海の女の子

ちま乃ちま

あたしね、うみになるの!

【あ】 「あたしね、うみになるの!」


【い】 いつも私が散歩している浜辺に5歳くらいの見知らぬ女の子がおり、突然私に話しかけてきたが、私は小さい子供の単なる願望かでたらめだろうと思って軽く流した。


【う】 「うん、そうだね、いつかきっとなれるよ」


【え】 笑顔の女の子は私の袖を引っ張って海の家へと連れて行った。


【お】 女の子は海の家に到着すると私にこう言った。


【か】 「かきごおりたべたい!」


【き】 気温も昼の4時という一日で一番暑い時間を少し過ぎた頃だったので、私は女の子に引っ張られるままに海の家へと入った。


【く】 「くーだーさい!」


【け】 「元気だねえお嬢ちゃん、いちごでいいかい?」


【こ】 「これがいい!」


【さ】 さしたのはブルーハワイだった。


【し】 「しゃ、わかったからちょっと待っててな」


【す】 すぐにお店の人はかき氷を作り始めて、あっという間に女の子の手にかき氷が渡った。


【せ】 席に座ると女の子はすぐにそれを食べ始めた。


【そ】 「それおいしい?」


【た】 「たっくさんたべれるくらいおいしい!」


【ち】 小さなお口を目いっぱい開けてニコニコしているのを見るとこちらまで笑顔になってくる。


【つ】 机には空っぽになったかき氷の皿がポツンと置かれた。


【て】 「てとてをあわせて、ごちそうさま!」


【と】 「突然だけどあなたのお母さんってどこにいるの?」


【な】 なんとなく迷子だろうなと思ってかき氷をごちそうしてあげたが女の子のお母さんが近くにいるのなら誘拐犯になりかねないので、空気を壊したくはないが聞いてみた。


【に】 ニコッとしながら女の子は海の方を指さした。


【ぬ】 ぬっ、と女の子は手を出して、私を掴んで海の方へと引っ張った。


【ね】 「ねえねえ、お母さんはどれ?」


【の】 「のりたい!」


【は】 走って、女の子は近くにいたお姉さんが持っている浮き輪に体当りした。


【ひ】 「ひゃっ!」


【ふ】 「ふふっ、あはははははっ!」


【へ】 「へっ……、あっ、す、すみません!」


【ほ】 「本当に注意してくださいね」


【ま】 待っているはずもなく、女の子はすぐに海の方へと走り出した。


【み】 「みてみてー!」


【む】 無地でピンク色をした浜辺に落ちていた貝殻を拾って私に見せ、私の手のひらを無理やり開いてその貝殻を私の手のひらに押し付けてきた。


【め】 目を細く、緩やかなカーブを描かせながら女の子は突然その瞳に涙を浮かべ始めた、というより顔から汗ではないような液体が現れ始めた。


【も】 「もう、どうしたの?」


【や】 「やだあ、もっとおねえさんといっしょにいたい……!」


【い】 いきなりのことだったが私は察してしまった、この子は本当に海になるのだと、はじめに出会ったときから嘘を言っているわけではなかったのだと。


【ゆ】 ゆっくりと優しく、私は女の子の涙を私のハンカチで拭った。


【え】 「えっと……急にどうしたの?」


【よ】 「よんでるの、おかあさんがこれいじょうにんげんとかかわるな、はやくこいってよんでるの」


【ら】 ライトアップされるかのように突然登ってきた月によって作られた月光によって海に一本のランウェイが出来上がっていくのと同時に、ザーザーと女の子を迎え入れるかのような音が聞こえてきた。


【り】 りゅーっと女の子の小さな手が、足が、体がだんだん液体へと変化していくのを見ていると女の子は本当に海になるのだなと思ってしまう。


【る】 涙眼に何故かなりながらも、私は女の子には最後まで笑顔の私を見せようと涙を流さないように頑張った。


【れ】 冷水が、しかし私の頬をすべり落ちた。


【ろ】 6時になったくらいだろうか、女の子は海へと海へと、ゆっくり歩き始めた。


【わ】 「わっ、あっ、えっと……、きょうはたくさんたくさんありがとう、あたし、うみになっちゃうけど、りあおねえちゃんにたくさんたくさんあいにいくね!」


【ゐ】 「ゐつかまた絶対に会おうね、じゃあね、またね!!!」


【う】 「うん、りあおねえちゃんまたね、ばいばい!!!」


【ゑ】 笑顔の女の子は月光のランウェイを歩きながら海へと姿かたちを変えていき、仕舞いには海へと消えていってしまった。


【を】 をかしな夢のような一日だったなあ。


【ん】 「んーーっ、またね、海の女の子」



















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