第11話 大きく見える月(エリザベート/ティオール・天使)
死ぬのは初めてだ。
無論二度も死ぬ人間などいるはずはないんだけれど。
僕の名はエリザベートという。
そんな僕が、生前(よく考えるとおかしな言い方)暗殺稼業をやっていたなんて、あの人たちが知ったら卒倒するだろうか。
……しないな。あの人たちは僕を愛してなんかいなかったから。
僕のことを放っていても知らんぷりだったな。
そう考えて、はっとする。
あの子はどうしただろうか。僕が人生でたった一人、弟子にとった少女は。
一人にさせてしまったな。死んでしまってごめん、と言ったところで届かない。
あの時拾ってあげなきゃよかったのかなあ、なんて思う。いくらそれが世界で一番強いからって、人の殺し方なんて教えなければよかった。糸の使い方なんて役に立ちゃしないし、なんなら此の世界で鼻つまみ者になるだけかもしれない。
それでも、僕はあの子を愛したかった。僕のやり方が愛じゃなかったとしても。
目に映る、大きく白い月を見やる。
僕は死んだから知りようはないけれど、もしかしたらあの子も、僕のように弟子を取ったかもしれないよな。ああそうか、僕が死んだからあの子は今、世界で一番強いんだ。
それとも僕を殺したあの子供のほうが強いかな。
殺そうと思って確実に殺せる才能と、殺そうと思わなくても確実に殺す才能ならば、どちらが強いのだろう。
制御が効かないという点では、後者のほうが弱い。とすると、ストッパーを何らかの方法で掛けることができればあの子供は最強にだって成りうるだろう。
ただ、成りうるというだけだ。だって、エリー――僕の見込んだ少女は強い。
弟子を取らないと決めていたこの僕が、うっかり教えてしまうくらいには。
……子供とエリーは多分同じ所の出だろうな。『人を殺すこと』を体現した人間を作ろうとしていた
エリーは不変的だ。出会ってから七年経つが(経ったが)、エリーは十二歳になってからまったく背が伸びていない。おそらくそれも研究室の研究成果の一つだろう。理想は不老不死といったところか。
人の世に紛れることが難しそうだから、僕が面倒を見てやりたかったんだけどな。
殺されちゃった。
こうもあっさり自分が死ぬと思わなかった。
「成仏しないの?」
黙って月を見ていると、さっきまで喋っていなかった天使さんが話しかけてきた。
「うーん、成仏してあの子と会える?」
「知らないけど。そっちの子が望めば、来てくれるんじゃない?」
……エリーが望まなかったら会いに行こう。
「うん、じゃあ往こうかな。いつまでもいても迷惑でしょ?」
眩しいほどに大きい月だ。
目を瞑って、天使さんに手を伸ばした。月が眩しすぎたから。
見つめていたら、悲しくて泣いてしまいそうだったから。
「エリザベート・ティオール。成仏許可」
さよなら、
また会う日まで。
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