを素直に表に出すことはできないが。
「バーロー。男たるものあんなキラキラの杖を置いとけっかい」
「これから何があるかわからないんだから絶対に側に置いときなさい。そうしないと杖にも慣れないでしょ。戦士たるもの、武器は自分の体の一部にするのよー」
指を立ててそれっぽいことを母が言う。
どれだけ正しいのかはわからないが、正しい気はした。
かといってツッパリが従うかは別だが。
そうだ。母の言うことに、今の自分なら正面から立ち向かえる。
さっきの力こぶには腰を抜かしたが、今の少年には隔絶したパワーがあるのだ。
「フン。どっちにしたって朝にはベッドの横だったぜ」
「困ったわねえ。いっそのことそういうコスプレグッズってことにしちゃおうかしら」
穏やかじゃないことを母が言う。
「絶対に嫌!!」
そんなの、まるで自分が少女趣味だと、周囲に見せびらかすようなものだ。
普段は下駄に学ラン、学帽のファッションなのに、あまりに落差が酷すぎる。
「もちろん冗談よぉ。だってそれを持ち歩いてたらどうやっても、貴方が魔法少女だってバレちゃうものぉ」
「まあそりゃそうだよな」
魔法少女だとバレたら、いつ敵に狙われるかわかったものではない。
こうして食卓を囲んでのんびりオムレツを食べることもできないのだ。
仮に、敵の襲撃を退け続けるにしても、我が家には戦える人間だけではない。
義理の妹が留学して、もうすぐ帰ってくるのだ。
あまり仲が良いとは言えないが帰って来る家は用意しておきたい。
「そういや“あいつ”は自分の親のことを知っていたのか?」
「ええ、そうよ。でもそれはあ……」
「いやべつにいいんだけどさ」
うつむく少年。
本当はどうして言ってくれなかったのかと言いたい。
いっそ、思いっきりへそを曲げてしまいたい。
けれども、少年にそれをやる勇気はない。
同じ屋根の下で暮らす、現状は唯一の家族。
そんな彼女に噛みついて、これからの生活を空気悪くするというのは、避けたいことだ。
それに、育てた子供に悪く言われては、母が可愛そうだとも剛毅は考えた。
この家では母が絶対なのだ。
そして、子どもたちは母の意志、決定、方針にNOを言うことは絶対にできない。
「とにかく今週の土曜日は山にピクニックだな」
正確にはその日に、母と一日トレーニングをするという約束を交わしただけなのだが。
母の喜びようを見ればそういう意味だとわかる。
「ええ、そうね。ママ楽しみだわぁ〜〜」
両手を合わせてニコニコ。
母が鼻歌を歌いそうなくらいに上機嫌になった。
「ご褒美、プラスのことを考えましょう」
淡々と、静かに。そして厳かに、形の良い唇を動かす。
「魔法は何にする?」
“魔法”。さっき言っていた魔法少女の奥義。
その極みというものだ。
願いを叶えることができるという。
そう言われても、真田剛毅に願いと言えるようなたいそうなものはない。
母がいて、遠くに妹がいて、ぎくしゃくするしぶつかることもあるが、大きな力を持って変えるようなものではない。
考えてみても、欲しいものもやりたいこともない。
願うことそのものがなかった。
「願いがないのはいけないわあ。それがあなたの魔法少女としての能力そのものにも繋がるものぉ。大きな大きな大おおおおおおきな力をもって何かやりたいことはなぁい?」
大きな力……そう言われて考えてみる。
真田剛毅、少年にとっての、到底届かない、敵わない、自分の想像の外にあるようなこと。
それは、姉のことだった。
魔法少女プリティプディングが、少年にとっての大きな力、想像の外だった。
今は亡き存在。
今は、だ。
「死者の蘇生」
口を突いて出た考え。
馬鹿げていると思ってすぐに撤回しようとする。
真田少年が培ってきた常識において、ありえないことだった。
「いいんじゃないかしら」
母は否定しなかった。
肯定されると思わず、提案した本人が押し黙ってしまう。
しんと静まった空気。
美少女同然の美しい顔立ちの少年は、おっかなびっくりに言う。
「お姉ちゃんを生き返らせるって、できるのか?」
「試す価値はあるわ。魔法少女に不可能はないもの」
非現実的。ありえない。
そんなワードが脳内を飛び交う。
けれども、母は、決してこういう時に嘘や気休めは言わない。
可能、少なくとも可能性はあるのだ。
姉を、魔法少女プリティプディングを復活させるというのは。
「っつーか、それやったら俺が魔法少女を辞めても問題ねえじゃん!! これだ、これだよ」
名案を閃いた興奮で、自然と早口になった。
ボンヤリとしていた、魔法少女としての戦い、目指すもの。
復讐以上に強固なイメージができあがった。
偉大で強く、希望の象徴たる姉を蘇らせて、彼女に魔法少女をまたやってもらう。
何もかも上手くいく。
これで間違いなわけがない。
「じゃあ…………少しでも速く、強くなって……お姉ちゃんを蘇らせる」
言葉にすると、自分の内側から未知の活力が、湧き上がる。
これは、目標であり、夢であり。
偉大な存在を自分なんかが元に戻すという、神聖な使命のように思えた。
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