嫌がらせ 6-3

「ない」

 次の日登校すると隣からそんな声が聞こえてくる。

「どうかしましたか?」

「教科書がない」


 詳しく聞くと国語の教科書がないと言う。

 机の中や、周辺を見渡すが見つからない。


 ふと視線を感じ見ると大原さん、大原さんの取り巻き2人が、こちらをみて薄らと笑みを浮かべていた。


(ああ、くだらない)

 内心ぼやき頭に血がのぼるのが分かった。


 視線を無視して2人で探すがやはり見つからず事情を先生に説明し、国語の時間は席をくっつけて授業を受けることに。


 放課後教科書を探してから帰ると言うので手伝い、思い当たる場所を探すが見つける事はできなかった。


 仕方ないと家に帰る。

 橘凜は食事中、母と話しているとき普段と変わらない様子だった。

 いや、そう魅せている気がした。

 寝る前にトイレに行こうと部屋を出て橘凜の部屋の前を通ると。


 鼻をすする音が微かに聞こえた。

 部屋に入り話を聞こうと引き戸に手をかけた所でやめた。

 モヤモヤした感情が残っている中、無理矢理眠り朝を迎えた。

 ――

 教室に入り自分の席でだらーとしているとクラスメイト数人がこちらに近づいてくる。


「橘さんこれ」


 神妙な面持ちで何かを持ち橘凜に話しかける。

 手に持っている物をよくみると水に浸かっていたのか、渇いた所はボロボロになり渇いていない所はシナシナになった国語の教科書がそこにはあった。


「昨日掃除してたら見つけて」

「そう、見つけてくれてありがとう」


 お礼を言われて気まずそうに自分の席に戻っていくクラスメイト。

「さすがにこれはやりすぎだろ」


 言っていて自分でも頭に血がのぼっているのを感じた。

 席を立ち昨日の反応から犯人で間違いないだろう大原さんの所に一言、言ってやろうとしたがそれを察したのか橘凜が俺に視線を向けかぶりを振り待ったをかけた。


 何もしなくていい。

 そう言われた気がした。


「でも、これはいくらなんでも」

「...お願い」


 表情はいつもと変わらず、しかし声音はどこまでも冷たい、冷え切った音がした。

 結局その日はなにもできず放課後を迎え家に帰った。

 夜、昨日と同じく寝る前に橘凜の部屋の前を通る。


 鼻をすする音と、涙を流しているのか、声にならない、声が聞こえた。

 ――

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