第2話「光焔界での覚醒」前編

 アキラが意識を取り戻すと、胸を引き裂くような鋭い痛みが襲い、息をすることさえ苦しくなった。冷や汗が額を伝い、まるで命が尽きたかのような感覚に襲われた。しかし、その痛みに屈することなく、アキラは意識を研ぎ澄ませ、自らを奮い立たせた。


「まだ終わっていない……」アキラは自分に言い聞かせ、苦しみを乗り越えるために強く目を開けた。


 記憶の断片が次々に蘇り、その重さに圧倒されそうになるたび、アキラは現実に引き戻そうとする意志を強めた。冷たい異世界の風が頬を撫で、今が現実であることを実感させた。


 目を開いた瞬間、異様な静寂が彼を包み込んだ。周囲から微かな呻き声が響き、どこからともなく不気味な囁きが聞こえてくる。


「この場所がただの異世界ではない……得体の知れない力がこの空間を支配している」


 そう直感したアキラは、改めて決意を固めた。


 遠くから響く足音と共に、不穏な気配が次第に増していく。アキラは、この静寂が嵐の前触れであることを直感し、自らの感覚を研ぎ澄ませた。


 目の前には、二つの月が浮かぶ夜空が広がり、薄紫色の光が見知らぬ地平線を染めていた。その美しさに一瞬見とれたものの、アキラはすぐに気を引き締めた。


「この異世界で何が待っているのか、自分で確かめなければならない」


 足元に広がる裂け目から、時折異質な風が吹き込む。過去と未来が交錯するかのような不気味な光景が現れる中、アキラは自らの手で裂け目に触れ、何かを掴もうと試みた。


「これは過去や未来の断片か……?」


 瞬く間に、失ったものへの思いが押し寄せる。母の微笑み、友との約束、愛する者たちの涙。


 だが、アキラはその感情に囚われることなく、冷静にその像を見つめた。


「これは幻だ……俺を惑わせるための罠に過ぎない」


 その像が消えると同時に、心の奥に冷たい空洞が広がるのを感じたが、アキラは動揺することなく冷静に自分の記憶と向き合った。


「この記憶が本物かどうかは関係ない。俺は俺の意志で進むだけだ」


 その瞬間、周囲の気温が急激に下がり、凍てつく寒さが襲いかかる。しかし、アキラはその寒さに動揺することなく、冷静に自分を制御し続けた。


「この世界が俺を試しているのなら、俺はその試練を乗り越えてみせる」


 足元の影が不気味に蠢き出す。アキラはその動きを観察し、警戒を強めた。


「この影……ただの影ではない」


 その影から突然、異形のクリーチャーが現れる。アキラは驚くことなく、そのクリーチャーを直視した。


「闇の中に潜む敵……かかってこい」


 クリーチャーが彼に向かって突進してくると、アキラは素早く動き、足元の影を制御しようとした。影が自らの意思に反応して動くのを感じたアキラは、攻撃のタイミングを見計らい、正確に動いた。


