第13話 誕生会と結婚式
最近、領内のどこに行っても声をかけられる。ただ視察をしているだけなのに領民から声援を受けてしまうのだ。
もちろん悪い気はしない。でもこれで良いのか?とも思う。俺、舐められてない?
ミシミに相談したら、なぜか笑って「いいんじゃない?」と言っていたので、良いことにしよう。
この前、レティスの誕生日パーティーを開いた。ついでに俺の爵位継承の祝いも兼ねたんだ。なので、ミルトン男爵領周辺の貴族当主にも招待状を送った。でも誰一人当主自ら来た者はいなかった。全員代理人。まあ新米男爵の扱いなんてそんなもんだよね。別に悔しくなんかないもんね。
誕生日パーティーの前に、レティスに欲しいプレゼントがあるか聞いてみたんだ。
「けんと、まほうのしゅぎょうが、したいです!」
いやいくら何でも早すぎるだろ。
誕生日パーティーと言えば、その会場の端で、エラムとコチルが楽しそうにダンスを踊っているのを見ちゃったんだよね。エラムの奴、いつの間にダンスを習得してたんだ?
お相手のコチルの幸せそうな顔たるや、砂糖たっぷりのクッキーに蜂蜜ぶっ掛けたような表情だったよ。エラムに頭突きかましてきた時とは違って、なんとまあお淑やかなこと。どこの貴族令嬢だ?って噂している参加者もいたぐらいだ。
「という訳で、第一回・コチルの恋心を後押ししよう会議を始めます!」
「唐突に始めちゃったねオーラン、でも良いと思うよ。エラムの奴は周りがせっつかないと結婚なんていつまでもしないタイプだと思うからね♪」
「そういうラジェルがこの中では一番年上なんだけどな。順番から言えばラジェルが一番にしないといけないんじゃないか?」
「はっはーっ、考えてもごらんよ、結婚なんて人間が作ったバカみたいな制度を、このラジェル様が受け入れるはずがないじゃないか」
「お前、何様だよ」
「それに僕は狩人でいたいんだ。恋の弓矢を常に引き絞っているからね♪」
「訳が分からん。お前いつから弓術士になった?斥候職じゃなかった?」
ダメだ、こいつと話していたらいつまでも本題に入れない。俺は気を取り直して会議を進めることにした。
会議に出席しているのは俺、ミシミ、レティス、ラジェル。議題の張本人であるエラムは不参加だ。
「ところでコチルの気持ちは確かめてあるの?」
「ミシミさん、このオーランに抜かりはありませんよ。コチルの意思は確認済みです。マリエッタさんに!」
「本人じゃなく、マリエッタさんなの?」
「コチル本人以上にコチルを知る人物です!」
「……まあいいわ、パーティー会場でのコチルの顔を見れば、彼女の恋心は誰だって気づいたでしょうし。エラム自身は気づいてないかも知れないけど」
「ちかすぎて、きづかないこともある、からね」
「おぉーっ!やっぱりレティは賢いなぁ。もうそんな事まで理解できるんだね」
「ぱぱ、あたし、ぜんせのきおく、あるのわすれてるでしょ?」
「もちろん覚えているよ、でもレティが賢いのも事実だからね!」
「それで?二人の仲を取り持つと言っても、なにか作戦はあるの?」
「んにゃ、ない。もうこうなったら領主命令で結婚させてしまっても良いんじゃね?とか考えてます」
「ぱぱ、それいちばんだめなやつ……」
ミシミとレティスが右手を頭当てている。そんな仕草もそっくりで微笑ましいね。
結局、この『コチルの恋心を後押ししよう会議』は第三回を数えたところで、業を煮やしたミシミさんが二人と話をして婚約に漕ぎつけました。エラムも最初は驚いていたようだけど、幼馴染だからね、憎からず思っていたようで、あっさりと結婚に承諾しましたとさ。さすが俺のミシミだね!
「あなたはこういう事には全く役に立たないわね」
ミシミさんの一言が胸を
二か月後、領内の教会で二人は式を挙げた。婚約から結婚までの期間が短く感じるけども、平民同士の結婚はそんなものらしい。俺とミシミなんて、婚約すらせず即結婚だったからね。
結婚式は、マリエッタさんと孤児院の皆が親族として出席。マリエッタさん、喜んでたなぁ。テッドが何故か号泣してて面白かった。
コチルは本当に幸せそうな顔をしていた。エラムは終始緊張していて、これも面白かったな。だってあいつ、いつも冷静で皆より一歩引いた感じだからさ、当日は目一杯揶揄ってやった。
出席者全員が心から二人を祝福し、笑顔の絶えない最高の結婚式だったよ。
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