第1話「裏切りと再生」後編

 アキラは、友人たちと過ごした日々を思い返していた。温かい絆、共有した夢、そして未来への希望。それらが一瞬で裏切りに変わり、アキラの心に激しい怒りと絶望が渦巻いていた。信じていた友人たちが、自分を校舎の屋上から突き落とし、命を奪おうとした事実が、彼の胸に深い傷を刻んだ。


「どうして、あんなに変われるんだ……」


 アキラの声はかすれ、冷たい風にかき消された。彼の心の奥底には、殺されかけた事実への許しがたい怒りが宿っていた。彼らは越えてはならない一線を超えた。友人たちに対する驚きとともに、彼を襲うのは冷酷に排除したいという憎しみだった。その憎しみは彼を強くし、失われたものへの深い悲しみが混ざり合い、彼の心をさらに揺さぶった。


 冷たい石の上で目を覚ましたアキラは、異様な世界にいることを直感的に悟った。赤黒い空が広がり、重苦しい静寂が漂う中、恐怖と不安が彼を包み込む。彼はふらつきながら立ち上がり、周囲を見渡した。だが、その瞬間、体の中で何かが目覚め、力が漲ってくる感覚に囚われた。それは、自分のものではない力が、彼を魅了し始めていた。


「ここは……どこなんだ……?」


 アキラは自問しながら、体内で眠っていた力が徐々に覚醒するのを感じた。その時、闇の中から不気味な影が姿を現し、彼に襲いかかってきた。恐怖に凍りつきそうになったが、心の奥底で復讐の炎が一気に燃え上がり、その力が爆発的に解放された。


「俺は、まだ終わっていない……!」


 アキラはその力で影を切り裂き、周囲の闇を払った。新たな力を手にした彼は、この異世界での自分の使命を直感的に感じ取っていた。


 その時、白いシルクハットに白い燕尾服をまとった美青年が、軽やかな足取りでアキラの前に現れた。青年はフランクな笑みを浮かべ、飄々とした口調で語りかける。


「やあやあやあ、アキラくん。よく目を覚ましたね。ここは、まあ、ちょっとした異世界ってやつだよ。驚いた?」


 青年は「外側の者」と名乗り、軽い調子で話を続けた。


「君が蘇ったのは偶然じゃないんだ。実は、君が生き返るためには対価が必要だったんだ。だからね、その対価として『退職代行者』として働いてもらうことになるんだよ」


 アキラは驚きと困惑を隠し切れずにいたが、外側の者の説明に耳を傾けた。


「君には、この異世界で勇者たちを『退職』させる役割を担ってもらう。そして彼らを召喚した連中も一緒にね。彼らは異世界から召喚され、この世界を支配し、戦争や混乱を引き起こしている連中だ。この異世界の秩序を取り戻すためには、彼らを一掃する必要があるんだ。これが君の蘇生の対価だよ。君の命を取り戻した代わりに、この任務を果たしてもらうことになる」


 アキラはその言葉を聞いて、ようやく自分の置かれた状況を理解し始めた。自分が生き返ったのは、単なる幸運や偶然ではなく、この異世界での役割を果たすためだった。そして、その役割が「退職代行者」として、勇者たちを排除することにあると理解した。


「退職代行……それが俺の役割か……」


 外側の者は微笑みながら、さらに続けた。


「そう、君にはその役割を果たしてもらう。だが、注意してほしい。君がその力を使うたびに、君自身が少しずつ変わっていくかもしれない。それがどんな変化かは、まだ君自身も知らないだろうけどね」


 アキラは復讐心と新たな力への恐れが交錯する中で、心を決めた。もう後戻りはできない、そして、この力を使って自分の運命を切り開くしかないのだと。


「その力で何ができるんだ?」


 アキラの問いに、外側の者は笑みを浮かべながら応えた。


「例えば……『記憶の透過』というスキルを君に授けよう。これを使えば、相手の記憶や経験を吸収することができる。だが、回数制限がある。使いすぎれば、君自身の存在が曖昧になってしまうかもしれない」