「この力……使いこなしてみせる!」


 アキラの手が自らの意思を超えた動きで振り上げられると、眩い光が放たれた。光はクリーチャーを包み込み、瞬く間に消し去った。


「俺が……やったのか?」


 一瞬驚いたものの、アキラはすぐにその力を自分のものとして受け入れた。


「これは俺の力だ。必ず使いこなしてみせる」


 そのとき、頭の中に嗟嘆から得た無数の映像と音が押し寄せ、アキラは耐えきれず膝をついた。しかし、彼はその苦痛に屈せず、再び立ち上がろうとした。


「この記憶……この力、俺が使いこなすためのものだ」


 視界が激しく歪む中、アキラは地面の亀裂から漏れ出す光を自らの力として引き寄せた。


「俺の内なる力が覚醒しつつある……ならば、それを制御してみせる」


 背後に圧倒的な存在感を感じたアキラは、振り返り、その存在を直視した。


「俺の前に立ち塞がる者よ……お前が何者であろうと、俺は進む」


「我は永劫獣と呼ばれる者だ」


 深く響く声がアキラの胸に重く響き渡る。


「アキラよ、其方が得た『記憶の透過』は、希望と絶望の両方をもたらす力だ。その重さを知るがよい」


「その重さを知るかどうかは、俺次第だ」


 アキラは冷静に返し、永劫獣と向き合った。


「試練だと言うなら、受けて立つ」


 永劫獣が告げると、周囲の風景が急激に変わり、広大な宇宙が一瞬で豪華な王室のような部屋へと変貌した。アキラはその変化に動じることなく、次に起こるべきことに備えた。


「座るがよい」


 その声には冷たくも不可避の命令が込められていたが、アキラは自らの意思で目の前のソファに腰を下ろした。


「知識を見る相手のすべてを知り得ることは、重い負担となるであろう。数千年の叡智は、希望を押し潰すほどの苦痛となることもある」


 永劫獣の言葉は冷酷だが、アキラに対する試練の重大さを示唆していた。


「その苦痛を越えられるかどうかも、俺次第だ」


 アキラは決意を固め、永劫獣の言葉に警戒を抱きつつも、自らを奮い立たせた。


「知識が……苦痛に変わるのか?」


 アキラは一瞬、驚きと戸惑いで声を震わせたが、すぐに自分を奮い立たせ、


「だが、それでも俺は進むしかない。復讐のためなら、この苦痛も耐えてみせる」


と決意を新たにした。


 永劫獣はアキラの動揺を楽しむかのように、さらに言葉を続けた。


「そうだ。知りすぎることは行動を縛り、希望を失わせる。だが、選択は其方に委ねられている」


「その選択も俺が決める。誰にも縛られない」


 アキラは永劫獣の挑発に乗ることなく、自らの道を見据えた。


 永劫獣が手を一振りすると、半透明の黒い文字盤と白い文字盤がアキラの目の前に浮かび上がった。


「黒い文字盤に触れれば、『不死性』を得る。損傷を受けても即座に回復し、死を免れる力だ。しかし、その力には重い代償が伴う。白い文字盤を選べば、回復手段は己で用意せねばならず、叡智も得られない」


 アキラは一瞬、選択に迷ったが、冷静に黒い文字盤を選び、その力を手に入れることを決めた。


「この力を手にすることが俺の運命なら、その運命に抗うつもりはない」


「これが……俺の運命なのか……」


 アキラは恐怖ではなく、新たな決意を感じ取った。


「この世界で、二度と裏切られることはない……絶対に」


 アキラは自らの意思で道を選び、その力を手に入れた。


「この力を使い、全ての裏切り者に報いを与える」


「俺は一人じゃない……これまで支えてくれた者たちのためにも、この力を使うんだ」


 アキラは深呼吸をし、自らの意思を強固なものとした。


 自分が選んだ道であることを確かめるように、アキラはしっかりと文字盤に触れ、その力を手に入れた。


 永劫獣はさらに言葉を続けた。


「我が求めるものは、ただの力の保持者ではない。真にこの世界を導く者が、己の意志を貫き、試練に打ち勝つことができるかを見極めるための試練だ」


「その試練を受け入れる。だが、俺が望むのは復讐だ。世界を導くつもりはないが、結果としてそうなるなら、それもまた運命だろう」


 アキラは冷静に自分の意思を確認した。


「其方の旅路に幸が在らんことを」


 永劫獣はそう言い残し、粒子のように霧散した。しかし、アキラの心には新たな疑念が芽生えた。


「この試練を課す存在がいるのなら、その背後には何があるのだろうか?」


 霧散した永劫獣の言葉が耳に残り、アキラの胸に不安が広がった。彼は拳を握りしめ、自分の中に残るわずかな震えを感じ取った。しかし、次の瞬間にはその震えを力強い決意に変え、再び前を見据えた。


「たとえ何が待ち受けていようと、俺は進むしかないんだ……」


 アキラは深い息を吐き、周囲を見渡した。暗闇に包まれた空間の中で、彼の目には微かに光る道が見えた。それは、彼が選んだ道、そして彼がこれから歩むべき未来を象徴するかのようだった。


「俺はもう迷わない……この力を使って、すべての答えを見つけ出してみせる」


 そう言い聞かせながら、アキラはその道を一歩ずつ進んでいった。彼の心には、これまで以上に強い覚悟と、未だ見ぬ真実を求める情熱が渦巻いていた。


 その瞬間、再び激しい痛みが頭を貫き、彼は地面に崩れ落ちた。しかし、彼は意識を失うことなく、その痛みに耐え続けた。


「この痛みも試練の一部……ならば、乗り越えてみせる」


「がああああああ……!」


 アキラの絶叫が虚空に響き渡ったが、彼は決して諦めなかった。永劫獣の数千年にわたる知識と経験がアキラの中に流れ込み、彼はその力を自分のものとして受け入れた。


「この知識と力、俺のものにしてみせる」


 眩しい光が視界を包み込むと、アキラはかつての日々を思い出した。しかし、彼は過去に囚われることなく、未来へと目を向けた。


「過去は過去、俺は未来を切り開く」


 やがて、痛みが和らいできた頃、アキラの目の前で新たな異変が巻き起こり始めた。


「今度は……なんだ?」


 アキラは地べたに這いつくばりながらも、決して恐怖に屈することなく、その変化を見つめ続けた。


「どんな脅威が来ようとも、俺は立ち向かってみせる」

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