愚痴を吐きます

暁夜雨

クラスTシャツ

ここは大通りから外れた路地裏にあるカフェ。お世辞にも客が入っているとは言えないが、店長が言うには趣味でやっている店だから問題ないとのこと。そんなカフェには時々男子高校生とアラサーがやってきては男子高校生がその日の愚痴をアラサーに吐いて帰るという奇妙な習慣がある。もちろん逆の時も。みなさんも一度このカフェに来て聞き耳を立ててみてはいかがだろうか。きっと共感できるはずだ。


カフェの入り口が開き、カランカランと扉に取り付けたベルの音が鳴る。

「お、もう来てたんだ。早いね」

アラサーが男子高校生のほうに来る。男子高校生はアラサーをジト目でみる。

「今日は委員会の仕事がなかったんですよ。言ってませんでしたっけ?水曜は仕事ないって。なんか先週も言った気がしますけど。それよりそっちも早いですね」

「言ってたっけ?ま、いいや。今日早いのは仕事がひと段落したからだね。大きなプロジェクト終わってようやく落ち着けるんだ」

「それは乙です。とりあえず今日の愚痴聞いてもらっていいですか。」

「いいよー。それが楽しみでここに来てるからね。」

「実はですね、そろそろ文化祭が近づいてきたんですよ。それでクラスでTシャツを作ることになったんですよ。」

「別にそんなおかしくなくない?文化祭でTシャツ作るとか普通じゃん、青春じゃん!文化祭でTシャツ作らないとか青春の楽しみを7割は損してるよ!」

「いや、別にTシャツを作ることはいいんですよ、作ることは。」

「なんか含みのある言い方だねぇ」

「体育祭でもTシャツを作ったんですよ、だからそれをもう一回使ったほうがよっぽど効率的だと思うんです。あと金浮くし。そもそもですよ、うちの学校Tシャツを作るのも買うのも自由なんです。なのに体育祭のプログラムとかTシャツ着ないと絶対に周りから悪目立ちするのがあったり、そもそも希望するときに買わないって選択肢がなかったりしてTシャツを作って買うのが当たり前みたいな風潮があるんですよ。しかもおそらくそれ体育の成績にも入ってて。なんで希望制なのに学校側が買うことを前提としてプログラム作ってるのがイラつくんです。これがまだ教材費とかから出されてその予算内で、クラスのTシャツを作るのはいいんです。だってそもそもそのためにお金が徴収されて、クラスTシャツを買う前提でプログラムを作ってるわけだから。でも希望制なら買わない前提でプログラムを作ってるわけですから。しかもTシャツをわざわざ文化祭と体育祭で二回も作るんですよ!資源の無駄だと思いません?あれだけ学校がSDGsを主張していたり、資源を大切にっていってたりするくせにこういうところをなんで徹底しないんですかね。あとクラスの中にクラスTシャツ作ったほうが団結感が上がって作業とか練習の効率がいいとか言ってる奴いますけど絶対効率悪いですから。その程度で団結感上がらないし、そういうやつに限って計画性ないですから。ついでに言うとこういう希望制のものって金出さない親とかいるじゃないですか、あくまでも希望なんだから自分の金で何とかしなさいう人。その考え方は間違っていないと思うけど買うしか選択肢のないときはどうすればいいのかと思いますよね。こういうところでも自分に負担がかかってくるんですよ。どう思います?」

男子高校生は呼吸を整えながらアラサーのほうを見る。アラサーは何度もうなずいている。

「わかるよ、わかるよその気持ち。私もそんなんだったからね。正直言ってクラスTシャツはいらんと思うよ。さっきはあんなこと言ったけど、正味友達さえいればどうとでもなるからね」

「友達いないんですけど」

「うん、私は何も聞かなかったよ。そろそろ時間だね。またね」

「はい」

そういってふたりは町に消えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

愚痴を吐きます 暁夜雨 @em36541160

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