第3話 レティスのお願い

「おとうしゃん、おねがい、あります」


 翌朝、起きてすぐにレティスの顔を見に行くと、レティスの方から話しかけてきた。


「ん?どうしたレティス、なんでも言って見ろ。あと、お父さんが言いにくければパパでもいいぞ」


 愛する娘からの願いなら全力で応えるのが父親たるものの責任だからな。余裕の笑顔を見せて頼れる父親を演じる俺。


「……ぱぱ、つよくなる、ほうほう、おしえて」


 強くなる方法?そうか、そうだったな。レティスは勇者なのだから強くならなければならないのか。でもこんな小さな赤ん坊の頃からそんなことを考えているなんてな……父親としては辛いな。


「もう少し大きくなってからでも良いんじゃないか?今はどうせ身体が動かないだろ?」


「そう、だけど、はやめに、しっておきたい」


 無理はさせたくないのだけどな。まあ、知っておくだけならいいか。


「わかった、いいよ。んー、何から話そうかな……じゃあ基礎知識からだな」


 レティスの目が今まで以上に輝いているのが分かる。好奇心や知識欲が旺盛な子なのかな?そういうところはミシミに似ているな。


「まず当たり前の話だが、レベルを上げれば各ステータス値が上がるのは知っているな。【力】・【生命力】・【器用さ】・【敏捷性】・【知力】・【精神力】のことだ。この――」


「ま、まって……れべる?を、あげる?」


「あれ?レティスは前世の記憶があるんだよな?前世でレベルは上げなかったのか?」


「れべる、あげない。あげられない。れべるがあるの、げーむだけ」


「げーむ?げーむって何だ?前世では自分のレベルを見れなかったのか?」


「みれない。れべる、ない」


「無いの?レベルが?ステータスも?権能や熟練度も?」


「ぜんぶ、ない。くうそうのなかでだけ、あった」


「マジか……」


「まじ」


「んじゃどうやって強くなってたんだ?」


「……しゅぎょう、とか?」


「修行、って鍛錬とか訓練みたいなもんか。まあ確かに鍛錬でもレベルは上がるが、実戦の方がレベルが上がりやすぞ」


 レベルが低いうちは鍛錬でも上がる。でも実戦に比べれば微々たるものだし、ある程度レベルが上がると、鍛錬では上がりにくくなる。


「じっせん?」


「そうだ。戦う相手にもよるが、実戦で自分より強い魔物を倒すとレベルが上がりやすい」


「まもの、いるの?」


「もちろんいる。この王都の中にはいないけど、王都の外に行けば見ることができる。弱いのから恐ろしく強いのまで色々な魔物が生息している。その魔物を剣や魔法を使って倒してレベルを上げるのが強くなる一番の近道だ。素材や魔石を売ればカネも稼げる」


「まほう!つかいたい!」


 おっ!魔法に食いついた。レティスは魔法に興味があるのかな?


「レティスは勇者なんだから、もうすでに魔法が使えるはずだぞ。ちょっと自分のステータスを確認してみろ」


「すてーたす、どうやって?」


「まず目をつむって心を落ち着かせる。そして周囲のことを忘れて自分という存在に集中するんだ。瞼の裏に数字が出てこないか?」


「しゅうちゅう……」


 目を閉じて眉間にしわを寄せてウンウン唸っているレティスの可愛いことよ。俺に絵心があればこの瞬間を絵画にして残したいところだ。


「うーん……あ、みえた。これ、すてーたす?」


「そうだ。そこに【レベル】や【魔力量】って出てるだろ?その下に【力】や【生命力】とかの表示が見えるか?それがステータスだ。レベルアップのタイミングで各ステータス値も少しずつ上がっていくんだ。上昇幅は個人差があるけどな。さらにその下に【熟練度】の欄がある」


「げーむがめん、みたい」


「レティスはまだ赤ん坊だから【レベル】は1だろ?訓練したり戦ったりすればこの数字が大きくなっていくんだ。ずっと下を見てごらん。【権能】の欄があるだろ?」


「けんのう……」


「そう権能。これは12柱の権能神から与えられる特別な力だ。与えられた権能によって使える魔法が違ってくる。レティスは勇者だから使える権能がいくつかあるはずだよ」


「えっと、ひ、かぜ、ひかり、ちから、かく……かく?」


「【覚】ね、感覚の覚。いわゆる五感といわれるもの、視覚、聴覚、嗅覚なんかを強化する権能だ。ちなみに権能には【土】【水】【火】【風】【雷】【木】【光】【闇】【力】【心】【守】【覚】と12の種類があるんだ。あと、基本的に自分のステータスは他人に言わない方が良いよ。知られると悪用されるかもしれないからね」


「はい」


「でも凄いなレティスは。【火】【風】【光】【力】【覚】、生まれつき五つも権能を授かっているのか。さすが勇者だな」


「すごい?」


「ああ凄い。生まれつき権能を授かっている人のことを『祝福者』と呼ぶんだ。この『祝福者』はおよそ30人に1人しかいない。そしてほとんどの場合、授かる権能は1つだけだ。ちなみにパパも『祝福者』だよ。生まれつきの権能は1つだけ、【土】の権能だね」


「つち?」


「【土】の権能を持っていると、土を操作したり、魔力で作った石を飛ばしたり、壁を作ったりする魔法が使えるんだ。権能はレベルを一定まで上げると神殿で儀式を行って後から授かることもできるんだ。……まあ魔法はもう少し大きくなったら勉強しよう。それまでは体内にある魔力を感じて動かす練習とかしてみると良いよ。やり方は後で教えるね」


「うん」


「レベル上げ、魔法以外となると、やっぱり剣術とかの鍛錬をして熟練度を上げることだな。鍛錬だけだとレベルは上がりにくいけど熟練度はある程度まで上げられる。まあ熟練度を上げるのもけっこうたいへんなのだけどね」


「どうして?」


「例えば剣の熟練度を上げたければ、ひたすら剣の鍛錬をして実戦でも剣を使って敵を倒すしかない。途中で弓に持ち替えたりすると剣の熟練度は上がりにくくなる。それに剣の熟練度だけ上げていると、遠距離攻撃してくる相手には不利になる。

 魔法も同様だ。火の魔法を使い続ければ火魔法の熟練度は上がるけど、他の熟練度は上がらない。そして火魔法だけだと、例えば火魔法が使いにくい水場で戦うことになった場合は、こちらが不利になる。要はバランスが大事ってことさ」


「うーん……」


「まだ難しかったかな?このへんは少しずつ勉強していけば良いさ。焦ることはないよ」


 改めて考えてみると赤ん坊にする話じゃないよね。生後半年の娘にこんな物騒な話をしたらダメだろ俺。

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