 アキラはそのスキルを使うことを決心し、目の前の遺骸に手をかざした。その瞬間、冷たい波動が全身を駆け巡り、視界が歪んだ。膨大な記憶が流れ込み、彼の脳内に他者の思想や経験が渦巻き始めた。アキラは自己認識が揺らぎ、何が自分自身なのかが曖昧になっていくのを感じた。


「影移動……」彼が最初に口にしたのは、吸収した知識から得たスキルだった。新たな力に圧倒されながらも、自分が何者であるかについて深い混乱が生じた。自己認識の変化により、かつての確固たる意志と未来への方向性が揺らぎ始めた。


「君がその力をどう使うかは未知数だが……これで終わりじゃないよ、アキラ。君には新しい肉体も用意しておいた。今の体では、これからの戦いには耐えられないだろう?」


「肉体?」アキラは疑念を抱きつつ問いかけた。「さっき蘇生と言っていたが、この体ではダメなのか?」


「魂を掘り起こしたという意味での蘇生だ。君が認識しているのは人間の姿だからその形を作っているだけだ。しかし、人間の体は脆い。スキルは魂に刻まれるが、肉体は単なる器に過ぎない。君が宿れば、その体は君そのものになる」


 外側の者が指し示したのは、アキラによく似た筋肉質で精悍な顔つきを持つ新しい肉体だった。その体は戦いに耐えうるように引き締まり、アキラの現在の体よりもはるかに力強い印象を与えていた。


最後のつながりはやや急で不自然な印象を与える可能性があります。自然な流れになるように、次のように改稿してみました。



「これが君の新しい体だ」外側の者は淡々と続けた。「自分の体だと思って、胸に突っ込んでみて?」


 アキラは一瞬躊躇したが、復讐のためには何でもする覚悟を決め、新たな肉体に飛び込んだ。その瞬間、全身を引き裂かれるような激痛が走り、意識が遠のいていく。しかし、その痛みの中で、彼は自分が新たな次元へと変貌しつつあるのを感じた。存在意義が揺らぎながらも、新たな力を手に入れることが彼の唯一の希望だった。


 目を覚ました瞬間、アキラの視界は真っ赤に染まっていた。自分の手を見ると、そこには血まみれの誰かの頭があった。その瞬間、彼は自分がかつての自分ではないことを確信した。筋肉質で精悍な新しい体を持つアキラは、かつての彼とはまったく異なる存在となっていた。


「これが俺の力……彼らを退け、この世界の運命を変えてみせる」


 その決意と共に、アキラは新たな力を手に、冷酷な覚悟を胸に歩み始めた。彼の心には、かつての友人たちへの復讐心と、この異世界での新たな使命が燃え盛っていた。


 アキラが新たな力を手にしたことで、この異世界での冒険が始まる。彼の心には、勇者たちを退職させるという使命と、それに伴う数々の困難が待ち受けている。しかし、アキラはその覚悟を持って、未来への道を切り開く決意を固めた。


 外側の者は、アキラの変貌と決意を満足そうに見つめていたが、その瞳の奥にはまだ何かを隠しているかのような冷たい光が宿っていた。


「アキラくん、その決意、悪くないよ。でも、これから君がどう変わっていくのか、僕も興味津々だよ。さあ、任務を忘れないでくれよ、退職代行者さん。ここからが本番だ!」


 外側の者の言葉に、アキラは微かに頷き、歩みを進めた。彼の前には、数々の戦いと試練が待ち受けている。そして、その戦いの中で、彼は自分自身を見失わずにいられるのか、それとも復讐心に飲み込まれてしまうのか、その答えはまだ見えていなかった。


 しかし、アキラはもう迷わなかった。彼は新たな力と共に、この異世界での戦いに立ち向かう覚悟を決めた。そして、彼の冒険は、今、静かに始まろうとしていた。


 ところが、まさにその瞬間、新しい肉体に適応しきれなかったのか、突然アキラの全身に異様な重さが襲いかかった。激痛が全身を貫き、彼は思わずその場に膝をついた。新たな力が暴走するのを感じながら、アキラの視界は次第にぼやけ、外側の者の笑みが遠のいていく。そのまま、彼の意識は深い暗闇へと引きずり込まれていった。

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