ヴィオベ

シファニクス

ヴィオベ

 社会人1年目。

 新卒私、普通に会社怠くて萎える。


 呟きながら働く日々、上司クソ。あいつキモい。

 私より10歳以上年上のくせしてミスばっか、仕事ほんとに覚えてんの?

 やっぱ無能、入る会社間違えた。

 フツーにみんなと同じとこ行けばよかった。


 自虐→群れるの大好き。同類大好き。


「よし! 新卒の皆も仕事に慣れて来ただろうし、親睦会でもどうだ!」


 うへー、ダル。

 でもしゃーなし付き合ったる、どうせ家帰ってもやることないし。

 一人暮らしの部屋って思ったよりつまんない。さっさと実家出たいって思ってたけど、一人部屋と大差ない。むしろご飯出ないし損。→奢って貰えるなら楽。


 #めんどい


 親睦会つうんだったら親睦しろや、酒カスどもが。

 酌の仕方なんて知らないでーすせめて教えろあほ野郎。

 何人か酔いつぶれてるし。


「はぁ、とんだ茶番だ、クソ野郎」


 マジそれ、同意見。

 隣の上司だった。あほ馬鹿間抜け、やること出来ないろくでなし。でも、意見は合うらしい。


 机突っ伏すクソ男、10歳しか変わんないのになんでこいつはこんなだらけてて私まだ背筋正してんの? あほでしょ。

 酒は嫌いだったけど、レモンチューハイならアルコール臭控えめでまだいける。一気飲み。これくらいしないと誤魔化しせない。


「好きになれる女はいない、仕事は金のためにやってる、趣味も無い。茶番じゃねぇってんなら、なんだってんだよ」

「それな~」

「ん? お前みたいな若造に何が分かんだよ」

「女舐めんな、男と一緒にしてんじゃねーっつの」

「はぁ? 調子乗ってんのか」


 べろっべろで何言ってんだこの酒カス。

 女の方が社会的に上なんだよばーか。手ぇ出して見ろ、ボタン三つでてめーは豚箱行きよ。


「なぁおっさん」

「んだよ」

「そんなに暇なら今夜、抱かれてあげよっか」

「は?」


 同じ年に入って来たイケメンも、今は有名企業な幼馴染も、昔憧れてた先生も。

 どいつもこいつも、ほんとの私を知りはしない。じゃあ誰だって一緒だし、一緒ならせめて、意見一緒のやつがいい。

 男とするのは初めてだけど。


 どっかの誰かが、男に抱かれるのが女の幸せって言ってた。

 どうせ嘘だろうから、私が証明してやんよ。


 酒に酔っていた目の淀みがくっきりと浮き出てた。たぶん、生きてるってああいうのを言う。


 酒を使いこなせれば、一晩くらい体はやるよ。どうせ、私一人じゃ重すぎて使いきれてなかったし。


 一志って言うらしい。名前だけは一丁前だからマジウケる。呼び慣れない名前の響きに、何度か呼ばないと慣れなかった。一志はあんなって呼んでた。どんな漢字だと思ってたんだろ。

 杏奈? 安奈? ちげーよばーか。教えただろうが。


 ひらがなだよ。名前も漢字にしないのがウチらの世代だ、舐めんなドくず。


 幸せかどうかは知らんけど、女とするよりは気分が晴れた。


 散らばる髪を束ねて纏め、いつもの尻尾を作ろうとして気付く。


「あれ、ゴムどこ行った」


 まあいいやと横になり、視線を上げると9510。

 帰る気力も無かった。どうせ金曜だし、泊るくらい、おつりが来るだろ。


 先に目が覚めた。冷蔵庫には一通りあった。三角コーナー覗けば、生ごみの塊。さっさと捨てろよ、だから臭いのか。

 シャンプーも髪痛むようなのしかなかったし、臭いきつすぎ。加齢臭には早いだろうがばーか。


 味噌とねぎと豆腐とわかめ。

 起き抜けで怠んとする体を引きずりながら、湧き上がるお湯の湯気を肌で受ける。家でもこんな格好しねぇ。

 てか、男物と洗濯するのって意外と嫌悪感無い。よっぽど親父が嫌いだったんかな。


「ウチ、馬鹿でしょ」


 自虐になってるか分からん。ワンちゃん褒めてる。


 塩味濃すぎ? 使った分考えればダトー。あのアホの目冷ますにはこんくらいが十分。もち、ウチは薄める。

 一個しか無い皿に二度目の盛り付け。


 顔しかめて寝てんじゃねぇよ、右手滑らすぞ。

 踏んでやれば、嬉しそうに起き上がる。寝惚けてんのか。


「起きろカス」

「……ん、あ?」


 何目見開いてんだアホ野郎。切り落とすぞ。


「……なあ、血」

「うっさい、いいから食え」

「……分かった」


 生真面目だった。

 きつすぎる臭いを付けて一志が戻ってくる。


「これ」


 Yシャツ一枚。

 変態か。


「新品だ。他よりマシだろ」


 気にしないんだけど←シャットアウト

 大っ嫌い←フェイクアウト

 好き←フェードアウト

 ウチ←ダウト


 まあ夏だし、こんなもんでもいっか。

 揺れるエアコン、流れる白い雲、うっさい高速。

 背もたれから伸びをしてると、逆さまのブラが外で揺れてる。

 ゲッ、もっと可愛いのつけときゃよかった。や、分からんか。


「っ、味噌、濃くないか?」

「十分。水も飲んどきな」

「……そうるすよ」


 素直なのはよろしい。言われたことは出来るやつ。

 頭撫でてやろうとしたら、避けられた。恥ずかしがりか。


「どーてー」

「うっせぇ」

 

 なんか口元緩む。

 顔眺めてると、恥ずかしそうにするけどちゃんと飲む。

 なんかやっぱ、ウチら似てるわ。一志もそう思わん?


「思わん」


 そう言って一気に飲み干して、突き出してきた。


「お代わり、あるんだろ?」


 今度はちゃんと薄めてやった。

 

 社内恋愛禁止じゃなかった。

 一緒に居ると、時々楽しかった。普段は出来損ないだけど、やれって言えばやる、教えてやればちゃんとできる。なんでウチが教えてんの? 逆でしょ。

 でもちゃんと支えてくれる。下手だしどんくさい、察し悪いけど、嫌じゃない。


 好きじゃないから付き合わないから、好かれてないから付き合わないとか。我が儘言うな、馬鹿らしい。いいだろ、嫌われてないんだから。

 何がダメなんだよクソ社会。泣いてやった。


 女の涙くらい拭って見せろよ、ろくでなしには出来るぞ。


 だっるい体引きずって、時々心から笑って見せる。これだけで十分。

 ウチ大人だし、一人で全部できるから。


 これが恋だって言うんなら、ウチはラブソングは歌わない。別に失恋も歌わない。ただ病みソンだけ歌ってやり過ごす。別にいいだろ、表現の自由だ咎めんな。


 やめにしない? なんて言ってみろ。

 フォルダ覗きながら、嘘つきを口にする。鏡のウチは頭振ってた。内カメ、最近映えない。笑顔の作り方忘れたなぁ。


「にぃ」


 無理やり口端上げてみると、結構可愛い。流石ウチ、腐っても女。


「マジ、とんだ茶番だろ」


 しゃーなしの付き合いが愛なら、ウチはドラマはもう見ない。

 代わりに、笑顔のウチを眺めてる。これでウソならもうなんだっていい。


 ママって、どんな恋をしたんだろう。


 ヴィオレな日々が続いてく。鉄分寄越せ。


 #幸せ

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