被り物

「姫様、お手紙が届いております。拝読しますか?」


「大丈夫です、ありがとう。それより今日の夜の準備を進めてほしいので。」


「わかりました、失礼します。」


真っ白なひとつの手紙を、メイドが私の部屋に持ってきた。


「こんな手紙………普段全く送られてこないのに。なんだろう。」


丁寧に作られた手紙だったからきっと大事なことが書かれている。そう思って今日はメイドに拝読を頼まなかった。



手紙が破けないように慎重に開いていった。


中に入っていたのは長い文章が書かれた紙一枚と、オレンジの花。


「これ、まさか、そんなっ。」


ドンッ!


部屋の重い扉を開いて、すぐ近くにある娘の部屋に向かった。


コンコンッ


「はーい。」


静かに扉を開く娘を急かすように、私は手紙と花を渡してすぐその場を離れた。説明なんてもはや不要だった。


「え、これって………」

「これってほんとっ!!!」


厚い扉の向こうからは娘の明るい声が聞こえる。こんなに嬉しそうな声は何年振りに聞いたかな。


何だか私もドキドキする………


女王は手紙が送られてきた当時を振り返り、心臓の鼓動を早めていく。あの時の運命の出会いを思い出して。



「私にもついに送られてきたんだ、!ラブレターが!」



 ◆

「手紙を送った!?あの娘にか?そんなやつどこの馬の骨だよ、意味わかんねえな。」



「えっと、噂によると手紙を送ったのはオレリアンっていう少年らしいです。」



「まあ、どうせ金目的だろ。あの一族で、あんなに醜い顔の娘………」

「誰が本気で愛すってんだよw」



「予想は大当たりですよwオレリアンは町でも有名な貧乏さん。」



「ははwそんなこったろうと思ったぜw」

「それで、顔合わせはいつなんだ?そのオレリアンっていうやつの顔を一度拝んでおこうw」


「おそらく、顔合わせは来週のどこかでしょう………」



 ◆

「マシーさん、行ってくるよ。」



「ああ、気をつけてな。特に民衆には注意していくんだぞ。」



「はい。」



目立たないよう、全身黒い服装に帽子を深々と被る。俺が目指すのはあの国の中央にある巨大な城。ついに今日が王女との初めての顔合わせだ。


国中が俺の噂で持ちきりになっていて、民衆に見つかればどうなるか分からない。


「頼む、誰にも見つからないでくれ。」


姿勢を低くして、音も立てないように、ゆっくりと城に近づく。だが、城に近づけば近づくほど民衆はどんどん増え、徐々に姿勢を低くして歩くことが困難になっていった。


「やばい、バレる………」そう思った時だった。



「オレリアンは同じ家に住むマシーという人に拾われた子らしいぞw」



「なんだそれみっともねえwだから貧乏なんだなw」



………ダメだ、抑えなきゃ。抑えろ俺!

自分のことを馬鹿にされたこと、さらには俺命の恩人であるマシーさんのことまで馬鹿にされたこと、この二つで俺の怒りはあっという間に頂点に達した。でももしここで、手なんか出してしまえば今回の話は無かったことになる、そんなの絶対にダメだ。


俺は好きなんだ、あの人のことが。この世で1番、大好きなんだ………!



「あいつは貧乏だから今のうちに楽に結婚できそうな王女を狙ったんだろうなw」



もう城の手前だ、早く行こう。こんな場所、耐えられない………!



「っ!!」



ブワッ!!!



深々と被っていた帽子が走り出した瞬間に風によって吹き飛ばされ、自分の顔が城の近くにいた民衆に晒されてしまった。



「おい、あいつだ!いたぞ!城に入った!」



「あいつが国で1番の変わり者、そして貧乏w」



「オレリアンだ!!」



「はぁっ、はあっ、なんとか城の中までこれた………」



民衆の声を必死に振り切り、ようやく城内へと俺は足を踏み入れることができた。



「いらっしゃいませ、オレリアン様ですね。あちらの応接室でお待ちください。」



息を切らしていた俺とは真逆で、落ち着いた言葉、風貌をして俺に話しかけてきたのはエプロンドレスを着た女性だった。こういう人が有名なメイドさんって言うのかな。昔好きだったファンタジーにもメイドさんという役職があったから覚えている。



「わかりました。」



何度も深呼吸をして体を落ち着かせながら、応接室で王女を待っているとドアの奥から徐々に足音が聞こえてきた。



コンコンッ



「失礼します。」



「あっ!初めま………」



立ち上がって挨拶をしようとした時、俺が本気で一目惚れしたその顔が、大きな被り物で隠されていたのに気付いた。



「オレリアンさん、こんにちは。」

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